プロローグ
『いじめは死ね!!』
殴られて、土の地面に倒れこみながら頭の中で叫んだ。
僕の顔が女みたい。
たかがそれだけの理由で上から見下してゲラゲラ笑う男どもが、心底憎かった。
「オラどうした男女!!」
「うぐっ!!」
脇腹を蹴飛ばされて、僕は呻いた。
何が面白いのか、僕の呻き声を聞いてますますノッてきたらしい男どもは、「ひゃっほーう」とかいう、いかにもバカっぽい奇声を上げて蹴ってくる。
『バカでいじめっ子とかどんだけゴミなんだよ』という内心を隠して、
「やめてよっ!!」
僕は懇願した。
けれど蹴りの応酬は激しさを増すばかり。
「やめてよだぁ!? 女かよてめえは!!」
「ひゃひゃひゃっ!! きっめーーっ!!」
何が気に障るというのか、怒鳴り声と頭の悪い奇声を吐いて、さらに力を込めて蹴ってくる。
いや、マジで痛いから。
「もはや人間ですらねぇよこいつ」
「うぎゃっ!!」
『人間に決まってんだろ。お前、頭おかしいんじゃないの?』と心の中で毒づきながら、呻き声を漏らす。
「おい、こいつ立たせろ」
主犯格、城島の一声で蹴りの応酬が止み、後ろから両脇を抱えられ、軽々と立たされた。
僕程度の身長と体重なら、この野蛮人どもにとってはどうということもないのだろう。
正面に立つ、巌のような城島の顔が愉悦に歪んでいた。
「おらぁっ!!」
「おぐぅっ!!」
岩のような拳が、僕の腹にめり込んだ。
一瞬呼吸が止まり、次の瞬間、強烈な気持ち悪さと奥から湧き上がってくるような鈍い痛みに襲われる。
「やっぱ殴るなら腹だぜ」
「次俺なっ!!」
「うぐぅっ!!」
「もういっちょ!!」
「ぐぅっ!!」
次々にめり込んでいく。
こいつらはバカでも、体力だけは普通の男子高校生を超えている。
これはシャレにならない。死んでしまう!
薄れかけた意識の中、そう思った。
こいつらの機嫌が、いつもより悪い。それはクラスの誰かが担任に、僕がいじめられていると報告したからだ。
それで担任が適切に動いてくれればよかったのだが、やつはこともあろうに、『斑尾煌輪をいじめているというのは本当かね?』と、こいつらに直接聞いたのだ。
当然、肯定するはずはない。
いじめ問題は解決せず、むしろこいつらの機嫌を損ねただけとなった。
「真空とび膝蹴りぃっ!!」
「おっ……!?」
その時、一際強烈な一撃が僕の腹を抉った。
ぐちゃりという音がしたのかどうかは分からない。
けれど、そんなような音を感じて、体の中の何かが壊れたんだと気づいた。
「うっ……うぐぅっ……」
温かいものが競り上がってくる。
鉄のにおいが先行し、
「ごはぁっ!!」
「うおおっ!?」
僕の口から、信じられないほど大量の血が飛び出した。
「おい、これやべぇぞっ!!」
「お、俺知らねぇっ!!」
「あっおいっ!!」
あぁ、これはだめだ。
遠ざかる足音を聞きながら思った。痛みは不思議と無かったが、体にまったく力が入らない。
血が不足しているんだ。
意識が薄れていく。
死ぬのか、僕。走馬灯なんて見たくないな。
いいことなんて一つもない人生。そんな人生を見返すなんてことしたくはなかった。
せめて僕が死んだあと、あいつらがひどい目に遭えばいいと思うが、それも期待できそうにない。
過失だとか事故だとか適当に片づけられて、少年院だかに数年籠って出てくるだろう。
いや、それすら怪しい。
あいつらが大した罰も受けずに、この先ものうのうと生きていくのだと思うと、怒りとやりきれなさでいっぱいになる。
悔しいな、畜生。
いじめるやつも、見ていてそれを見過ごすやつも、みんな死ねばいいんだ。こんなゴミ虫どもに人権なんて必要ない。
だから最後に、僕は呪う。
「……いじめは、死ね……」