嘘と真
いつもより少しだけ長めです
「だまされている……?」
魔物は確かに言った。俺は魔物で魔王の魂を引き継いでいると。レベルが上がらないのは人間ではなく魔物だからであると。
人間の姿をとれる魔物はさっきの魔物も含めて存在が証明されている。それなのに騙されているという根拠がにわかには信じがたかった。
「そう、君は騙されているんだ。その前にこっちも自己紹介させてもらうね。私は占い師の鎧。鎧って呼んで」
本当に本名なのかこれは。どうでもいいことが頭に浮かぶ。というか占い師がなんで鎧着てるんだ。
「私は魔法使い……魔女って呼んでくれればいい。そこに寝てるのは侍」
「僕は科学者、メガネでいいよ。ああそうそう、みんな名前を名乗らないのはたまに名前からその人に化ける能力を持ったモンスターがいてね、それの対策さ」
よかった、本当は本名があるんだ。本名がメガネとか鎧とか言われて正直ビビッていた。
「僕は勇者、勇者って呼んでくれ。森で強いモンスターの反応があったから君を助けたんだ。強いのは魔界から来たモンスターだけだと思っていたから、正直油断してた。危険な目にあわせてすまない」
勇者が頭を下げるが、助けてもらったのはこっちだ。魔物に対しては容赦のないというか危ない思考の持ち主だが、人に対してなら優しい人なのかもしれない。
「その、なんでみなさんはここに?」
疑問をぶつけてみる。勇者なら旅に出ててしかるべきだと思っていたが、なぜこの城にいるのだろうか。
「私の占いで、ここに危険な魂とそれを奪いにくるという予言がでたからさー」
鎧が言うには、旅する目的地は占いで決めていたらしい。旅をするときに目的が魔王討伐だとしてもただ闇雲に旅にでるのは危険だということらしい。
「でも、前の勇者達は占い師の人は連れていなかったんじゃないですか?」
そう、約三十年前魔王を討伐したPTメンバーは勇者、聖騎士、守護騎士、巫女、賢者。この五人だったはずだ。教科書にそう書かれていた。
「彼らは初代勇者の道を追っていたのさ。ある目的のためにね」
初代勇者。それは遥か昔、勇者が一人で魔王と倒したとされる時代の物語。正直どうやって一人で倒したのかは定かではないが、その時に辿った道筋が今も語り継がれている。
その場所には、勇者が女神に託されたとされる、祝福されたアイテムを御神体として残している。それは魔除けとなり、冒険者たちの心を強くするという効果があった。
しかしそのルートは魔界に向かうにはややおかしなルートなため、現在では使う人は極少数。というよりもたどり着けない場所すらあると言われている。
「ある目的?」
「そう、その目的というのが最後の一人のPTメンバーの強化さ」
「最後の一人?六人目がいたって事ですか?」
現在のPTは六人で組むことができる。正確には何人でも組めるが、仲間のステータスからの恩恵を受けられるのが六人までとされている。七人以上となるとバフの効果がなくなりメリットが数の暴力だけになる。
前回の勇者達は五人だったため、確かに空きはひとつある。聖なる力を宿す職業でがっちり固めているため五人でも全く不足なく戦えるという話だったはずだ。そこに六人目のパーティメンバー……。
「その職業は、物まね士。幻とされている職業さ。多くは謎に包まれているが、確かに存在している」
鎧はまるで見てきたかの様に話を始めた。
「三十年前魔王を倒した時、魔王は最後の力で呪いを全員にかけようとしたんだ。倒したと力を抜いた勇者達はそれをもろに受けそうになった。その時いち早く気づいた物まね士がみんなをかばって全ての呪いを受けてくれたんだ」
勇者達は確かに全員無事に帰ったとされている。でも考えてみれば魔王がただでやられるというのも考えづらい。魂を逃がした話でもこっちの話でもどちらでもやってのけそうだ。
「時間稼ぎだったんだろう、魔王は呪いを放ったあと勇者に切られ死んだ。そしてそれを追うように物まね士も息を引き取ったんだけど、最後に嫌な言葉を残していてね」
「その言葉っていうのは」
「魔王は死んでいない、魂だけ逃げた、俺がやつを追うから後は頼んだ、と。彼は寡黙な人だった、旅の途中でふらっと現れて仲間になったけど、自分のことはあまり話さず重要な事はなんでも知っているという風だった。どこから来たのかも知らないし、何が目的だったのかもわからない。しかし一つわかっていたことがある。彼はどんなに戦闘をしていても経験値が入らなかった。つまり、ずっとレベル1だったのさ」
「どういう、ことだ」
俺と同じくレベル1の誰かがいた。それは嘘のような話でもあるし、本当のようにも聞こえる。
「そ、そもそもなんでそんなに詳しいんだよ。まるで見てきたような物言いじゃないか!!」
思考がぐるぐるする。落ち着かない、何か重要な話をされているような気がする。感情のまま叫ぶ。
「私は元守護騎士、かつて勇者のパーティにいた者だ。今では転職し、占い師になっているがね」
元勇者パーティの一人、守護騎士。年齢はもう五十近いはずだがそれを感じさせないくらい若々しい声と雰囲気を持っていた。見てきたように話すのは本当に知っていたからだったのか。
「彼は最後に追うと言っていた。死んだとしても何かきっと手がかりを残していると信じた私は、彼の過ごしていた場所を探させてもらった。その中には私たちに向けた手紙があったんだ。それがこれだ」
手渡されたその手紙を読んでみる。レベル1の手記はどんなものだったのだろうか。
仲間たちへ。これを見ているなら私は死んだのだろう。最後までいられなくてすまない。罪滅ぼしというわけではないが、ここに私の能力と頼みごとを書いておこうと思う。
私の職業は物まね士。かつて他人の能力をコピーできる者が、女神から呪いを受けレベルが1に固定されてしまっている。ここまではみんな知っていると思うがまだ秘密がある。みんなは私がまねできるのは人間の職業だけだと思っていたみたいだが、魔物の力もまねすることができる。そう、それこそ魔王だろうともだ。
といっても俺ができるのは能力のコピー、所詮は本物には勝てない。だから力不足で死んだのだろうし助けられなかった仲間がいるかもしれない。仲間にしてくれて本当に感謝しているし、命を捨てても助けるつもりでいるが、もしそうだったら本当にすまない。
勇者なら魔王を倒せるだろう。しかし魔王は必ず最後に何か仕掛けてくる、私は魔王の力をコピーしてそれをなんとしても食い止めるつもりだ。最強の魔の力をコピーすれば死ぬ可能性がかなり高くなるが、コピーだけが特技の私ではそれくらいしか役に立てないだろう。
予想としては自爆、即死の呪い、影武者、転生、実は魔王が二人いるなんてこともあるかもしれない。あげればまだまだキリがないが魔王の力をコピーすればわかると思う。
だから俺がみんなを守る。
みんなが無事に帰ってこの手紙を読んでいるならそれでいいし、俺が生きてれば読まれることもないだろう。みんなにはこれからは平和に過ごして欲しい。それが俺の願いだ。
ここで手紙は終わっていた。
「コピーが本物に勝てないなんて書かれているが、そんなことはない。私もほかのメンバーも誰も彼に試合で勝つことはできなかった」
過去を懐かしむように語る鎧はなんだかさびしそうにも見えて、物まね士に対して特別な感情を持っていたんじゃないかと思える。
「そんな最強の彼が、追うと言ったんだ。私たちを呪いから救っただけでなく魂だけになっても私たちを助けようとしている。私はそんな彼を探すことにしたんだ、この勇者達の子孫とともにな」
狂った勇者、狂った魔女、狂った科学者、狂った侍。勇者達の子孫ろくなのいないな……。
「それで俺が魔王の魂を持っているから殺しに来たんですか」
一番気になっていることを聞いた。そう、物まね士を探す旅をしているメンバーということは魔王を倒すことが目的にあってもおかしくないはずだ。俺を殺そうとするのも合点がいく。
「私は物まね士を追いかけていた。占いで物まね士の魂はここにあるとわかり、同時に先ほどの危険な魂があるという占いが重なってね。おかしいと思っていたんだ」
「どういうことですか……」
「魔王が転生したとしよう。そして物まね士がその転生を阻んだとしよう。この二つは矛盾しているように感じるが、さっきの君の話を聞いて納得が言ったよ。つまりこうだ、物まね士の彼は魔王の魂を半分にして、完全復活を阻止した」
確かに矛盾はなくなる気がする。
「君の魂が半分魔王だったとして、じゃあ残りの半分はどうなんだ?物まね士の言うことが本当だったならきっと君の魂の半分は物まね士のはずだ。そしてその証拠に君はレベル1なんだろう?」
「……」
つまり俺は、なんなんだ。
「私がしたいのは、君の中の魔王を消し去り、物まね士としての職業を手に入れて欲しいということ。つまり君には私たちについてきて欲しい。現勇者パーティで、物まね士として」