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ファルネは憂鬱

 流石に料理を持って外に出るのは止められたが、マスターが来てくれてファルネを貸してくれた。ファルネが一緒だったら料理も持っていって良いと持ち運びやすいようにしてくれたマスターに感謝だ。


「どこまで行ったんだあいつら……」


「トモキさんが止めれば良かったんですにゃ」


 ファルネの呟きは効かなかった事にした。外ももう暗いからそこまで遠くには行っていないだろうけど、ドンパチやり合うなら出来れば町の外には出ないで欲しいというのが正直な所だがあの二人には期待するだけ無駄だろう。


「ファルネは二人の声とか聴こえないか?」


 猫人なら遠くだろうとそれなりに騒がしい二人の声は聴こえるだろうと声をかけてみたがなんだか反応がよろしくない。どうしたのだろうか。


「ファルネ? 大丈夫か?」


 どこかぼーっとしている様子だったがゆっくりとこっちを向き口を開いた。


「……私が今ここで二人の事を見つけられなかったらこのまま何事もなく仕事に戻れるんだろうなーって現実逃避してましたにゃ」


「そうか、つまりわかるんだな?」


「……」


 ファルネはいじると良い反応を返してくれるのでついついいじりたくなってしまう。しかしこんなに遠い目をしていたりジト目を向けられると申し訳ない気持ちも少し沸いてくるような気がしないでもないような。


 というか状況を見てただろうマスターが快くファルネを貸してくれたのは、何か厄介事か楽しいことが起こるだろうと予測しているのだろう。妹が啖呵切って戦闘にならないわけがないと思っているのかもしれない。


 酒場はそれなりに忙しい時間帯だし一番素早く仕事できるファルネをよこしたのも、好きに使って良いぜってマスターの気前の良さが伺える。ただ単に自力で厄介払い出来る戦闘能力を持っているのがファルネだけなのかもしれないが。


 それでもこちらとしては助かるのでマスターには感謝しかない。


「何か納得してるようですが、マスターは何かあるといつも私を派遣するにゃ……」


 つまりマスターもファルネいじりが好きなんだな。通りで仲良くなれるわけだ。感謝しかない。本人は災難でしかないが。


「まあそう気を落とすなよ。今回は俺も一緒だからさ」


「元凶が何言ってるんですにゃ!? 煽ってたの聴こえてましたにゃ!」


「あの喧騒の中で俺たちの会話を聴きとっていたとは……やるな」


「トモキさんと一緒にいるエミさんはとても危ない匂いがするので注意してたにゃ……まさかトモキさんがけしかけるとは思ってなかったですにゃ……」


 げんなりしていたファルネには悪いが、昔は妹が大人しい時は俺の方が要注意人物だって散々周りから言われていたからな。冒険が始まってからその頃の気持ちが戻ってきた感じは否めない。


 げんなりしていたファルネだが、諦めたような顔をしつつ背筋を伸ばした。


「もういいですにゃ。なるようになれですにゃ。どうせ私はエミさんと試合させられてボコボコにされる運命ですにゃ。それまでに少しでも有利になるように戦闘風景を良く見させてもらいますにゃ」


 そういうとファルネはあっちですにゃと言いつつ俺を先導してくれた。どうやらあの二人の戦闘音が聴こえていたようだった。


(お前も集中すれば聴こえるんだがな)


「ああ……そう言えばそうか」


 マキに言われて思い出したが、ストラのおかげで能力がかなり向上しているんだった。魔の流れも見えるし集中すれば遠くの音だって拾えるはずだった。というかそれならそうと言ってくれればファルネの精神がもっと穏やかだった……いやだから言わなかったのか、流石だ。


 ちなみにファルネはそのまま帰っても良いと言われているので店員仕様の恰好ではなく普段着に着替えている。動きやすそうなパンツルックで料理を運ぶ姿はこれからピクニックにでも行くかのようだ。夜だけど。


 というか普通に帰る時間間際だったみたいだし、丁度良かったのかもしれないな。ファルネにとっては災難以外の何物でもなかったんだろうけど。


「なあファルネ、あいつらはどこらへんで戦ってるんだ?」


「町の外ですにゃ。普通夜は危ないですけどエミさんなら余裕だと思いますにゃ」


 夜になると魔物は狂暴化する。しかし魔物は狂暴化すると結界が不完全であってもその作用によって町の中には入って来られなくなる。それでも危険な事には変わらないので門を閉じたり兵士が居たりするのが普通だが、この町は襲撃やら何やらで人手が不足していてそれなりに放置気味だ。


 それでも夜の襲撃が無いことから町の中は安全なのだろう。妹にボコられた騎士のジャンはあれから夜間巡回もするようになったみたいだし、今までのサボリが嘘のような真面目っぷりでただ不満が溜まっていただけなのかもしれないと思うようになっていた。


「おいお前ら、あいつら何とかしてくれ」


 そんなことを考えながら歩いているとそのジャンが俺たちの前に走ってきた。


「夜だから町の外には出るなって言ったんだがな。私の強さに免じて! とかふざけたこと言ってきたから追い返そうとしたらもう一人と連携して出ていかれた。こっちは武装してるから力づくって訳にもいかねえしお前らを探してたんだ」


 どうやら逃げられたらしい。というか外に出方がテキトウすぎるし連携するくらい仲が良いなら町の中で戦ってくれと思わないでもない。特設リングだってあるというのにあいつらは。


「了解だ。迷惑ついでにこれでも食って落ち着いてくれ。差し入れだ」


 俺は酒場から持ってきた料理をいくつかジャンに上げることにした。仕事してる時に差し入れもらうと嬉しいし、なんだかんだでちゃんと騎士してるのになんか感動した。


 ちゃんと装備も手入れして入るっぽいし、顔は盗賊のお頭みたいだけど鎧が似合うのもなんか地味に羨ましいのもある。


「こいつはありがてぇ。遠慮なくもらうぜ」


 すっきりした性格だし、頑張れば村長とかマスターからも頼りにされるんじゃないかな。

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