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性癖

 ちょっと正体暴こうかと思ったらとんでもない性癖を語りだしたんだけど?


(お前が始めた事だ。ちゃんと収集つけないとエミちゃんもそこのアイドル崩れも大変な事になるぞ)


 うん、マキも急に毒舌でどうした?


「最初はただ虐められるのが好きだったの。私は小さい頃からちやほやされてたし言いたいこと言ってきたから目を付けられることも多かったの。そしていざ私に暴力とか嫌がらせとかしてくれて、でも近くから罵ってくれても良いのに遠巻きに私のことを見てくるだけなの。でも遠くからみじめな私を見てくれるのもそれはそれでありって思っちゃうから全然問題ないし、なんなら放置プレイの一種かと思って嬉しくて。でも私がそうやって嬉しそうにするとみんな虐めるのをやめるの、気味が悪いって。だから私は一生懸命年代近い子たちには偉そうに立ち振る舞って先輩っぽい人には媚びうって目を付けられるようにしたし、性的な目的は一回断るともっと無茶な要求が来ることがあるって聞いたことあるからそれもしっかり断ってもっとちゃんと虐めてくれるように期待してたの。それなのにみんなそれ以上手を出してこないの。それでも頑張って頑張ってそれ以上に目を付けられるように偉そうに振る舞ってたらいつの間にかご褒美とか言い出すやつ増えてきて私にもご褒美ちょうだいよ! って叫びたかったんだけど相手に感情移入することでこれはこれでもうありかなって思えてきて虐めたあとは私も自分でやった行為を自分自身で試したりして色々してたらアイドルみたいな扱いになっちゃってもう行くとこまで言ったるかってなっちゃって……」


 うん、思った流れとだいぶ違うね。


 どうしてこんなになるまで放っておいたんだろうね。初手から虐められるの好きってもうおかしいよね。


「それで虐めてくれる人探しついでに信者をあつめる事にして、そしたらエミちゃんと出会ってぼこぼこにしてくれて……うれしかったぁ……」


「あ、お兄ちゃんご飯おかわり」


「すいませーん、この肉と野菜の炒め物と串焼き盛り合わせお願いします」


「今まであんなにぼこぼこにされたことなかったからもう昂っちゃって昂っちゃって……」


「ここのご飯おいしいね」


「だな。母さんのご飯もおいしかったけどやっぱこうガツンと来る料理もおいしいよな」


「うんうん」


 自分でまいた種だがもう俺は無視することにした。というか自分でまいた種なのかと疑問に思う余地しかないと思うくらいの自白具合だったと思うんだがどうだろうか。


 Sという言葉に反応してたのは自分が本当はドがつくほどの変態Mだったからというのが良くわかったが全く分かりたくなかった。


 ちょっと驚かそうと思った結果とんだ藪蛇だったわ。


「ところでお兄ちゃんこの人誰なの?」


「今!? 今それなの!? わかって無視してるんじゃないの!?」


 全力で叫んだせいで少し注目を浴びてしまったけどそんなことどうでも良いくらい驚いたわ。


「あれ? 私も知ってるひと?」


「そうだよ!? 今散々いじり倒したリコちゃん本人だよ!?」


 気持ちトーンを落として妹に告げる。リコちゃんは姿を隠してきてる以上ばれたくないだろうからその配慮だ。


 こんな参上だからその配慮に意味があるかどうかはわからないが。


「じゃあお兄ちゃんはこの人がリコちゃんだってわかっててご飯ごちそうしたり色々話したりちょっかいかけてたのへぇーそうなんだちょっと表出ろリコ」


 あ、目のハイライト消えたやつやあかん。


(いや、むしろこれが望んでた結末なんじゃないか)


 マキの言葉を一瞬疑問に思ったが、リコちゃんの方はそれはもう嬉しそうに頬を染めて息が荒くなっていた。


「ああまたあの時のようにいたぶってくれるの!? こんな幸せなことが合っていいのかな嬉しいな嬉しいなでも手を抜いたら嫌だから私も抵抗するから本気でお願いね」


「安心してよ。私にはほんとにリコちゃんかわからないけど望むなら望むだけぼこぼこにしてやろーじゃんか! お兄ちゃんは私のなんだから!」


 二人は立ちあがり火花を散らしながら店の外に出ていった。敵意剥き出しの妹に戦闘を挑むなんてリコちゃん大丈夫だろうか。いや、大丈夫じゃないほうが好みなのか。


「俺は、あの性癖を聞いたあとに普通に接してる妹も怖いよ」


 怒ってるんじゃなくて親切心でぼこぼこにしに行ってるんじゃないかとか、性癖を理解しているからこそのあの仲の良さなんじゃとか、二人ともただ殴り合いたいだけなんじゃないかとか思う。


(よし、見学に行こうぜ)


「何が起きるにせよ嫌な予感しかしないけどな……あとよしじゃないだろよしじゃ」


「トモキさん、あれ止めなくて良かったんですにゃ……?」


「ファルネ」


 正直言って見慣れた光景だったから放って起きたかったけど、いつの間にか近くに来ていたファルネにも心配かけたんじゃ申し訳ないな。


 自分が案内した席のお客同士がガチンコやるぜーって勢いで話してたらそら責任も感じるか。


「ファルネ、すまないな」


「エミさんと戦って無事で済むとは思えませんにゃ。早く行ってきてください。エミさんに何かあっても一大事ですにゃ」


 相手の事を心底心配している。妹の戦う姿を見てるし、酔ってる妹と少しとはいえ戦ったことあるしな。


だが今回は杞憂だな間違いなく。酒場だから周りがうるさくてファルネには聞こえてなかったのかもしれないがこれぞまさにウィンウィンの喧嘩なんだから。


「とりあえずご飯持ってくの手伝ってくれる?」


「トモキさん……」


 完全に野次馬気分で観戦しようと思ってたら呆れたような目でみられた。


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