普通の再会
「ところでお兄ちゃん」
「ん?」
魔法という物理技を使ったあと、疲労の少ない腕に魔法を纏わせる練習中にそういえばという感じで妹が話しかけてきた。
「審判の使いの人が来たってだけでなんでずっとあんなに人だかり出来てるんだろうね」
そう言われて酒場の方を見てみると、朝来た時と変わらないくらいに人だかりが出来ている。審判が来たと思って混むのはわかるけど、実際来たのが使いの人ならもう解散してもいいはずだろう。
「それになんかへんな熱狂を感じるというか」
「確かに……」
よく見てみると異様に男性率が高く、少し女性がいるにはいるがごく少数。というかあの集まり方覚えがある。
「町にいた子を思い出すね」
「ああ」
俺たちの町にはやたらと目を引く女の子がいたことがある。といってもほんの数日しかいなかったが人気が凄かった。
人づてに聞いた話によるとあちこちの学校を回って信者を集めているんだとか言っていた。
信者? と思ったがあの子自身はグミンを集めてると言っていた。調教される前の子どもたちよりも大人は簡単に騙せるよねとかそんな会話をした記憶がある。
なんで俺にそんな話をしてきたかは不明だが、オーラというかそういう雰囲気があった子だったので特に追求せず何も聞かなかった事にした。というか女の子と話したとかいう事実があると妹が怖いので黙る以外の選択肢は存在しなかった。
ちなみにその後こどもから大人に至るまで相当な人数に嫌味やら嫌がらせやらなにやらを言われた。これがグミンってやつかと思わされて思い出したくない思い出である。
「でもまさかこんな所にいるわけないよね。遠くに行くって言ってたし」
「そうだよな」
何故か背後に回ってプレッシャーをかけてくる妹に冷や汗が流れる。
「あの子の名前なんだっけ、ねぇ覚えてる? お兄ちゃん」
「いや、覚えてないな」
確かリコとかそんな名前だったはずだ。だがここでそれを口にしたら何かやばい気がしてならない。何かというか妹がだが。
「ねえお兄ちゃん。なんで嘘つくの。何かやましい事でもあるんじゃないの。会話してたの知ってるんだよ」
こわいこわいこわい。いつもならスキンシップくらいとってきそうな距離にいるのに全く触れてこないところが恐ろしい。というかなんでばれてんの。
「いや、思い出した。確かリコ、じゃなかったっけ」
「そうそうリコちゃん。私のお兄ちゃんを物欲しそうな目で見てきた雌豚。お兄ちゃんに名前覚えられてるしめちゃくちゃ可愛いからってお兄ちゃんに手を出したらぶっ殺してやる!!」
「物騒すぎない!?」
なんだかやばいくらいに殺気だって来た妹をどうどうとなだめる。俺に近寄る女の子に敏感すぎだろ、べつに物欲しそうな目で見られてないと思うんだが。
「物騒じゃないんだよお兄ちゃん。私にはわかる、奴はお兄ちゃんを欲している。明らかに他の人に向ける目とお兄ちゃんに向ける目が違った。私にはわかる」
二回も言うくらい私にはわかるのか。俺にはわからんが。
「じゃあ、あの人だかり見に行くか?」
「私にはわかる。血の雨を降らす」
「犯行予告やめろ」
入念にストレッチを始めた妹が本当に怖い。
若干妹が不審だが、人垣に声をかけながら少しずつ前に進んでいく。この町こんな人いたっけと思っていたらどうやら帝都の方からも流れてきていたらしい。つまりこれはその使いの人に大量の人数がついてきたってことなのでは……。
あとやたらとピンクの服に白いハチマキを付けてうちわっぽいのを持ってる人が目立つ。背中に何か書いてあるようだが、人垣が邪魔でよく見えない。
(かなり異様だな。まるでサキュバスに魅了された人間たちが集まっているかのようだ。もしこれがただの人間が引き起こしたのなら人間かどうか疑ったほうが良いかもしれないな)
「そんな大げさな……。審判の使いだぞ? マスターと面識なかったらそもそもこんな人数連れてきてたら町に入れてもらえないだろ」
(職による特殊能力の可能性もあるな。洗脳とか)
「……」
こんな人数一気に洗脳とかそれ魔物に攻められるより大問題だと思うんですが。
人垣を分け入っていくとやはりというかなんというか、見覚えのある人物がいた。見た目は少し大人びているが俺たちの街にいた時とほとんど変わり映えしていなかった。
「やはり、降らすか」
「降らすな」
酒場の中はそこそこ混んではいるが、リコの周りだけは人がいなかった。一人でテーブルで食事をしている様子はなんだかいじめられっ子のような寂しさを感じる。
その様子をみて酒場の外の連中はより興奮しているように思える。というか酒場の外の連中はまじで見てるだけか、入るのにこんなに苦労するなら営業妨害以外の何物でもないだろ。
ちなみに中で食事してる人たちもちらちらとリコのほうを伺っている気がする。確かに人目を惹く容姿をしているがそこまでだろうか?
「へいリコちゃん。顔貸しな」
「ええと……あれ? エミさんですか? わあ! こんなところで会えるなんて嬉しい! お久しぶりです!」
気づいたら横から妹が消えていた。
第一声があれでいいのかと思わないでもないが、リコは気にせず妹に抱きついて普通に喜んでいるように見える。
(……あれが本当に普通に喜んでいるように見えるか?)
「ん? どういうことだ?」
(よく見てみろ)
マキに言われて二人をよく観察する。ついでに魔の流れを操作して耳に集中する。目に集中すれば魔の流れがよく見えるように、耳に集中すれば音がよく拾えるし任意の方向の音を拾う事もできるとマキに教わった。
二人の会話に意識を集中されると小声で言い合っている。
「リコちゃん可愛いね。こんなにいっぱいの人を騙して良い気になってるのほんと可愛い。ただの肉壁程度にしか使えない役にも立たない見てて不快になる豚集めてるなんてまるであなたもその豚の一人になったみたいでほんと可愛いね。ほら、可愛く鳴いてみてよ。みんなちやほやしてくれるよ」
「嫉妬しちゃってやだやだ。私は世界で一番かわいいから何しても許されるの。私に振り向かない人間なんていないの、わかる? おつむが緩いエミちゃんには難しいかな、私のように世界一可愛い美少女捕まえて豚だなんて目が腐ってるんじゃないの? 大丈夫? ミートボールと取り換える?」
「はー、これだから愛を知らないパンピー様は考えがご立派ですこと。お前に振り向かない人間なんてごまんといるよ。リコちゃんがめちゃくちゃ可愛くてそこの豚共にいやらしい目で見られてもそこには性的な視線しかないのによく満足できてるね。あぁそっか、リコちゃんも豚だからそういうの慣れてるんだよね」
「ぷぷ、近親相姦至上主義のエミちゃんが愛とかほんとうけるんですけど。その辺にいる豚は私を引き立てるだけの調教されきった本当にただの豚だから性欲とか愛とか何もないの。ただ私の姿を見てるだけで幸せとか言って色々献上してくれる便利な豚なの。エミちゃんよくわかってるじゃん」
「ふふ、リコちゃんも近親相姦至上主義ってわかってるじゃん。やっぱり変わってないね。安心したよ」
「エミちゃんも。相変わらずみたいだね」
……なんだこいつら。




