休憩
ひとしきり村長を感動させた後、村長が聞いてきた。
「ここまでしてもらったんだ、何か報酬を渡したいんだがどうすればいい? この町で出せるお金で足りるだろうか」
そう言って村長はかなりの金額を寄越そうとしてきた。この国には銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨、白金貨と大まかに分けて七種類の貨幣がある。下から価値が上がっていき、平民じゃまず金貨すら見ることはほとんどない。一か月普通に暮らすだけなら銀貨十枚もあれば足りるからだ。
銅貨百枚で大銅貨一枚、大銅貨百枚で銀貨一枚、といった具合に価値が上がっていくが、白金貨なんて本当に存在するのかすら俺にはわからない。だって資料で見たことあっても実際に見た事ないし持ってる人も知らないんだもの。
ちなみに旅に出るときに親からもらった軍資金は銀貨三十枚程、装備揃えたりするだけでかなり飛ぶのでお小遣いとしては高いけど冒険にでるならこのくらいあると安心できるって値段だ。ありがとう。
そして村長の寄越そうとしたのは金貨三十枚。どっから集めたんだよって位のお値段だ。庶民的にどうしたらいいのかまじでわからん。
「いや村長、これは町の復興に当ててくれ。今審判も来てるしお金稼ぐチャンスだろ? 水が綺麗になるなら人も増えるだろうしこんなにもらえない」
マキはそう言って村長にそのままそれを返す。全く焦らない当たり見慣れていたのだろうか思ってしまう。妹もファルネも目が点になってるし。俺も実体だったら同じだわ。
「そういうわけにはいかん。命の恩人、町の恩人に何もせず返したんじゃ示しがつかん。これからも旅を続けるんだろう? ならお金はあって困らないだろう?」
感謝の気持ちを盾にされると受け取らないと逆に失礼になってしまうだろうし、村長も感謝と心配をしてくれている気持ちを出しているから断りづらい。マキは少し考えるそぶりをすると。
「そうか、それなら勇者が立ち寄ったと言われる場所に案内してくれないか。そこを掘り起こす許可をくれ」
「掘り起こす? そんなのでいいなら構わんが……。それでお金は受け取ってもらえるのか?」
「……じゃあこれだけ」
絶対に渡す意志を込めた視線にさらされてマキが根負けする。金貨の袋の中から十枚だけもらう。それでも相当な額だが。
「謙虚だな……。それで勇者の立ち寄った所だが今はご神体が飾ってあってな、そこに連れて行くのは良いんだが、掘り起こすのはもう少し待ってくれないか?」
「何故だ?」
「今マスターが審判呼んで来てるだろ? おかげで人が多いのは良いんだが、衆人環視の元やられると変な噂が流れかねん。帝都が作ったご神体だからな、もしかしたらお尋ね者になるかもしれんぞ」
なるほど、国が治めているところでご神体を掘り起こすのってよく考えると泥棒どころか反逆行為だよな。
「だからすまんが審判が帰ったあと、それも出来れば夜に行って欲しいんだ。わしとしては別にご神体はそこにあるだけで勇者が立ち寄った事実に変わりはないから良いんだがな」
村長は実利を取る人みたいだ。じゃなきゃこんな冒険者に依頼なんかしないか。
「わかった、あの審判騒ぎはこっちも無関係じゃないし村長の所にまた怪しいやつが来るとも限らないしな。何日かここでお世話になるよ」
その後軽い雑談や、隙あらばお金を渡そうとしてくる村長をかわしつつ村長宅を後にする。
「村長さん実はすごいお金持ちなのかな。町の雰囲気とか村長宅みると結構質素に見えるのに」
「資金はいくらあっても足りないからな。自分の事より町の事を優先してるんだろ。結構小さい魔物に襲撃受けてボロボロになっても何日かですぐ元通りなんてそうそうないぞ」
そういえば騎士が派遣される前まではどうにかして撃退しても被害自体は毎日のようにあったはずだ。それを廃墟にならないようにしているってだけで実は結構凄いんじゃなかろうか。
魔物に襲撃されて撃退する町の人たちも中々やるけど、それで人がいなくならないってのも尊重の人徳なんだろうとも思う。良い町なんだろうな。
「それでこれからどうする? マスターたちの準備もあるし」
村長宅を出た後、マスターにいつ頃準備終わるのか聞いたら急いでも三日ほどかかると聞いた。人だかりは出来ていたけど審判の使いの人だったとかで、本物の到着はまだ先だとの事。
それまでにリングを作るとか息巻いていた。ちなみに審判は大体は旅に出ているらしくたまたま今回は帝都にいたから連絡が取れたらしい。マスターと審判は、一定距離にいれば個別に連絡を取れるアイテムを持っているとかなんとか。
どんな繋がりがあるんだこの人たちは。
という事で俺達四人というか三人は暇を持て余すと思っていたが、ファルネはマスターの手伝いに戻された。当然と言えば当然である。現実逃避できるとファルネはふらふらと自ら行ってしまったというのもあるが。
「ずっと動いてたし、エミちゃんのバトルが始まるまで休養にしようか。村長のとこに怪しい奴が来るかもしれないし」
「んー、それもそうだね。万全の状態でやりたいし!」
ふんすと意気込む妹を見ていると、ファルネとのやる気の差がすごく感じてしまう。ファルネは大丈夫なのだろうかと心配しかない。




