経過
「ばっとるーばっとるー」
めちゃくちゃテンションの高い妹とめちゃくちゃテンションの低いファルネを引き連れて村長宅に向かう。みるからにげっそりしてるファルネはかわいそうだがうなだれてる耳とかめっちゃ撫でたくなるわ。
「しかし本当に審判なんていたのか、俺の時代でも見た事ないぞ」
マキがしみじみ呟いているが、魔界に行く審判とかいたらこわいわ。勇者とかかなり選ばれた職業かつ鍛え抜かれた者達しか行けないという話なのに、肉体言語のみで戦うマッチョ想像するともうなんか別世界だわ。
「へー、マキさんも見た事ないんだ?」
素直に妹は感心を持ったようだ。マキがどれくらい長生きだったのかはわからないが、そんなにも珍しいものなのか。なんでそんななのに職業だけ知れ渡ってるんだよ意味あるのか。
「ああ、俺も人間界にいたことはあるし結構長い時間いたな。職業自体は耳にしたが本当に存在してるって話は聞いたことがない。魔物とかからも聞いたことないな」
「そうなんだ。ね、マキさんは全盛期の時どんなことが出来たの?」
審判の存在を知ってから妹はテンションだだあがりだ。というかこいつの師匠はマキすら見たことない伝説の職業の人と知り合いだったのだろうかと思うと謎が深まり続けるし妹に与えた悪影響について小一時間問い詰めたい。
マキの実際の強さとか気になってたけどそういえば今まで聞いたことなかったな。なんでもできるイメージしかなかったから俺も知りたいところだ。
「そうだなぁ……エミちゃんが喜ぶような肉弾戦闘はあんまり得意じゃなかったかな」
「でも木刀が武器だったんでしょう?」
「勇者とタイマン張れば余裕で勝てるってくらいだったよ」
「ほんとに!? あー、マキさんの本気の戦い見たかったなぁ」
確か勇者ってステータスほとんど振り切ったようなって話で聞いたな、人間を超越してるとかなんとか。これを聞くと逆に凄すぎてどのくらい強いのかわからなくなってくるな。
「肉弾戦より魔法のが得意だったな、魔法を使うための時間稼ぎに剣術も少々といったところだ。この寄生樹の特性上、遠距離魔法は大概防げたから結構卑怯くさい戦い方もしたもんだ」
「でも勇者だって大人数でぼっこぼこにしようとしてきたんでしょ? 勝てるように戦うのに卑怯も何もないよ!」
戦う事すなわち勝つ事、そんな感じの気合いの入りようだ。そんなに修羅場くぐってきたのだろうか。聞きたいけど聞きたくない。
「そうだな、命を懸けてたたかってるんだから卑怯も何もないな。勇者たちが束になってかかってくるのも当たり前で効果的な戦い方だったよ。一人で切り抜けられるかと思ったんだがな」
なんだか昔を思い出して真面目な顔をするマキを見るのは久しぶりな気がする。初めて会った時以来じゃないだろうか。あの時はこんなことになるとは思わなかった、普通に死んだと思った。
なんだかんだで魔王って言っても人間味のあるやつだと思う事が増えた気がする。
「じゃあ本気出せるようになったら勇者と戦うの?」
マキの目的は力を取り戻す事だ。魔界に行って現魔王と敵対し、その力を奪うために食う事。てっきりマキが食うのかと思っていたが、たぶんこれは俺の役目になるだろう。ストラの時と同じだ。たぶん。
「いや、たぶんもう俺は全力で戦う事は無理なんじゃないかな。魔を吸収して強くなってきてはいるけど本気だしたら体がもつかどうかはわからん。実際に力を取り戻したとしてもこの体じゃ不安だ。俺の魂だけ吹き飛ぶとかならいいが、二人分あるからな」
「お兄ちゃんの魂は私が頂くからその時が来たら全力でやっていいよ?」
(何言ってんだこいつ)
「ははは、そうならないことを祈るよ」
結構本気の顔だけどこの妹なら出来そうなのが怖い。いや何がどうなってどうやるのか全く想像がつかないけど、こいつは変な所でスペック高かったりするからな……。そんな事できたらマキすら出来ない事をやってのけた事になるが。
そして俺たちが盛り上がってるのにファルネは完全に沈黙している。そして口からなんか出てる。
「ファルネ、どうしたの? ほら元気出して、バトルだよバトル! 審判来てるんだよっ」
「にゃあ」
妹はファルネの横で応援するように声をかける、たぶん悪気なんてこれっぽっちもないんだろうけど死地に追いやるにも等しい行為なんじゃなかろうか。
「ほら、一緒に戦った時ファルネ凄かったじゃん! 酒場でも凄かったって聞いたから楽しみなんだよっ」
「にゃあ」
精一杯声をかけているがファルネの反応は薄い。
「ファルネの耳やわらかーい」
「にゃあ」
完全にされるがまま。完全にやる気のない猫と化してしまった。
お久しぶりです。同時進行で別の書いてました、楽しみにしてくれていた方すいません。こちらも見てやってください。
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