説明!
妹が熱く語ったのと周りの話からすると審判という職業はかなり稀有な職業らしい。
第一に戦闘能力を全くもたない。
そのため旅に出たり魔物討伐に参加する事もほとんどなく、パーティメンバーとして確実な戦力外通達。もし魔物討伐するのなら純粋な肉体レベルのみで戦うことになる。
第二にステータスの伸びの低さ。
純粋な肉体レベルのためステータスに依存しない強さに頼る必要がある。これはマキに聞いた話だが、レベル補正があるように見えないステータスで肉体レベルというものがあるらしい。
妹のようにぱっと見華奢なのに筋肉隆々の男よりも力があったりするように、見た目だけで判断できないのが実際の強さであり、見た目だけで判断できるのが肉体レベルというものらしい。
基本的には強さは見た目通りだったりすることが多いから、筋肉隆々の男は力がかなり高い。職業によるステータス補正というのもあるし、逆な意味で見た目に騙されるという事はほとんどない。
よって審判に関してはぱっと見で強さを判断できるという意味でも稀有な職業と言える。
第三にその特殊能力。
職業によって色んな特殊能力、例えば魔法だったり魔物を使役しやすかったり動きが早くなったりとかがあるが、審判に関しては一点のみ。
殺傷を行えなくする。
これだけだと強く見えるかもしれないが、それはその場にいる同意を得たもの同士にのみ適用されるというもの。
つまり言葉を理解するものにしか使えず、それも同時に殺傷をしないという同意を得たうえでしか発動できないというネタであり、娯楽としてしか使えないものだったりする。
ただし審判の凄いはそれに条件を加えられるという事だった。同意を得ることが出来ればどんな条件でも付与することが可能であり、通常の魔法ですら出来ないような事も出来るらしい。
「例えばどんなのがあるんだ?」
確かにすごい事には変わりないが一体何故こんなに支持されているのだろうか。
「例えば? 思いつくことならなんでもできるよ。致命傷食らっても死なないとか、体力をゲージ制にして可視化するとか」
「なにそれすごい」
通常の決闘では攻撃を食らえば当然ダメージが蓄積されていく。致命傷を受ければすぐに回復をしないと当然死ぬ。というか決闘が起きた時点で大概どっちかは死ぬことになる方が多い。
「つまり審判がいれば完全娯楽の決闘が出来るってことだよ。もちろん腕が消し飛んでも試合が終われば戻るとか死んでも生き返るとかいう無茶な設定も出来る」
「もちろんじゃないが!? すごいなんてレベルじゃないんだが!?」
「そう! だからみんな審判が来たらどんな試合が見れるのか楽しみにしちゃうんだよっ!」
バトルマニアじみた妹がこれだけテンション高いのにも納得がいった。そら死んでも大丈夫ならどんな攻撃出しても大丈夫だもんな。
ってか俺が知らないのに妹はなんで知っていたんだろうか。
「いやぁ師匠のマジバトルを見られたのは審判がいたからだなぁ。また師匠の戦ってるとこみたいなぁ」
また師匠か。審判いないと戦えないレベルの戦闘ってどんな殺戮だよまじで。
そんなこんなで話していると酒場のマスターが俺たちに話しかけてきた。
「おお! あんたら帰って来たのか!」
「マスターただいまですにゃ」
「ただいまー! ねぇマスターさん、審判来てるって事は誰か戦うの!?」
ファルネの言葉にかぶせるくらいぎりぎりに妹はマスターに食い気味で話しかける。どんだけ審判みたいんだよ。
「嬢ちゃんとファルネだが?」
「え!?」
ファルネが怯えた声を上げていた。
「約束したろ? ファルネを貸す代わりに二人の戦いを見せてくれるって。ちょっと気合い入れて伝手を使って審判呼んだわ」
「凄い行動力だな」
伝手がある事はもう酒場経営してるから全く良くなくても良いとして、一日しかないのによく呼べたなまじで。
「えええ!? じゃあじゃあもう準備万端なの!?」
妹は自分が戦えると知ってかなり浮かれ気味だ。生粋のバトルジャンキーすぎる。それに比べてファルネは目が死んでいる。
「いやまだ準備がかかる。正直な話、村長の手伝いで水の浄化作業行ってだんだろ? 一日で終わると思わなかったから三日後とか……というか終わったのか?」
そういえば報告に行ってないな。
「ええ終わりましたよ。今戻ってきた所なので向かおうかと思ったらこの通りだったのでちょっと覗きにきました」
「そうだったのか。しかし村長が久々に生気のある顔してたからびびったぜ。早く安心させにいってやりな」
「ありがとう! 戻ってきたら審判の話詳しく聞かせてね!」
「おう! こっちも楽しみにしてるぜ! それとファルネ」
「にゃ! にゃんですか!?」
死んだ目をして魂が飛びかけていたファルネはマスターに呼びかけられて現世に帰還してきた。妹の戦いっぷりみたらそらやりたくないわな。
「村代表って事にするから勝てよ!」
「無理ですにゃぁ……」
意気消沈したファルネを引き連れて俺たちは村長宅に向かった。




