二人きり
「ファルネ、落ち着いて聞いてくれ」
「は、はい」
ファルネを真剣な顔をして意味ありげに見つめる。ファルネもその視線を受けて緊張するのがわかる。マキが何も言ってこないところを見ると話しても良いという事だろう。
「俺には二つの人格があるんだ。さっきのやり取りで気づいたと思うけど、今が俺でもう一つがマキっていう人格だ」
「多重人格者ですにゃ?」
「理解が早い! そこはもうちょっとこう、トモキさん何言ってるんですにゃ? って感じで引いたりしたところを俺の説得でなんとか納得させる流れだろ!?」
普通に納得してくれるどころか一瞬で受け入れてくれるあたりファルネは大物なのかもしれない。というか何故こうもあっさりと納得できるのかわからん。
「だってトモキさん初対面の時と今日の時雰囲気とか色々違かったですにゃ。操られてるとかそういう感じでもにゃかったですし、危険な感じもしにゃかったので特に聞きませんでしたにゃ」
「察し良すぎじゃないの……」
(まあ獣人だからな)
逆に俺がビビらされているとマキが話しかけてきた。獣人だと何かあるのだろうか。
(そもそも獣人というのがどういう種族かっていうのもあるんだが、ファルネをよく見ろ)
「ううん?」
マキに言われた通りファルネを良く観察してみる事にする。
酒場の時でも結構見た気がするが、あの時とは露出加減が違い獣人らしさが良く出ている。ぴくぴくと小さく動く耳やしっぽ、意志の通りに動かせるのだろうじっくり確かめてみたい。
身長はやはり小さいが、エプロンで隠れていた前面部分が今は良く見える。服で隠れてはいるが程よい肉付きに成長途中だと思われる胸の膨らみ、ふさふさの体毛が触ったら気持ちよさそうだ。
お腹辺りの体毛は薄いがそれでも多少は生えている事が確認できる。腕や足先に生えているようなしっかりとした感じではない産毛のような体毛はさらに触り心地が良さそうでぜひ触ってみたくなる。
「あ、あの……」
「触っていい?」
「え……? え!? いや、あの、心の準備が!?」
(……見ろとは言ったがそこまでじっくり見ろとは言ってない)
ファルネの反応に嗜虐心が大いに煽られたが、マキの冷めた声で冷静さを取り戻した。獣耳っ子はどうしてこうも俺の中の何かを揺さぶるのか。可愛いは正義すぎる。
(俺が言いたいのはそういう事じゃなくてだな、獣人っていうのは獣と人の遺伝子が組み合わさった種族だ)
「それはなんとなくわかる」
人の姿をしていながら、獣のような力や俊敏性を発揮できる種族と聞いている。実際にさっきの戦いでは目で追えないような速さで動いていた。
(ファルネも今は人間と同じだが獣としての本能も持っている。つまり獣としての一面と人としての一面、自覚もあるだろうし興奮すれば入れ代わったりもするだろう。ファルネは人の遺伝子が濃いから爪や牙があまりないんだろうが、獣の遺伝子が濃い連中はちょっとしたことですぐ暴れたりする)
淡々とマキは獣人について語っていく。
「つまり、もしかしてファルネも……?」
(俺達みたいに完全に意志が別って訳じゃないだろうが、何かの拍子に獣の本能で動き出すこともあるだろうって事だ。多重人格って言葉が簡単に出てくる辺り、獣人には簡単に受け入れられる事実なんだろうさ)
「ファルネは、いやファルネも多重人格だったりするのか?」
「ええと……はいです」
ファルネは顔を赤らめながら視線を逸らす。え、何その仕草なんで赤くなるの。
「どうして目を逸らすのか教えてもらっていいかな?」
明らかに恥ずかしがっているファルネにまたも嗜虐心が煽られてどうにもこうにもちょっかいを出したくなる。マキが酒場で顎くいをしていた時に怒ったがすまない俺もやりたくなってきた。
「そ、そんな事より人間で多重人格って聞いた事ないですにゃ! もしかして何か事故とかあったんですにゃ?」
「事故といえば事故かもしれないが、何とも説明し辛い感じかな。多重人格というのとも実際はちょっと違うんだ。俺の場合は、その人格と会話ができる。常に二人いるって感じだな」
「一心同体ならぬ二心同体?」
「そうそうまさにそれだ。ファルネは良い子だなぁ!」
「ふああ! やめてくださいですにゃ!?」
ささっと手を伸ばし頭を撫でつつ耳の感触を思い切り堪能しようとするが機敏な動きで距離を取られる。ちょっと寂しい。
「な、なんとなく理解はしましたにゃ。ええとそれでトモキさんとお呼びすれば良いんですにゃ?」
「さっき雰囲気が違うとか言ってたよね? 今の状態が俺、トモキ。そして今日ずっと一緒に居たのがマキ」
マキに体を貸そうと意識すると、体の主導権がマキに移る。
「マキだ、改めてよろしく」
「なんだか妙な感じですにゃ。よろしくお願いしますにゃ。それでトモ……マキさんはドラゴンさんにご主人って呼ばれてましたけど、聞いても良いですかにゃ?」
もっともすぎる疑問をファルネは投げる。確かに多重人格だからって言っても、ドラゴンと知り合いというのはかなり不思議な話だろう。というかドラゴンと知り合いの人間とか普通に考えてありえないからな。飛龍種ならいるがあれはドラゴンというよりはでかい鳥に近い。
喋れる飛龍種というのは聞いたことがない。
どう説明したものか考えているうちにマキが口を開いていた。
「ああ、俺元魔王だから」
「え!?」
「ああ、俺元魔王だから」
「聞き逃したからもう一度言ってくださいって意味じゃないですにゃ!?」
ファルネは混乱しているが事実なんだから仕方がない。というかそんな簡単にばらしていいのかその事実。
「説明すると長くなるけど、ドラゴンを使役できるっていうこの状態が証拠だ。わかりやすいだろ?」
「う……。たしかにそうですけど、いまいちピンと来ないですにゃ……」
「うーむ、じゃあ洗脳したら信じてくれる?」
「それ信じる以前にただの洗脳ですにゃ!?」
「じゃあ力づくで信じさせればいいかな?」
「もっと穏便な方法でおねがいしますにゃ!?」
「じゃあこうかなっと」
言うが早いかマキはファルネを思い切り抱きしめる。腕の中でファルネは暴れるかと思ったが力が抜けたかのようにだらんとする。
「力が……入らない、ですにゃ……?」
(おいマキ今なにしたんだ?)
「ファルネの中の魔を結構な量奪い取ってみた。人間なら魔を吸収してもすぐ変換して魔法に変えたりするが、俺はそのまま溜める事ができる。人間じゃないからな」
体は俺のなんですがそれは大丈夫なのかと思わなくもないが、実際に出来ているのだから大丈夫なのだろう。
「さて、動けないファルネに何しようかな」
(やめてやれ!?)
「うぅ……優しくしてくださいですにゃ……」
(ファルネも何いってんの!?)
妹の影響だろうかファルネは目からハイライトが消えかけていた。
「まあ冗談だ……ほら起きろ」
マキはファルネを抱き起こし、魔を返しているようだった。ぐったりしていたファルネは生気が戻ったように自分の足で立つ。
「なんだかひどく汚された気分ですにゃ……」
「ファルネが信じないからな。荒っぽくやってみた」
「結局力づくだったですにゃ……」
俺もそう思う。妹がこの場にいなくて本当に良かった。というかあいつら戻ってくるの遅いけどまじで何してるんだ。




