撤退
モンスターとランデブー
『ではいきます』
「……ああ」
初めて見た城下町からすぐに出て行くことになるとは思わなかった。しかもこんな形で。
人型のモンスターは羽を生やし俺を抱えて空を飛んだ。モンスターはレベルが高くなると姿を変えられると学校で習ったが目の当たりにすると迫力がある。
「……なんで、俺が行く必要があるんだ」
俺の頼みを聞き、丁寧な物腰で接してくるモンスターに出会ってからの疑問を聞いてみた。
正直モンスターと意思疎通ができるとは思わなかったが、イメージが変わってきた。
『……戻ってからゆっくり、と思っていましたが戻る間暇なのでお話しましょう』
「……」
やたら人間くさいなこいつ。というか俗っぽい。
『そうですねぇ、端的に言ってしまえば魔王の血族』
「は!?」
『いや魔王様本人』
「へ!?」
『いやどっちでもないかも』
「はっきりして!?」
うーんと考えるようにして悩み始めるモンスターに思わずつっこみをいれてしまう。
さっきまでの迫力と威厳はどこいった。
『というのは冗談でして、あなたは魔王様に必要なのです』
「どういうことだよ」
『まずはじめに、人間は他の動物と会話ができるでしょうか。簡単な意思疎通はできるでしょうが、相手の言葉を理解しそして相手と同じ言葉を話す。できますか?』
「……できないな」
問答みたいな事をしてくるやつだな。モンスターと呼ばれる魔物たちはもっとストレートな物言いをする連中だとばかり思っていたが、見識を改めなくてはいけないかもしれない。
『そうです、できませんよね。私たちもそうです。魔物は魔物としか基本的には会話できません。空気中の精霊を解して意思を直接語りかけることはできますがね』
「……じゃあ俺はなんでわかるんだよ、俺は人間だぞ」
『そうですそこが今回の話です。あなたは姿形は人間ですが魔物の言葉がわかる。そして人間の言葉もわかる。あなたは一体どっちなのでしょう』
「……」
考えたこともなかった。というか今日初めて知った事実だ。魔物と会話できる、多種族と会話することができる、確かに言われてみれば異常な事なような気がする。
『あなたが魔物だと思う理由を私は説明できますが、お聞きしますか?』
俺は人間だ。魔物じゃない。
「……聞いてやるよ」
『素直じゃないですね』
しかし好奇心には勝てない。
『いいでしょう話しましょう。これを聞いたらあなたはおとなしくこちら側についてくれるでしょう。もう大人しく付いてきてくれてますが』
空中で暴れて落とされたらそれこそ死ぬ。大人しくしているしか選択肢はない。
『約三十年前、魔王様は人間の勇者によって倒されました。魔界はそれからというもの荒れに荒れました。殺戮を繰り返すもの、魔王様にとって代わろうとするもの、とにかく非常に混乱した状態になったのです』
「……なんで魔王が死んだのにほかのモンスターが生きてるんだよ」
魔王が死んだらほかのモンスターも死ぬんじゃないのか。
『おかしな事を言いますね。王様が死んだら民は死ぬんですか? 人間も魔物も変わりませんよ』
言われてみればおかしな話なのだろうか。魔王は魔物を統べる者、王は民を統べる者。
魔物か人間かの違いに置き換えればたしかに辻褄が合いそうな話ではある。
じゃあ何故魔王が倒されると平和になると言われているのだろうか。
『魔物は、闇の精霊の力で生きています。魔王様はその闇の精霊と契約し精霊と共に生きているのです。魔王様が死ぬと闇の精霊の力も弱まり、魔物が弱体化するのです』
「つまり食べるものがなくなって体が痩せ細っていく感じか」
『人間でいうとそんな感じでしょう』
「それでなんで魔界が荒れるんだよ、殺戮とかしてる場合じゃないんじゃないのか」
食べるものがなくなった。人は作物は家畜などを殺し食べる、それすらもなくなったら死ぬしかなくなるわけだが。
『魔物は闇の精霊の力を蓄えることで姿を保っています。つまり魔物自体が少なからず闇の精霊を宿しているのです』
人形に命を吹き込む、そんなところなのだろうか。
『つまり力がなくなったのなら別の場所から奪ってくればいい、そういうことです』
「……共食いするってのか?」
『弱肉強食とはよく言ったものですねぇ。それでも百年くらいは何もなくても過ごせるんですが、魔王様が復活するほうが秩序が安定するので魔王様になろうとする物が現れるわけです』
殺戮しまくってる連中が秩序とかよく言う。
『魔王様が死に、そのときに放出された闇の精霊を多く手に入れた者が次の魔王様に。その時に必要な量を一人の魔物が手に入れるのには三十年近くかかります』
力が強いものが魔王になる。なんともストレートでわかりやすい話ではある。
『そして二年前、新たな魔王様が君臨なされました。身に纏う魔力はとても強く、誰しもがあの方には勝てないと心のそこから畏怖するほどでした。何故そんなに強いのか、そう、あの方は魔王様の魂を受け継いでいたのです』
「転生したってのか!? それならいくら魔王を倒しても意味なんて……」
『いいえ、転生自体は珍しくありません。勇者も転生するのがわかっていたのでしょう。魔王様と戦うときに呪いの剣を装備していました。魔物の魂を封印するという呪われた剣を』
授業で習った勇者は聖なる剣を装備していたと残されている。魔物にしてみれば呪われた剣というのもうなずける話だ。