兄妹
「妹と、友達だ」
友達、魔界にも友達という概念がある事に驚きはしたが、仲間というものが存在するのだから当然と言えば当然か。
でもなんか、自分より明らかに小さい女の子を友達って言うのってかなり抵抗があるというかなんというか。
紹介された二人は火球に囲まれているので声は出さずに頷くだけ頷く。攻撃される心配はなさそうだが、緊張している感じだ。ファルネに至っては獣人らしく大きな火が怖いのか若干怯えている。
『ほうほうそうですか、それは失礼しました。でも全然似てないように思うのですが?』
「そうか? 全然って程でもないと思うぞ」
マキは妹を見て、ファルネは俺の顔と妹を交互に見比べている。
俺と妹は似てると言われた事はないが、完全否定されるほどに似てないかと言われればそうでもない。大体の人は兄妹と言えば、ああ確かにそんな感じすると言われる事はよくある。
兄の贔屓目を抜きにしても妹の見た目は確かに可愛いほうだとは思うが、俺はイケメンというほどでもない。なのでたまに嫉妬の対象や、妹を攻略するにはまず俺からなんて輩にも絡まれたこともある。
妹のあまりにも酷い発言を聞いて、恋仲になろうと思う輩はかなり減ると同時に俺に同情してくれる輩も増えていたが。
『妹はそちらの獣人の少女ではないのですか』
マキの言葉を聞いて返答してくるが、何かがおかしい。
「いや、お前人種の壁越えられない事も無いらしいけど普通にこっちの人間の方だよ」
ストラはファルネの方を妹だと勘違いしていたらしいがどうしてだろうか。小さい子の方が妹らしいし友達としては変だったから、というにしては妙な感じだ。
『お言葉ですが、ご主人。そちらの人間はご主人に対して真っすぐすぎる程邪な目を向けておられますが……』
「……」
ぐうの音も出ない。
『ご主人に人間界の森を守ってくれと言われて以来、私も多少人間について勉強させていただきました。夫婦の営みというものは近親縁者では行わないものだという事も』
全くもって一理あるどころかその通りだし俺もそう思っている。だが常識で縛られないおかしい連中もいるんだという事をストラはここで知るだろう。
『それにですよご主人、その人間の少女達は本当に人なのですか』
「……どういう事だ」
『私に呪いをかけていた魔物はかなりの手練れです。不意打ちとはいえ私を負かした相手を人間なんかが倒せるわけないと思うのですが』
なるほど、マキが言っていたドラゴンは人間を見下す事があると言っていたがこういう事か。
この現状だけ見ると、ストラが最も弱く見える。ストラを身動きできない状態にしていた敵をあっさりと倒してしまった連中を、弱い人間だと思いたくないんだろう。
「まあ俺も人間だと信じられないような技使ってたからなんとも……」
そっち肯定するのかよ。
「あの、お兄ちゃん。会話してるのは良いんだけど、そろそろこれどかしてもらえると嬉しいんだけど。ファルネの尻尾なんかさっきから燃えそうで怖いし」
なんだか雲行きが怪しくなって来たからではなく、しんどくなってきたのだろう。強制的に身動きを封じられるというのはかなりのストレスだ。
ファルネも妹の言葉にコクコクと頷いている。怯えている感じと相まって凄く可愛い。ファルネも妹だったら良かったのにな。
「だ、そうだ。何が聞きたいのかわからんけど解放してくれ。妹と友達でもあるし仲間なんだ」
ストラは納得しているのかいないのか、しぶしぶといった感じで火球を手元に戻した。周りが暗いため、明かりだと言っていたのも嘘ではないのだろう。どうやら鳥目というのも本当らしい。
『ご主人、すまな……』
「ストップだ。人語で喋れ、二人にもわかるように話してやってくれ」
マキはストラの顔を真正面からしっかりと見つめそう言った。
多少の間をあけてからストラは口を開いた。
「……ご主人、うちな、正直寂しかってん。お二人さんほんまごめんな。悪気はなかったんや」
(おいマキ)
「なんだ」
(魔物の言葉で聞こえてたのと、全然違うんだが?)
「そらそうだろうよ。違う世界の言葉だぞ、俺みたいに流暢に喋れる方が凄いんだよ。お前だって魔界の言葉喋ってみろ、あんな風に聞こえるかもしれないぞ」
まじかよそういうもんか。聞いて覚えたからだろうか違和感のある喋り方ではあるが通じるから良しとしよう。
二人とも俺と同じ心境なのか。呆気にとられた表情をしている。
「う、ううん大丈夫。それよりドラゴンさんも思ったより元気そうでよかったよ」
「はい、実際に傷つけられたわけじゃないですし、伝説と言われたドラゴンさんとお喋り出来るだけでも凄い経験ですにゃ……」
妹もファルネも解放されて気が緩んでるみたいだ。妹にはさっきのドラゴンの話を聞かせたら、妹がお兄ちゃんを愛することは不思議じゃないよ! とか言って食って掛かりそうだからこっちの言葉じゃなくて本当によかった。
愛さえあれば兄を押し倒すことも辞さない、これが俺の妹だ。恥ずかしながら。




