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会話

「よお、だいぶ具合良くなったみたいじゃないか」


(何故そんなチンピラ風に話しかける!?)


 マキはドラゴンに向かって軽く手を挙げる。久しぶりに会った友人に対するものとしては適切だが、襲われる可能性を考えると危険な感じがする。


『……人間が舐めた口を聞いてくれるな。死ね』


 ドラゴンの周りに火球が出現する。昼に打たれた時よりも多いがマキは平然としている。


『……』


 しかし、火球はそのまま停止して襲ってくる気配はない。


「どうした? 打ってこないのか?」


 マキは挑発するように言う。両手を挙げて隙を作ってまで。


『……これはただの明かりだ。呪いが解けたのは貴様が何かしたのか』


 死ねと言っていた気がするが、どうやら戦闘は行わないでくれるらしい。マキの考えはわからないが命拾いしたんじゃないだろうか。


「なんだつまらん。せっかく試し切り切りしてやろうと思ったのに」


『お前は何者だ……? 人間にしてはおかしな波長を持っているな。それにこっちの言葉を理解しているように感じる』


 ドラゴンは観察するかのように正面から移動する。マキは動かず、視線だけをドラゴンに向ける。


『見た目は普通の人間だが、何故その木を持って平気なんだ』


「何故って、使い方を知っているからさ」


『その使い方を知っている生き物は少ないはずなんだがな』


「忘れてしまったのか? あの時の事を」


『私はお前の事など知らない』


 ドラゴンは警戒しながらも淡々と会話を続ける。ただ警戒するだけじゃなく、周りに浮いている火球もゆらゆらと移動し、いつでも攻撃できるという動きを見せてくる。


 マキの周りをぐるっと回ると元の場所にもどる。そのまま探るような視線を向けてきた。


「観察は済んだか?」


『観察は、な。次はこちらの質問に答えてもらおうか。お前では私を倒す事は出来ないだろう、弁えて答えろ』


 ドラゴンは火球をマキの周りに移動し身動きが出来ないようにする。逃げようとしたり、真面目に答えないならすぐさま燃やすつもりなのだろうか。


「いいぜ、答えられることなら何でも」


 マキは何事もないように、いつもの飄々とした態度で接している。


『まず、何故私の言葉がわかる。人に合わせた言葉じゃないはずだが』


「それに関してはわかるから、としか答えようがないな。誰かに教えてもらったとか、そういうのはない。他に質問は?」


 嘘は言っていない。本当なら魔界出身だから理解しているというのが正解だろうが、もし俺の体だった場合はその通りでもある。身体的特徴からしても人間だし、体の中の魔がたまっていても今は魔法使いよりも濃度が低くなっているはずだ。


 というかなんで焦らしてるんだマキは。意味があるのか……?


『……呪いの効果が薄くなったが、お前がやったのか?』


「正確には俺達、だな。お前も感づいてると思うがこっちは三人だ。呪い使いを倒したのはそっちの二人だな。二人とも、ばれてるからもう出てきて大丈夫だ」


 もう話してしまった以上隠れているのは無駄な警戒心を与えると思ったのだろう。二人に出てくるようにマキは言った。


 恐る恐るといった感じで二人はこちらにやってくるが、新しい火球がマキと同じように二人の周りにも浮かんで動きを止めさせられる。


『何故、奴を倒した』


「お前に借りが作りたかった、ではだめか?」


『なんのために』


「その質問に答えるには、こっちの質問にも答えてもらいたいところだな」


 やれやれと言った感じでマキはドラゴンに質問しようとする。今回は挑発しようとしている、というよりは本当に質問したいだけといった感じだ。


 ドラゴンもそう思ったのか少し沈黙する。


『良いだろう、何が聞きたい』


「そうこなくちゃな。まず最初の質問は、村を襲ったのはこの木が盗まれたからで間違いないな?」


『ああ、その木は大切なものだ。私の元から離れてある程度経つと暴走する危険すらある。そのためには結界を破壊するくらい仕方ないさ』


「やはりそうか。それで戻ってきたら呪いをかけられ捕まっていたと。あいつは何が目的だったんだ?」


『さあな、奴は私をペットか何かにしたかったようだがあれくらいの呪いなんか効かん』


 洞穴の会話を聞いていたから既にその話は知っている。確認のためか何か情報を引き出そうとしているのだろうか。


 というか結構苦しそうだったし絶対強がりだろ。


『質問は終わりか人間。お前の質問では何もわからんぞ』


「焦るなよ、これが最後の質問だ」


 マキは少し間を開けてから言った。


『この木が人間を食ったらどうなるんだ?』


『こっちの言葉も使えるのか!?』


『質問に答えろ。木をつかさどるフォレストドラゴンのお前ならわかるだろ』


 マキは語気を強くして言う。妹とファルネは空気を読んでいるのか何も喋らずじっとしている。


『……魔を感知して襲う性質があるのは知っているようだな。その木は元々魔界から持ってきたものだ、通常なら人間界で育つ事などありえない』


 ドラゴンは真面目に答えていく。


『何故なら栄養が足りないからだ。魔界では魔物を吸収して育つ木だが人間界にはそれがない。だがもし、人間が魔を体内に溜めていたら魔界と同じように育つだろうな。結界を張っていたのも、濃度が低い状態でも町の人間を一気に襲うようにするためだったんだろう』


 つまり普通の人間は襲わない、魔を感知して捕食しようとするのか。だから俺はこの木に襲われたのか。


「やはりそうか……。おいストラ、この木刀返してもらうぞ」


 マキは何かに納得して言葉を戻す。


『私をそう呼ぶのは……まさか……?』


「気づくの遅すぎだろ。そうだよ俺だ」


『ああ、そんな、こんな夢みたいな事……あなたとのリンクが切れて、どれだけ悲しかった事か』


 ストラと呼ばれ、涙を流しながら膝をつく。マキが死んだというのはどうやらストラも知っている事だったようだ。


 しかし復活した事実を知らなかったらしい。リンクが切れたというのは主従契約か何かで繋がっていたのだろう。


「来るのが遅くなってすまないな。それとこの火をどかしてくれると嬉しいんだが」


『ああ、ご主人、すまない』


 すっとマキの周りから火球が消える。


 ……マキの周りの火球だけが。


「……そっちのも消してくれ」


『そちらの二人とはどういった関係で?』


 ストラはジト目でマキに問いかける。ドラゴンも人間らしい表情できるんだな。



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