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対面

「あー修行が懐かしいなぁ」


 妹は遠い目をしながら回想にふけっているみたいで反応が薄い。あの技を打つ機会なんてそうそうないだろうし、思い出していても仕方ないのかもしれない。


 できるならもうちょっとまともな回想であって欲しかったと心から思うが。


「トモキさん、私、エミさんと手合わせしたくないですにゃ……」


 ご愁傷さま、そうとしか俺が言える言葉はなかった。


「でもファルネ、最後に見せたダッシュからの連携は凄かったぞ? そんな簡単に負けそうでもないように思えるが」


 マキはファルネを応援、というか死地に赴かせたいらしい。いや確かにあれは凄かったけど人命的に戦わせるのは正直どうなのかと問いたい。


 マキはたまに真面目に見えるが煽るの好きそうだからな……。流石元魔王と言ったところだろうか。


「え、そんな、私の技なんてそんにゃそんにゃ……」


 褒められたファルネは恐縮仕切りである。


「獣人は投げ技とかよりも打撃とかに特化してると思ったけど、違うのか?」


 そういえば、爪とかで攻撃しそうだけどおもいっきり投げてたな。


「私は、なんというか獣人の中では落ちこぼれ扱いでして……爪や牙が一般的な人よりも短くて戦えなかったからあういう風にやるしか……」


「もしかして、ラメルの町に捨てられてたっていうのは」


「はい……はい? 捨てられたんじゃなくて集落から逃げてきたんですにゃ。居づらくなってしまって、強くなったらまた戻ろうかと」


 確かロウシーさんがファルネは捨てられていたと言っていたはずだが、人の事情だから知れ渡っていないだけなのだろう。


「でも、ほとんど行き倒れみたいになっていた所をマスターに拾ってもらったので、間違いではないかもしれませんにゃ」


「そうか、いい人に拾われて良かったな」


「はいにゃ!」


 よほどマスターを信用しているのだろう。かなりいい笑顔だった。


「ところでトモキさん、その手に持ってるのは……」


「私も気になってた、それ普通の木刀じゃないよね」


 やっと木刀について触れるくらいに落ち着いてきたらしい。妹も空想から戻ってきた。初見でこの木刀が普通じゃないって思えるものなんだろうか。


「ああ、これがさっき爆散した奴がドラゴンから奪っていたものだ。結構危険な代物だが、俺が持っていればまあ大丈夫だ」


「トモキさんて何者なんですにゃ……その木刀、モンスターみたいな匂いがしますにゃ」


「あー、なんか変な気配するなーと思ったらそういう事か。その木刀だったんだ」


 獣人だから匂いでわかるというのはわかる。だが妹の気配でわかるは、やはり人外の域に達している気がしてならない。


「で、お兄ちゃん。まだ中入らないの?」


「ああ。というか入るのは危ないから外で待ってる、と言ったところだ」


「待ってる? ドラゴンさんはそんなに危ないですにゃ?」


 待ってるというよりは入らないように気を付けていた、というような感じだった。


「危ない可能性もある、という事さ。まあなんというか、ドラゴンの呪いが解けていて襲われたら確実に勝てないからな。理性が戻っているなら大丈夫だろうが」


「呪いって使った人が死んでも解けないものなの?」


 術者が死んだ場合、大抵の魔法や術は効果が無くなる。町の結界とか、何かに組み込んだりする物は例外でずっと残ったりするが。


「普通は消える、呪いと言っても命を張ったり恨みとかの類の呪いじゃないからな。だが、ドラゴンを抑える程の呪いとなると大丈夫とは言い切れない。永続的にかけ直してた事を考えると解けてると思うが、手負いのドラゴンにちょっかい出しに行くタイミングじゃないな」


 ドラゴンが回復しててもしてなくても、急に人が来たら襲うかもしれないと、そういう事か。周りも暗いし、洞穴の中に入ったら姿を確認される前に攻撃されるかもしれない。


「呪いの効果が薄まるか無くなるかすれば気になって外に出てくるだろう。そこでこの木刀を見せれば俺がわかるはずだ」


「にゃるほど……でもドラゴンさんは夜目効かないって言ってませんでしたにゃ?」


「あ」


 月明りもあまりなく、拓けている場所だという事を考慮しても、かなり暗い。心なしか雲も出てきた。あとファルネそういうのフラグだからほんとやめて。


『ぐううああああ!』


「まずい、一旦隠れるぞ!」


 洞穴の中から雄たけびが聞こえてくる。苦しんでいたさっきまでと違い、明らかに周りを威嚇するような声だ。

 近くの茂みの中に飛び込み、様子を伺う。


「マ……お兄ちゃん、どじっこなの?」


 妹が軽いジト目をマキに向ける。ファルネも同じような目をしていた。


「いやすまん。自分がちゃんと見えてるから油断してた。はっはっは」


 二人のジト目は止まないが、見えてるのが当然だと思ってしまうと気が抜けるものか。自分でドラゴンは夜目が効かないとか言っていたのがなんとも言えないところだが。


「ファルネ、見えるか?」


「いや、まだですにゃ」


「気配は動いてないね」


 雄たけびがあってからドラゴンはどうやら動いていないらしい。


(マキ、お前の声聞けばストラも出てくるんじゃないか?)


「だめだ、元々の俺の声じゃないし、昼に姿を見られてる。相手が落ち着いてるのを確認しないと手が出せない」


 木刀を差し出したところで、理性が戻って無くて殺されたら洒落にならない。理性があれば、何故木刀の形をしているのかで判断できるはずだ。


「トモキさん、出てきますにゃ!」


 ファルネの声に場が緊張する。マキも妹も静かに身を伏せる。


『ぐう……呪いが解けた……? 一体何故……』


 中からふらふらと人影が出てくる。魔物の言葉を話しているし、昼に見た時と同じ姿だ。


(マキ、あれは大丈夫なんじゃないか?)


 少なくとも理性が無くなっているなんて事は無いように思える。


「……そうだな。二人とも、少し待っていてくれ」


「え? トモキさん?」


「気を付けてね」


 マキは二人の位置がばれないように、少し移動してからドラゴンと対峙した。

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