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呪いのアイテム

結界の中に足を踏み入れると、マキはふらついて頭を押さえた。


(マキ、どうした?)


 と質問をした直後、体の主導権が俺に移る。


「おいマキ、急にどうしたんだよ」


(……やはり無理があったか)


マキの声は少し苦しそうだった。前日にマキが飲みまくったあとに入れ替わった時の俺みたいに。


(……この結界は、町にある奴よりも強化、というより改造されている)


「どういうことだよ」


(普通の結界だったら、人間の体を使っていれば確実に入れる。あの結界はそういうものだがこれは違う)


 主導権が俺に移ったからか、マキは落ち着きを取り戻していた。具合が悪くなるのは意識だけで肉体に影響しないってのは変な話ではあるが、便利なので良いと思う事にしよう。


(まずここは規模がかなり狭い。周りを見て見ろ、町に張ってあるのが広範囲持続型なら、こっちは一点集中型だ。弱い魔物だろうとなんだろうと寄せ付けない)


 マキの言う通り結界の端から端がかなり狭い。直径にして十メートルもあるかないかと言ったところだ。


「じゃあマキはそのせいで気分が悪くなったのか?」


(ああそうだ、人間用のを改造して変身した魔物も入れないようにしたんだろう。そして範囲を狭める事で壊れていたのを補っていたんだろうな。ドラゴンの巣の近くにあっても大丈夫なように)


 なるほど、と俺は思う。もともと壊れていた結界を、あの呪い使いは自分で使えるように改造した。そしてゴブリン達や弱い魔物でも入れないような強力な結界を作ったって事か。


万が一ドラゴンが動けるようになっても、弱っていれば壊されないと判断してこの距離か。


「あれ、じゃあマキが辛いのに俺が大丈夫なのはなんでだ?」


 魔を弾く結界、じゃなくて魔物を弾く結界って事なのだろうか。


(そこに関してはよくわからん、ただあり得るのは俺は魔を体の中で練っているがお前は練っていない。というより使い方知らないから体の中にある魔が拡散して効果薄いんじゃないか?)


 なんかご都合主義のような気もするが、結果的に問題ないので気にしない事にする。


「じゃあアイテムは俺が回収すればいいのか? 早く戻らないと二人も心配だしな」


(そうなる。この結界の中心のやつだ)


 だが、中心に来ても呪いのアイテムがどこにも見当たらない。どんな外見をしているのだろうか。


「中心てここだよな、どこにあるんだ? 地面の下か?」


(は? そこにあるやつだよ。目の前にある)


「目の前……?」


 目の前には特に何もない。多少手が加えられているが、地面にただ木の棒が刺さってるだけで何もない。


(その木の棒だよ、早く拾えって)


「え、これ!?」


 呪いのアイテムというからどんな禍々しいものかと思ったが、木の棒……。それも子どもが遊びで使えそうな、棒というより枝に近い。


(まあ持てばわかるさ)


 疑問だらけだが、マキがそう言うのならそうなのだろう。仕方ないので手に持ってみる。


「……何も起きないぞ」


(……そうだな)


「何が手に持ってみればわかるだよ、思わせぶりな事言いやがって。本当にこれなのか?」


(……ああ、間違いない。だから、結界から出たら気を付けろよ)


 結界から出たら気を付けろ……? こんな枝みたいな棒持ってる所で何を気を付けろって言うんだ?


 よくわからないが、急いで戻ろうと結界を出る。


「うわなんだこれ!? つっ!?」


 結界から出た瞬間、ものすごい勢いで成長し始める。根を生やし俺の腕に突き刺さり、さらに成長速度を上げる。


(替わるぞ)


 マキはそういうと俺の体の主導権を奪う。俺は半ばパニック状態だったので助かった。


「これは寄生樹と言ってな、魔を宿し、どこからでも養分を吸い取る樹だ」


 マキがそう言っている間にも樹は成長し、枝のようだったものは腕よりも太くなっていた。


(お、おいマキお前大丈夫なのか?)


 養分を吸い取るって事は命に関わるんじゃないだろうか。


「まあ落ち着けよ、この樹には特徴があってな。知ってるやつは限られてるだろうが、俺は知っている」


 そういうとマキは何やら呪文を呟き始める。人間の言葉でも魔物の言葉でもない、だが決して耳障りではない不思議な言葉だった。


「……ふう、こんなもんか」


 詠唱が終わると樹は成長をやめ、木の棒ではなく柄のような部分もあり、そこを過ぎた辺りから反っている。そして反っている部分はなだらかな山のようになっていた。


(木の、剣?)


 そう、言うなれば木刀だった。


「この刀はあのドラゴン、ストラがくれたものだ。使い方もそこで聞いた」


 懐かしそうに木刀を振るマキは、いつもの飄々とした感じではなく、少し違って見えた。


「魔を吸い取り続ける寄生する樹、それをストラが俺のために武器に変えてくれたんだ」


 寄生樹は本来魔を吸い取り続けるだけの危ない樹だったらしいが、フォレストドラゴンが見つけてからはずっとドラゴンに管理されていたらしい。


 地面や周りの魔物をおびき寄せ、定期的に魔を吸い上げながら魔界で成長していたらしい。サイズ自体は普通の樹と同じくらいではあったものの、それが生えている地面はどんどん枯れていき他の樹は全滅していた。


 そこで魔界では結界を張り成長を止めたが、そこからも大変な事が起きていた。成長を止められた寄生樹は長い時間何もしなかったが、ある時その中にため込んでいた魔を地面に流し込んだらしく、一帯が強すぎる瘴気の立ち込める魔の森に変化した。


 その時にフォレストドラゴンが、新しい森が出来たなら任せろと言わんばかりに沈めてくれたらしい。



「昔話はこんなもんだ」


 戻る間にマキがちょっとした昔話をしてくれた。魔界の事を話しているのはなんだかんだで珍しい。


(森を沈めてくれたって事は、ストラは最初から仲間だったのか?)


「いや、そこでも一悶着あったが……そろそろ着くぞ」


 気づけば、妹たちが戦っている場所に戻って来ていた。

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