盗聴
マキは気配を消す魔法を自分たちの周囲に張り、音を立てないように移動を開始する。音を消す魔法も使えるらしいが意思疎通が不便だからしないとの事だった。
それに夜になって少し風も出てきたため派手に音を立てない限り聞こえないだろうという考えもあるようだった。それでもかなり慎重に動くことになったが。
「この辺りが限界か。二人とも見えるか?」
俺はマキの目を通して敵の場所がわかるがかなり距離がある。目視というよりも魔の気配で位置を読み取っている感じだ。
「見えますにゃ」
「私は見えない……。こんな高度なプレイを……なんてお兄ちゃんなの……」
ファルネは流石ネコ、と言ったところだが実際ネコは目が悪い。獣人は視力も良く夜目も利くのはかなりの強みだな。
妹に関してはもう何も言うまい。なんかさっきから変なテンションになってやがる。野生の勘では距離まではどうにも出来なかったようだ。
「じゃあ、これで見えるか?」
マキは妹の頭に手を乗せ、何かを詠唱する。
「闇の中に明かりを灯せ、サイトクリア」
「……!! すごく、良く見えるよ! なにこれ凄い」
どうやら視界を良くする魔法らしいが、便利な魔法もあるもんだな。マキもこれを使っているのだろうか。
「俺は魔を使えば見える。魔法を使うのとは違って消耗もないな。エミちゃんにはこれからがんば、いや戦ってもらわなくてはならないから視界確保は必要だ」
頑張ってもらう、と言いかけた時に妹が期待に満ち溢れた目で見てきたので言い方を変えたようだ。なんだろう、周りが暗いから深夜テンションなのだろうか。
「エミさん、さっきから挙動不審ですにゃ……」
「さっきのMPポーション飲んでから尋常じゃなく体に力が溢れてて制御できない。テンションマックスだよっ!」
MPポーションには精力増強なんて効果はないはずだが、まあ元気がないよりは良いのでよしとしておこうと自分を言い聞かせる。
「しっ、動くみたいだぞ」
敵は洞穴の中に入る前に持ち物を何かごそごそしていた。準備が終わったのか洞穴の中に入っていった。
(マキ、中で何してるかわからないか?)
「俺に出来るのは中での会話を聞き取るくらいだな。二人にはまとめて話そう」
マキは耳を澄まし、洞穴での会話に集中する。
『普通の魔物なら数時間で死ぬ呪いなんだがな。流石は元魔王のドラゴンと言ったところか』
マキに聞こえているように、俺にもその会話が聞こえてくる。どうやらあのドラゴンは元魔王の、つまりマキと一緒にいたドラゴンで間違いないようだ。
『また……貴様か……いい加減宝を返せ』
『そんな弱った体で強がりを言えるとは……いつまでそんな態度でいられるかな?』
マキの予想通り、ドラゴンに呪いやダメージの類を与えてもかなり耐えられるようだ。これを町を襲った時からずっと行っているならタフなんてレベルじゃない。
『私は屈しない。お前の従属等になる気はない。宝が欲しいのなら殺せばいいだろう』
『おやおや。それでは何の意味もない、あなたをペットにして支配欲を満たしたい私の気持ちを大切にしてください。そう、あの宝のように』
「わっ」
「にゃっ」
そのセリフを謎の魔物が言った時、こっちに伝わるくらいに殺気というか敵意が伝わってきた。中で何が起こってるか断片的にしかわからない妹たちはかなり驚いていた。
「お兄ちゃん、今の、私たちに向けてじゃないよ、ね?」
ドラゴン戦っていた時もこんなにビビってはいなかったが、流石にこれにはビビったらしい。
「ああ、ちょっとした挑発にドラゴンが切れただけだ」
「トモキさん、それってまずいんじゃ……」
『ぐあああああああ!』
「今度は何!?」
外まで響き渡るドラゴンの咆哮、だがまるで何かに苦しめられているような聞いてて苦しくなるような声だ。
魔族の声が聞き取れない妹たちからはただの怒りの咆哮に聞こえたのだろう。緊張した雰囲気が伝わってくる。
『私に敵意を向けるとそうなるって分かっているでしょうに、強情なドラゴンだ』
『ころ、す。……ぐああああ!』
『私に従えば楽になりますよ? 時間はたっぷりありますから、苦しみ続けるのが嫌になったらいつでも言ってくださいね』
『ぐ……うぅ』
表情までは見えないが明らかに苦しんでいる。
「トモキさん……本当に大丈夫なんでしょうか……」
ファルネは怯えているが、俺たちが戦うのはドラゴンではない。それにどうやらマキは相当怒っているようだ。
前にマキが、俺の感情は伝わってくるという話をしてくれた事があるが、どうやら逆もありらしい。ドラゴンが痛めつけられていることに相当腹が立ってくる。
マキは黙ったまま洞穴の会話に集中する。
『今日は気分が良いので新しい呪いを試しましょうかね。今回のもあまり効くとは思えませんがね』
『……!』




