お城到着
主人公の謎に触れていきます
「……ここは」
気づいたら民家のような建物の中に寝かせられていた。ベッドというよりも簡易的なマットとタオルが敷かれているだけの場所だ。
「お兄ちゃん! よかった!」
妹が抱きついてくる。妹も無事だったのか、よかった。というかなぜ俺は無事なんだろうか。
「なあ、ここはどこなんだ?」
「私とお兄ちゃんが二人きりでいいことできる愛の巣だよ」
「まじめに聞いてるんだが」
「いたいいたいいたいわかったわかったからそれ以上やると感じちゃうから!!」
アイアンクローをかましてやると嬉しそうにはしゃいでいた。変態かこいつは。
いやまぁまごうことなき変態ではあるが兄妹として認めたくはない。
「目が覚めたのか」
開いていた扉から一人の男が入ってくる。いかにも強そうな感じの雰囲気をまとっている。
この人が俺を助けてくれた人なのだろうか。
「残念ながら助けたのは俺じゃない。お前を助けたのは今城に行っている」
「お兄ちゃん危なかったんだよ、本当に無事でよかった……」
涙ぐみながら抱きついてくる妹を優しくなでてやる。心配かけてすまん。
「それと、実はこのあたりなんだけど……」
妹が何かを言いかけると外から爆発音が聞こえてくる。
そうだ、ほかのみんなは無事なんだろうか。
「ち、おいお前ら、危ないから外が落ち着くまでここにいろ!」
男は外に駆け出して行った。一体何が起きているのか。
「なぁ、ここで何が起きてるんだ?」
「えと、私も城下町来てわかったんだけど……なんか襲撃されてるみたい」
「は!?」
思わず目を見開き体を起こす。
「いっつぅ……」
魔物にやられたタメージが抜けきっていないのか、体の節々が痛んだ。
表面に傷はないから治療は終わっているんだろう。
それでも受けた衝撃や鈍痛がなくなるということはない。
薬や魔法は万能ではない。痛みを消す薬草もあるがあれは危険だ。
一回や二回ならあまり意味はないが、常用したり一気に服用すると依存症にかかり廃人になる恐れがある。上級の魔物との戦闘で死ぬよりまし、と使いまくり廃人になった人がかなりいるらしい。
「お兄ちゃん、まだ寝てなきゃだめだよ」
心配そうな声で訴えてくるが、外の様子を確認したい気持ちもあった。
それに囮になった教師たちがどうなったのかも気になる。
「そういいながらマウントポジションを取るんじゃない」
「うへへへ……」
そのまま覆いかぶさるように抱きついてくるが、いつものように危険を感じたりはしない。なんの危険かはそうあれだ。
「……死んじゃやだよ」
「……ああ」
「守れなくてごめんね」
「俺も守れなかったよ、すまん」
「ううん、お兄ちゃんが逃がしてくれなかったら私やられてた」
「……」
なんであんな強い魔物がいたのか。この襲撃はやつらの仕業なのだろうか。
「あいつ、何か目的があるみたいだった。収穫がどうのって言ってた」
「え……お兄ちゃんモンスターの声がわかるの?」
「いや、普通に喋ってたじゃん」
「ううん、何かよくわからない音みたいなのは出してたけど、声ではなかったよ」
「……」
そういえば珍しいみたいな事を言ってた気がする。俺にしかわからないのだろうか。
「外、一緒に行こう。お前がいれば安心だ。確認したいこともある」
「……うん」
肩を借りて外にでると信じたくない光景が広がっていた。 兵士たちが城下町の中にいるモンスターと戦い、疲弊しきっている。
城下町は外敵に対して侵入させないように高い塀と、入り口には守衛を置いて守っているはずだ。それなのに町の中にモンスターがいるなんて……。どうみても非常事態だ。
「君たち!家の中からでるんじゃない!!」
兵士が気づいて慌てて駆け寄ってくる。半ば強引に家の中に押し戻され外からは戦う音が聞こえてくる。
「どうなってるんだ……」
俺もモンスターと戦ってみんなを守りたいなんて大層な考えはないが、妹を守りつつここを切り抜けるだけの力は欲しい。
「グオオオオオオオオオ」
魔物の声が聞こえたかとおもうと家の壁を破壊し侵入してきた。人型のモンスター、2m弱のサイズで背中から羽を生やし手足は蹄になっていて猛牛のようなモンスターだ。
「やぁぁぁぁ!!!」
妹が飛び出し、モンスターの前足と後ろ足の付け根に強打し動けなくさせる。
「グモォォォォ!!」
声を上げるが破壊された関節のせいでそのまま崩れ落ちる。妹は無慈悲に後頭部にさらに追い討ちをかけ消滅させた。
「私はもう負けない、お兄ちゃんを守るんだ……!」
『これはこれは、こんなところにおられましたか』
「誰だ!」
壊れた壁からではなく扉からモンスターが入ってくる。身長は……いや完全に人間と同じ形をしている。ただ、目だけが異様に赤く染まっていた。
『私の声がきこえますか?』
「……ああ聞こえる」
『ようやく見つけました』
人型のモンスターは方膝をつき、こちらに頭を下げてくる。
「何のまねだ……」
敵意がないのが伝わってくるが、なぜ頭を下げられているのかわからない。
『あなたをお連れしに参りました』
「なんだと?」
「お兄ちゃんから離れろ!!」
妹の拳がモンスターのこめかみを思い切り打つ、普通なら死んでもおかしくないが微動だにしなかった。
『うるさい人間だ』
横目で睨んだだけで妹は恐慌状態に陥り、尻餅をつき動けなくなった。
『邪魔をされても面倒だ、死ね』
「やめろ!!」
咄嗟に叫び妹の前に立つ。
「お、おにい、ちゃん」
正直めちゃくちゃこわい。どうしようもなくこわい。絶対に勝てない。殺される。
死ぬ。死ぬ。
だけど
「こいつは殺させねぇ!!」
妹が死ぬのはもっといやだ。啖呵を切り思い切りなぐりかかる。
『なるほど、では交換条件といきましょうか』
「どういうことだ」
軽々攻撃を受け止めて、話しかけてくる。
『いやなに、そちらの人間を見逃すかわりにあなたを連れて行きたいと思いましてね』
「……お前がここにいるモンスターを連れてきているのか?」
『おや、質問に質問で返すのですか。いいでしょうお答えします。そうです、今回ここに攻め込んできたモンスターの指示を行っているのは私です』
「俺がついていったら、全部撤退させろ!」
『元よりそのつもりでしたが……いいでしょう、そちらの人間ともども安全を保障しましょう』
「わかった……いこう」
「お兄ちゃん!? どういうこと!?」
俺がこの人型に付いていくのが話の流れからわかったのだろう。妹が叫ぶ。
「俺が行けば、お前は安全だ。大丈夫、俺も死にはしないさ」
「そういう問題じゃないよ!!!」
『私は気が短いんです、それにめんどくさいのが近づいてるようなのですぐ行きたいんですが。その人間、黙らせますか』
「……死なせないように頼む」
「お兄ちゃんっ!? っ!」
その場にくずおれ、意識を失う。呼吸が落ち着いているから催眠術でもかけたのだろうか。




