ドラゴン
放心中のファルネをそのまま放置して目的地の山まで向かう。
馬車を使えば、ラメルの町から約一時間もかければ付く距離だったので何事もなく目的地に到着する。
道中に魔物は確かにいたが、魔物除けの効果はかなり大きいようだ。
「それじゃあ、気を付けてください」
「ありがとう、帰りはアイテム使うので迎えは大丈夫です」
馬車から降り、御者にお礼を言う。ポストリープを宿屋に置いているため、帰りは一瞬だ。
馬車は来た道を引き返していき、見る見るうちに小さくなっていった。
「トモキさん、アイテムってなんですにゃ?」
そういえばファルネは知らないのか。ポストリープは結構レア物って言ってたしその辺も含めて妹が説明する。
「へー、そんな便利な物があったにゃんて初めて知りましたにゃ。それなら帰りは一瞬ですにゃね」
「そうだな。今日中に帰ることは出来ないが」
「そういえば1日って言ってましたにゃね……」
山を探索するだけでも相当な時間がかかるから、日没までになんてのは流石に無理だもんな。
「私はいつまででも大丈夫だよ! お兄ちゃんが求めてくれるなら何度だってできるんだからね!」
「エミさんは何を言ってますにゃ……?」
心の病気なんだ、ほっといてやってくれ。
「そ、探索するからいつまでかかるかわからんしな。たぶんそんなにはかからんだろうが、一応夜に行動しようと思ってな」
「夜ですにゃ?」
つまりもしドラゴンを見つけても明るいうちは何もしないって事か?
「そう、ドラゴンはまあ言ってしまえば生態系的には鳥に近い。夜目はあまり利かないんだ」
「へー、そうなんだ」
最強と名高いドラゴンにも、意外と可愛い弱点があるものだな。小さいドラゴンとかを鳥かごで飼ってるのを想像すると和む。現実的には確実に壊されるだろうが。
「でもお兄ちゃん、知り合いなんじゃないの?」
「え!? トモキさんドラゴンさんと知り合いなんですにゃ!? 凄いですにゃ!」
ファルネが完全に聞いてなかったのが良く分かる。というか知り合いという括りに凄いだけで済ます事に驚きだが。
「昼はほぼ最強みたいなものだからな。念には念を、ってやつだ。それにこっちにはファルネもいるしな」
「にゃ?」
「ネコ科なら、夜目が利くだろう?」
山は荒れ放題だが、緑も多くかなりの規模があった。探索と一言に言っても、あてもなく探し回るには広すぎる場所だった。
(こんな中からドラゴン一匹見つけるのか……いくらでかいからと言って見つかるのか?)
というかそもそも何故ここにいると思ったのだろうか。ドラゴンは町を襲った後どこに行ったかは誰に聞いてもわからなかった。
それなのにマキは地図を見ただけでここに場所を絞った。
「この山、というかこの場所は昔来たことがあってな。その時も危険区域になっていたからこっちで間違いない」
(またエルフの森作ったみたいな話か?)
「いや、あの時は普通に来た時だったな。まあそんな事はどうでもいいさ。手がかりがあったぜ」
探索をしていると、少しひらけた場所にでる。そこには足跡のような窪みがあった。
(結構すんなり見つかったな)
魔王が、普通に人間界の森を訪れるか? 立ち入り禁止区域だから魔物の勧誘……魔界の方が良さそうなのいそうだがどうなんだろうか。
マキは自分の事をあまり話さない事が多々ある。こっちもあまり踏み入って話をするのは気が引けて、生前何をしていたかをよく知らない。
「おお、足跡だね?」
「大きいですにゃ……」
「ああ! そのセリフは私が言おうと思ってたのに!!」
「なんの話ですにゃ?」
妹の心の病は治りそうもない。
しかし確かにこの足跡は大きい、寝転がっても入れるんじゃないかというくらいのサイズだ。足のサイズがこのくらいって事は体のサイズはどんなになるんだ?
「ふむ、そんなに古い跡じゃないな。この辺りを調べようか」
「ねえお兄ちゃん、ここそんなに広い場所じゃないけど、このサイズのドラゴンなら普通見つかるんじゃないの?」
確かに。こんな巨大なドラゴンだったら目立つ事この上ないだろう。
「ああそうか、そういえば言ってなかったな。ドラゴンは成長すると人に化けられる」
「え!? そうなの!?」
「なんかさらっと凄いこと言った気がしますにゃ」
「よく考えてみろ。ドラゴンがなんで人に見つかってないと思う? 伝説級の魔物で、しかも町なんか簡単に破壊できるような強さを持ってて、一人では太刀打ちできないサイズと来てるのに何故討伐対やらが組まれないと思う? 見つからないからだ」
ドラゴン退治、おとぎ話の中の伝説の勇者とか、ドラゴンを自在に操る魔物使いが遥か昔存在していたとか、そういう類の話しか聞いたことがない。
言われてみれば、現実的にドラゴンが隠れて住める場所なんてそうそうないんだよな。
「そういう事だ、ドラゴンは小さい事にはこだわらない。人間を弱小種族とみなしている奴もいるが、そういう奴も人間に化けていたりするもんだ」
「そうなんだ……人間サイズになってると見分けつくの?」
「素人目にはつかないだろうな。ただ、魔の力が凄まじいから探知できるやつとかならわか……よけろ!」
マキは喋り終わる前に横に飛ぶ。妹もファルネも飛んでいた。
「何!?」
「どうやら、探す手間は省けたみたいだぜ」
「にゃんですと……」
俺たちのいた場所は焼け焦げた跡みたいに黒くなり、赤い炎が燃えていた。というかみんな反応良すぎだろと思わなくもない。俺だったら食らっていただろう。
炎が飛んできた方向を確認すると、何者かが出てきた。
「なんだか、あの人獣の臭いがしますにゃ。まさかあれが?」
「あの気配は間違いない。ドラゴンだ」




