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馬車

 町長の家に着くと、こじんまりとした馬車があった。


「おー、こういう乗り物見たことある! 馬車っていうんだよね!」


 妹は馬車に乗ったことが無く、異常にはしゃいでいる。俺も乗ったことはないが、商人とかが町に来た時によく見ていたので特に驚きとかはない。


「これに乗っていくんですにゃ?」


「たぶんそうだ。村長は家の中かな?」


 馬車と御者はいるが村長がいない。一日で馬車を用意するのは結構難しかっただろうから、お礼の一つも言いたいところだ。言うのはマキだが。


「村長さん、おはようございます、ファルネですー」


「おお、待っていたぞ」


 ファルネが声をかけると、家の中から町長がでてきた。しっかりと身支度を整えている辺り、待っていてくれたのだろう。


「町長ありがとうございます。助かります」


「いやいい。助けてもらうのはこっちになるだろうからな。ただし、本当によろしく頼む。これは道中で食べてくれ」


 俺たちに頭を下げて、食料を渡してくる。一日かかると言っていたから、食料を用意してくれていたのはありがたい。家の中に戻っていたのはこれを取りに行っていたのだろう。


 なければ魔物を食べるだけの話ではあるが、やはり普通の食べ物も食べるとおいしい。強くはなるが、魔物しか食べられないなんてことはないし、ちゃんと普通の物も食べたい。


「ああ任せてくれ」


「町長さん、お弁当ありがとう!」


「行ってきますにゃ」


 馬車に乗り込み、町長が御者に目的地を言うと動き出した。結構乗り心地も良く走り出し、みるみる内に町長と離れていく。


 入口にはジャンがいたが、出ていく側に興味はないのかスルーされた。


「それでトモキさん、これから山の方に向かうのはわかったんですが、何するんですにゃ?」


「そうだよお兄ちゃん、これから何するの?」


 もうファルネは語尾を直すのをやめたようだ、町の中では無理していたのかもしれない。獣人の語尾が何故、にゃとかつくのかはよく考えると不思議な話だが、あえて聞く必要もないだろう。


 話がそれたが、二人の質問にマキが口を開く。


「何、そんなに難しい事じゃない。だが二人ともよく聞けよ」


「わかった」


「ごくり……」


 マキはもったいぶるように、少し間をおいてからようやく口を開く。


「ドラゴン退治だ」


「帰りますにゃ!!」


 マキが口を開いたらファルネが速攻逃げようとした。が、すぐに捕まる。


「放してくださいにゃ! 死にたくないですにゃ!」


「まあ落ち着けファルネ。何故ここに来るまで、俺が言わなかったかわかるか?」


「な、何か理由があるんですにゃ?」


「お前を逃がさないためさ」


「人でなし!」


 仮にも元魔王だしな。


「くくく……もうここまで来てしまえば町に引き返すのも出来まい。馬車には魔除けがあるが、単身で帰ると結構な量の魔物に出くわすだろうぜ」


「おにぃ……あくまぁ……」


 あながち間違っていない。


「お兄ちゃん、勝てるの?」


 ファルネと違って、妹は冷静だった。


「戦ったら、負けるだろうなぁ」


 マキは飄々としているが、どうするつもりなのだろうか。ファルネが完全にビビって動かなくなってしまった。


「じゃあ戦略があるんだね! どうするの!?」


 目を輝かせてマキに質問する。もともと戦闘大好きなんだろうが、ドラゴンとの戦闘もやってみたいのだろうか。


「まあそうだな、説明する前に、ドラゴンがどんな生物か説明しようか」


「え、マ……お兄ちゃんドラゴン知ってるの!?」


 妹は驚いて気が抜けたのか、思わずマキと言いそうになる。というか俺が知っているかどうかって聞くのも変な感じがしたのかもしれない。


「まずドラゴンが単体行動を好むっていうのは本当だ。親子でいる事はあるが、それも子供が狩りが出来ない内だけだ。一人立ちで来たら、散り散りになる事が多いな」


「どうして?」


「縄張りがあるだろう? ドラゴンの世界にもルールがある。餌の狩場が被ると食料がすぐ尽きてしまうんだ。いくら空を飛べると言ったって、三匹のドラゴンが餌を狩っていたらその辺りは荒れ地になってしまう」


 確かに……。複数のドラゴンが一緒にいないのはそういう理由もあったのか。


「だから、普通は町を襲うような事はしないんだ。縄張りや、守っているモノを荒らされたりしなければな」


「く、詳しいね」


「ああ、使役していたことがあるからな。そしてたぶん今回のは、そのうちの一人だろう。町長が言っていたドラゴンの特徴が一致していた」


 マキは少し懐かしむような表情をしていたかもしれない、昔を思い出しているのだろうか。


「あいつは人を襲うようなやつじゃない。だから何かしら理由があるはずだが、それの心当たりもある」


 ファルネは完全に意識を失ったままだが盛大に話を進めていく。


「人を襲うようなドラゴンじゃない……ってことはその理由を解決すれば良いって事?」


「そうだな、そういう事だ。予想通りならそれが俺だと少し面倒そうだから、二人に来てもらった」


「お兄ちゃんに出来なくて、私たちに出来る事?」


「主に戦闘面だな。それに関してはどうなるかわからない。だが心構えだけ頼む」


 つまりドラゴンとは戦わないが、それ以外に何かあるかもって事か。そのドラゴンが人を襲った理由、そいつと戦うかもしれないということか。


(ドラゴンに、言う事を聞かせる奴がいるって事か? それなのに二人に戦わせて大丈夫なのか?)


 普通の魔物や人相手なら、妹一人でも充分だろうしファルネもいる。だが、強力な魔物を従わせられる何かと戦うのは危険なんじゃないだろうか。


「その辺りも大丈夫だ、戦わないかもしれないし、戦うとしても十中八九負ける事はないだろう」


 なんだか、負けフラグのように聞こえて凄く心配になるな。

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