おでかけ
「ただいまーっと、エミ起きたか?」
「うーん、起きたけどまだちょっと頭痛い……」
水差しからコップに水を入れて飲んでいるが、あまり回復していないらしい。前酔った時は二日酔いになってはいたが半日もすれば回復していた。
結構暴れていたし悪酔いでもしたのかもしれない。
「お兄ちゃんもそこそこ飲んでたのに大丈夫なんだね。うー、私も二日酔いになりたくないよう」
「じゃあ飲むなよ……」
俺はお酒を飲んでも次の日に残る事がない。というか記憶飛ぶくらいまで飲んだことがないのでわからないが正しいところだが。
「水ばっかり飲んでたらお腹空いた。ご飯食べにいこうお兄ちゃん」
「そうだな、何か食べて落ち着けば少しは楽になるだろう」
何か消化に良いものでもあればいいが、酒場にあるだろうか。宿屋の朝食は簡単な食事だったから食べたりなかったんだろう。
時間は昼過ぎになっているしご飯には調度良い時間だった。
「お兄ちゃんどう?」
「……なにめかしこんでるんだ」
妹はアイテムボックスからいつもと違う服を取り出しパジャマの上から体に当てていた。
「えへへ、実はこの服お母さんにもらってたんだ。いつも動きやすい服ばっかりだったからたまにはこういう服も着るのよって」
(ほう、なかなか似合うじゃないか)
確かに妹は戦うために道着のような身軽な装備をしていたが、かわいい服が嫌いなわけじゃなかった。母からもらった服は、町娘のようなかわいい感じの服で上からすっぽりと着れるような、裾の長い服だった。腰のところにはリボンがついていて、袖の先端についてるリボンとお揃いになっている。
ワンピース、というのだったかそんな感じの服で、マキの言う通り背の高くない妹には似合っていた。
「どう? お兄ちゃん、似合う?」
「ああ、似合ってる。母さんの趣味だろうなその服は」
「うん。実はたまに着せ替え人形みたいな事させられてたんだけどどれもこれも可愛いのしかなかった」
俺も母さんの趣味で可愛い服を着せられそうになったことがある。父さんがかばってくれなかったら今頃女装趣味の少年になっていたかもしれない。
(結構大変な家庭だったんだな)
良い母親なんだけどね。
「じゃ、着替えるね」
「え、その服で行くんじゃないのか?」
何故か服をしまいいつもの服を取り出し着替えようとする。とりあえずいきなり脱ぎだすのはやめろ。
「え? だってご飯食べに行って汚れたら嫌だよ?」
「なんのために着たんだよ」
「お兄ちゃんに可愛いって思ってもらうため」
「そうか……」
(邪な考えがのぞいてるがある意味健気だな)
まあ酒場に行くのにおしゃれしてても意味はないもんな。というか二日酔いでおしゃれして酒場に行く人とか字面だけ見るととても馬鹿なんじゃないかと思える。
「何、お兄ちゃん?」
「いやなんでも、急がなくていいからな」
そう言い残して一旦部屋の外にでる。妹の着替えを見せつけられる前に退散しなくては何されるかわからん。
「そういえばこれ使ってみるか」
ハースの宿屋主人からもらった宿屋にテレポートできるアイテムを取り出す。結構長く滞在することになるだろうからここで使ってもいいかもしれない。何か起きたときにも安全だろうし。
このアイテムの名前は何だったか、確か……。
(ポストリーブだな。といっても普通の物とは少し違うみたいだが)
「知ってるのか?」
(似たアイテムを知ってるってだけだが、性質はそれとほとんど同じだし同じ呼び方でいいだろう)
どうやらこのアイテムは他にも種類があるらしい。たしかにこんな便利なアイテムなら宿屋だけと言わず他にもあってもおかしくないだろう。
(俺の知ってるのは宿屋じゃなくて教会や町の入り口とか、結界が張ってある場所に印を作って置いておく、というものだったな。魔法アイテムだから所持者じゃなきゃ使えないし高価なものだったからあんまり出回ってなかったが)
「ほんとなんでも知ってるな。どんだけ知ってるんだよ」
(魔王だからな。何事も知っていないと世界を治めるなんてできやしないさ)
「お兄ちゃん準備できたよー。お、それ使うの?」
「一応、な」
妹も準備ができたのでポストリーブを宿屋の部屋に半分ちぎって置いておく。こんなので本当に戻れるのかわからないが、魔法アイテムというのは常々意味が解らないからこんなもんだろう。
「お兄ちゃん町の中全部回っちゃった?」
「大体は回った感じだな」
「何か面白いお店とかなかった?」
「そうだな、俺の主観ではアクセサリー屋が面白そうだったな」
町の探索をしている時についでに町の商店も見て回っていたらアクセサリー屋があった。魔法効果のついてるアイテムが買えるなら持っていても損はないだろう。
「アクセサリー……可愛いのあるかな?」
妹も一応女の子らしくアクセサリーには興味があるようだ。
「じゃあご飯食べたら散歩がてら見に行くか」
「やった、デート!」
散々二人っきりで歩き回っていて今更デートもないだろうと思ったが、嬉しそうなので言わないことにした。




