酒場
料理が運ばれてくるとどれも美味しそうな物ばかりだった。新鮮な野菜を使ったサラダや、酒場といえば定番の肉料理などボリュームも凄かった。
「お話の前に、ごはんにしましょうか」
妹を見ると手を合わせて今にも食べたそうだったので食べる事にする。
「おお、おいしい」
ロウシーさんの言う通り料理はどれも美味しく、いくらでも食べられそうな感じだった。飲み物も水が綺麗と言われていただけあって美味しい。
「お酒も美味しいですね、この町の特産品ですか?」
酒場と言えば麦を使ったアルコールが主流だが、見た目はほとんど一緒でも少し違うような気がする。
「いえ、普通のビールですよ。でも、綺麗な水で作られたお酒は本当に美味しいんですよ」
「そんなものなんですか」
「マスターの受け売りですがね、この酒場はマスター一人で料理作ってるんですよ」
広さはそこそことはいえ、お店の調理を一人でこなすのはかなり大変だろう。料理人を雇ったりはしないのだろうか。
人もまばらとはいえ、俺達みたいに複数人で来たら料理の数も増える。
「ん、あの子は?」
店内を見まわしていると、小さな女の子がエプロンを付けて注文を取って回っていた。焦った様子もなくテキパキと働いているので従業員と思われるが、なんだか子どもみたいだ。
「彼女はここの給仕さんですね。少し前に、捨てられていた所をマスターが養っているとかで、恩返しに働いているそうです」
「小さいけど、歳いくつくらいなんだ? いや働かせてるのが悪いって意味じゃなくて」
人には色々あるだろうし、どんな所で働いていても特に気にしたりはしない。でもなんというか、少し気になる。
「彼女は獣人です、猫耳ですが帽子で隠れてて今はわかりませんね。旅の人からたまにちょっかいをかけられるので帽子を被っていると言っていました」
そんな風に彼女をみながら話していると、一段落したのかこっちにやってきた。
「いらっしゃいませ、何か御用ですか?」
ぺこりと頭を下げるとさらに小さい。身長は俺の胸の高さもないだろう。なんというか保護欲をそそられる。
「そうだな、ビールをもう一杯頼むよ」
いつの間にか空になっていたビールを注文する。というかそんなに飲んでない気がするんだが。
「お兄ちゃん! 私にも!」
「……エミお前これ飲んだな? ちゃんと見ておくんだった」
後悔先に立たず、妹は俺のお酒に手を出していたらしい。そんなにアルコールが強くないのが救いだったがこいつは宿屋に帰した方が良いかもしれない。
「注文はビール一つでよろしいですか?」
「はい、一つでお願いします」
「やだー! 私も飲むのー!」
「はいはい、ジュースな。ブドウジュースもお願いします」
妹がくれくれうるさいのでジュースを頼む。酔っぱらってるから何を飲ませてもまずわからないだろう。
「エミがこんなですがロウシーさん、なんでこの町はゴブリンが入ってきたのか教えてもらってもいいですか?」
やっと本題に入る。普通町には魔物除けの結界が張られているはず。ハースの町でも魔物が入れないから盗賊が人を襲っていたのにこの町は結界が作動してなかった。
魔物除けの結界はかなり強固なやつでゴブリン程度が壊せるとはとても思えない。
「それなんですが……」
ロウシーさんが何かを言いかけるとドカドカと音を立てて男たちが酒場に入ってきた。
「マスターお酒頼むぜー! 五人分だー!」
男たちはマスターと顔見知りなのか奥に声をかけるだけで適当に席に座る。五人来ただけでなんだか人口密度がぐっと増えた感じだが、酒場らしいと言えばらしい。
「彼らは、町の結界を直してる人たちです」
俺が視線を向けていたのをみたのかロウシーさんが説明してくれる。どの人物も魔物とそれなりに戦えそうな風貌だった。
「やっぱり壊れてるんですか。しかし簡単に壊れるようなものじゃないですよねあれは」
「ええ、実はこの辺りの山にドラゴンが住み着いてまして……」
「ドラゴン!?」
(ドラゴンか、魔を供給するには申し分ないな)
思わず声を大きくしてしまった。周りからの視線がこっちに注がれる。マキが何か言ってるがドラゴンで供給は厳しいんじゃないだろうか。
「一か月ほど前、そのドラゴンの攻撃で町の結界はほとんど機能しなくなりました。強いモンスターは入れないみたいなんですが、ゴブリンとかの小さいモンスターが入ってくるようになってしまって」
なるほど、たしかにドラゴンともなれば町の結界を壊せるかもしれない。
「それで、町の防衛と結界の修理のために人を帝都から呼んだのですが、あまり派遣してもらえなくて今の有様なんです」
町の修理跡や今日のゴブリン襲撃を見ると確かに防衛は足りてなさそうだ。結界は強い術式使いと魔物除けの呪い師、そしてその術式を組んだ入れ物を作る制作技術者が必要だ。たぶん今の段階では危険視されず、技術者が作り終わるまでは派遣してくれないのだろう。
「彼等も頑張ってくれてはいますが流石に五人では中々……」
全部同時進行で行えば二週間もあれば終わる作業だが、この様子だとどの工程も終わってないらしい。ドラゴンが出ても帝都には被害がないから形だけ派遣しているといったところか。
「そういえば、騎士がいるって聞いてたんですがその人は何を?」
「あの人は今日もサボりですにゃ」
「にゃ?」
俺たちの間に先ほどの給仕が割って入ってきた。語尾が少し変だったので思わず復唱する。
「ファルネちゃん、また語尾が」
「こ、これは失礼しました」
普通に喋ると語尾が変わるのか。猫らしいといえばらしく凄く良い感じだ。
「給仕さん、サボリっていうのはどういう事なの?」
「ファルネとお呼びください。あの騎士は今日も外に出てて町の警備をしてくれないのです」
ぷんすかといった感じで怒っているが、小さいからかなんだか怒っているようには見えない。
「今日ロウシーさんの所に来なかったのはそういう事か」
町長も若干厄介者っぽい扱いしていたみたいだしきっとまともな人じゃないんだろう。
ファルネが持ってきてくれたぶどうジュースをお酒だと言って妹に渡すとごくごくと一気飲みを始めた。それが酒だったら倒れるぞ。
「ぷはー! ジュースみたいで美味しいね!」
顔も赤くなって若干呂律も怪しくなってきていた。ほんと酒弱いなこいつ。




