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道筋

マキを突っ込みにするかボケにするか迷います。

 主人にお礼を言い、ダンジョンを後にする。まだ自分の町を出てからそんなに時間は経っていないのに、かなりの思い出が出来てしまった。


「お兄ちゃん、ハースの町の様子見ていく?」


「うーん、見ていきたいところだが勇者パーティとかち合ったら嫌だしな。次の町に行こうか」


「あの人たち人格壊れてるもんね」


「お前も大概壊れてるがな」


「壊すくらい激しくしてくれるの、おにいちゃん?」


 妹が提案してくるがもちろん却下だ。町の様子を見たいのはやまやまだが、最初からほぼ無人のような所しか見ていないから、荒らされててもいなくても大きく変わっているのは確かだろう。


 町は人がいるから町なのであって無人では町とは呼びづらいだろう。人々を解放できて本当によかったと思う。


 次の目的地だが、そういえばマキがエルフの森に行くとか言っていたが……ここからどのくらいの距離があるのだろうか。


「それでお兄ちゃん、次はどこに行くの?」


「目的地は決まっているが、俺にはわからん! マキ頼むわ」


「投げっぱなしだねお兄ちゃん」


 確かに妹の話は基本的に投げっぱなしになっているがいちいち相手していたらそれこそドツボにはまるというやつだから仕方ない。目的地に関してはマキが知っているなら案内してもらったほうが良いだろう。


(おーけー、分かった。とりあえずその辺の魔物掻っ捌いて俺に魔力をくれ。話はそれからだ)


「体貸してくれって事か? わかった。エミ、なるべくおいしそうな魔物食べよう」


「がってん!」


(と思ったが先に客だ。俺が相手しなくて良かったといったところだな)


 客? 町からはそんなに離れていないとはいえ誰だと思って思って振り向くとアンナさんがいた。


「あの、私も、一緒に連れてってください!」


 アンナさんは走ってきたのか息切れしていた。正直言って息切れしてる女性はちょっと色っぽく見えるから困る。程度にもよるだろうが。


「アンナさん……」


(ダメだな)


「マキ?」


 来てくれたのなら一緒にいれば心強いのでありがたい話だったはずだが、何故かマキが断ってくる。どういう事だ?


(俺たちの目的地はエルフの森だろう? あそこは魔の性質の物を嫌う。闇魔法使いなんて連れて行ってみろ、即行退場になるのがオチだ。上手く断れ)


 アンナさん嫌いなのかと思ったが真っ当な理由だった。というか魔王が住処作った森だというのに魔の物を嫌うってどういう理屈なんだ。


(それはそれ、これはこれだ。とにかくダメなものはダメだ)


 頑固おやじみたいになってるな、マキ。でも場所も性質も知っているだろうマキが言うのだから間違いないだろう。ここは上手く言って帰ってもらうしかない。


「アンナさん、来てもらって悪いんだけど……」


「お兄ちゃん、私とイチャイチャできなくなるから他の人がいるのが嫌なんだって」


「違うわ! 実はちょっとした理由があって」


「お兄ちゃんは妹しか愛せない性癖なの」


「トモキさん……」


 アンナさんの目が段々痛々しいものに変わっていく。それになんだか距離も取られているような気がする。


「これから向かうところはちょっとわけあって」


「愛し合うカップルだけじゃないと入れないところなの」


「トモキ、さん?」


 こいつ、俺が断ろうとしてるのわかってて流れをシスコンにしようとしてるんじゃないだろうな。いや結果だけ見れば断れるのだからそれはそれで良いのかもしれないが全然良くない。


 どうにかして普通の流れに持っていきたいが妹をどうやって抑えるか、そこが問題だ。考えられる方法はこのままごり押して普通の話をし続ける。


 だめだな、そのまま流れるようにシスコン疑惑が妹からアンナさんに刷り込まれるだろう。それならアンナさんを連れていけばシスコン疑惑は解消される? それじゃ本末転倒か。


「お兄ちゃんは私のこと愛してるからね、ほら婚姻届けだってあるよ?」


「トモキさん……」


 ドン引き。まさにそんな顔。というか突っ込まなかったがよく婚姻届けなんか手に入れられたなまじで。それによく見ると俺の字そっくりに真似て名前まで書いてあるしこいつやばいな。俺もドン引きだ。


 いやドン引きしてる場合じゃない。シスコン疑惑を晴れさせかつ問題にならないようにアンナさんを帰らせる方法は……。


「アンナさん、こいつの言う事はあんまり真に受けないでください。十割嘘なんで」


「私の事、嫌いなのお兄ちゃん……」


「……九割くらいで」


「甘いですね!?」


 なんだかんだで嫌いかと言われると葛藤してしまう自分が許せない。だからつけあがるんだよこいつは!


「じゃあ、私はついて行っていいのでしょうか」


「それは、ダメ、です」


「やっぱりエミさんと……」


「違うわ!!」


 いかん完全にシスコンだと思われてしまっている。こいつら真面目に話させる気ないんじゃないかと俺が疑ってしまう。


「マリーさんにはあなたが必要でしょう?」


「姉は、一人でも大丈夫だと言っていました」


 許可はもらってきてるが姉ともまだいたい、そんな雰囲気を漂わせていた。


「アンナさん、家族を大切にして欲しいです。あの町、あんまりいい思い出無いんですよね?」


 アンナさんは無言で頷く。きっと嫌な事も忘れて、新しい何かを探しに冒険に出ようとしていたんだろう。マリーさんもそれがわかったから大丈夫だと言ってアンナさんを送りだしたんだろう。


「前はそうだったかもしれない、でもこの事件で町の人たちからの印象はかなり変わったんじゃありませんか?」


 闇魔法使いだと言われて邪魔者扱いをされていたようだが、ダンジョンの中では助けてくれてありがとうと、俺達と一緒に言われていた。全員が全員悪い人じゃないというのはアンナさんもきっとわかっただろう。


「俺はまだ、アンナさんはあの町で出来る事があると思います。マリーさんもきっとそう思ってますよ」


「そうでしょうか……」


 アンナさんは自信なさげにしていたが、少なくとも邪魔者扱いされることはもうないだろう。宿屋の主人だって元々そういう扱いをしていたのは一部だけだとも言っていたし、これからは助けられるなら助けるとも言っていた。


 あの町にアンナさんとマリーさんの居場所はちゃんとできた。


「あなたは人を助ける事が出来たんです。例え姉を助けるついでだったとしても、結果的に助けたんだからいいじゃないですか。自信をもってください」


 いつもうつむきがちなのは自身の無さの表れだったのだろう。でも、もう自信をもっても俺は良いと思う。


「町の人たち全員を信用しろだなんて言いません。ただ、ちょっとずつでも歩み寄っていけると俺は思っていますよ」


「トモキさん……」


 アンナさんは一つ頷くと真っすぐこっちを見て言った。その目には何かを決めた意志のようなものが感じ取れた。


「わかりました! 私町に戻ります。姉にも謝らないといけませんね!」


「ええ、頑張ってください」


「励ましてくれてありがとうございました。助けてくれたことや一緒に戦ったこと絶対忘れません。また会いましょう」


 晴れ晴れとしたアンナさんに少し眩しいものを感じながら握手をする。これならきっと大丈夫だろうと思えた。


「それに、ついて行きたいだなんて失礼でしたね。力になれるくらい強くなったら、今度は私が助けてあげます」


 そのままぐっと引き寄せられ、頬にキスをされる。そのままアンナさんは振り返らずに町の方に走っていった。……まぁ、大丈夫だろうな。


「ぶーぶー、私もあんまりしたことないのにー」


「あんまりってどういう事だ!?」


 妹の不穏な言葉に思わず突っ込みを入れずにはいられなかった。


「あと、エミさんに変な事しちゃだめですよー!!」


「するわけないでしょー!」


 遠くの方からわざわざ叫んでくるアンナさんに叫び返す。どうやら無事に町に戻すことには成功したようだがシスコン疑惑を無くすことはできなかったようだ。


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