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「いや、実はあのあとお城の方に行って確認してもらったんですけどその時は鑑定士って言われたんですよね」


「ふぅん?」


 疑われているのだろうか、ちょっとした良心なんて出さずにいきなり確認してしまえばよかった。いやでももし勇者がステータス確認されたのを何かしらの能力で知ったとしたらそれこそ疑われるだろう。妙な好奇心に駆られるレベルを言ってくる勇者が憎い。


「職業が変わるというのは、神殿とかで儀式をしなければできないはずだが……メガネの方じゃ見えなかった、とかなのだろうか。科学者という職業で鑑定出来るのも不思議だったしなぁ」


「そういうことなんじゃないでしょうか」


 勇者パーティは職業の細かい特性とかを仲間に話していないらしい。そういえば名前で呼んでないのもそうだし危険になりそうなものは全部秘密にしておくとか決まりでも作っているのだろう。


 なんにせよそのおかげでこれ以上の追求はなさそうだ。


「ん、町の方から連絡が入った。どうやらあっちは片付いたみたいだ。安全になったのを確認したら町の人の避難を手伝いにくるそうだ」


「それは、勇者パーティのみなさん……?」


 というか連絡ってどうやって取ったんだろうか。テレパシーみたいなものでも使っているのか、それとも科学者のメガネが何かしら怪しいモノでも発明したのだろうか。


「そうだよ? あー、そういえば侍もいるから君は逃げたほうがいいかもしれないね。こっちの事は任せてくれていいよ。適当にやっておくから」


 ありがてぇ。勇者が人格者に見えてくるから困るところだけどこういうところはしっかり勇者してるなぁと思わなくもない。


 あの連中に会うのは正直かなりごめんなので逃げる準備をする。短い滞在だったが冒険らしい冒険だったと思う。新たな仲間に出会え……。そういえばアンナさんって別に一緒に旅してくれるというわけじゃないのか?


「お兄ちゃん、どうしたの?」


 階段下から戻ってきた妹が問いかけてくる。正直妹と二人旅は色んな意味で危険だ。もちろん俺がだが。


「アンナさんって俺たちのパーティに入ってくれるのかなと思ってさ」


「マリーさんにあえてあんなに嬉しそうにしてるアンナさんを連れていくの? あんなだけに」


「くだらないダジャレ言ってると怒るぞ」


「望むところだよ? でも実際あの姉妹を引き離すのってちょっと気が引けるというか……」


 ……そうなんだよな。マリーさんが目覚めた時本気で嬉しそうにしていたアンナさんを見ているだけに俺達と一緒に来てくれっていうのはかなり忍びない。むしろ姉妹二人で仲良く暮らしてほしい。


 この一件で町の人たちとも少しずつ関係性を良いものに出来るだろうと思うし、そこに水を差すというのはどうなのだろうか。


 俺たちの旅の目的も、アンナさんに知られるというのは結構なリスクがあるというのも事実だし。魔王が体の中にいるっていうのを妹以外に話すのは気が進まない。


 アンナさんが誰かに話すという事も考えられる以上、俺がその話をした場合絶対についてきてもらわなくてはならない。誰かに言うとは思わないけどそれはなんだか脅してるみたいで嫌だしな。


「そうだな、予定ではだれか一人くらい仲間にしたかったけどある意味仲間が増えたといえば増えたしな。二人旅を続けるか」


 今回はマキという力強い味方を得る事ができた、それだけも充分以上にありがたい話だろう。元魔界最強とそれを倒した者の能力の一部、物まね。この二つがあれば当分は何とかなりそうな気がする。


「うん、じゃあ愛の逃避行、しよ?」


「愛でもないし俺たちは逃げるわけでもないわ! あと急ぐとはいえ挨拶くらいはしていく」


 盗賊が来るかもしれないということで階段の下で避難準備と戦闘準備をしていた人たちと共に、アンナさんとマリーさんも上に戻ってくる。


 勇者からもう町の方は安全だという知らせを聞いてみんな一様にほっとした顔を浮かべていた。人がさらわれたり町が襲われたり散々な目にあっていた町の人たちもやっと安心できるといった感じだった。


 アンナさんを呼んで、俺と妹がこれからどうするか話すことにした。


「そう、ですか」


「はい、俺とエミはもう行きますね。短い間でしたがありがとうございました」


「またね、アンナさん!」


 アンナさんは何か言いたげにしていたがそれ以上は何も言ってこなかった。


「私たちこそ本当にありがとうございました。あなたたちが来てくれなかったらと思うと……。気を付けてくださいね」


 マリーさんからも丁寧に頭を下げられた。なんだかちょっとこそばゆい気がするが、感謝されるような事をしたんだなぁと感じられて嬉しかった。


 簡単な挨拶を済ませて、アンナさん達に背を向けて旅立とうとすると宿屋の主人に話しかけられた。


「あんたら本当にありがとな。こんなもんしかお礼ができないが受け取ってくれ」


「これは?」


 世界地図とアイテムと思われる紙を渡される。世界地図はこれからの冒険には便利なものなので素直にありがたいと思えるが、もう一つはなんだろうか。


「それは宿屋特性のアイテムだ。宿屋を拠点にする場合はそれを半分にちぎって部屋に置いておけ。もう半分を持っていればテレポートのようにすぐに戻れる。もちろんパーティメンバーにも効果はある」


「それはありがたい!」


 休憩所ポイントに飛ぶ目印みたいなものか。魔法や化学の結晶のようなアイテムを貰ったがこれはたぶん結構値の張るものなんじゃないだろうか。


 だがそれを聞くというのも野暮なものだったのでありがたく受け取る。現金でお礼をされるよりこういうアイテムを貰った方がなんとなくだが嬉しいものだ。


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