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予想

 町の住人全員が安全に移動出来ればすぐにでも見に行きたいが、今は行くわけにはいかない。狙われるとしたら町もそうだがこっちの可能性もある。

 最後にいた盗賊が、人身売買のみを目的にしているなら一度アジトに戻ってから仲間を連れてくるだろう。その場合どのくらいかかるか。早くても半日、いや徒歩で移動して乗り物で戻ってくる場合だともう少しかかるか?


「お兄ちゃん、町の様子みてこようか?」


「いや、すぐじゃなくていい。宿屋からは逃げただろうがまだ時間はあるはずだ。それに町の人たちよりも俺はお前の安全を重視したい」


「お兄ちゃん……」


 全く知らない町の人たちの安全よりも、俺は妹を守りたい思いのほうが強い。最悪な話このまま妹とどこかに逃げたって構わないくらいの気持ちもある。


「ま、だからといって俺たちも逃げたら人としてどうかって話になるけどな」


 妹の頭を撫でてやるとちょっと嬉しそうだが心配そうな顔をされる。例えマキが手伝ってくれるとしても俺自身が危険にさらされるのには変わりがない。


「今度こそお兄ちゃんを守るよっ」


「そうだな、ぜひ頼むよ」


 妹のステータスを見てかなり安心したのもあるが、こいつの笑顔は俺に力をくれる。昔からお兄ちゃんお兄ちゃんとちょこまかついてきたが、なんとなく邪魔扱いできなかったのはこの笑顔のせいだろう。


 というかこんな町の近辺でここまでレベル上げたってどうやったのか気になるところではある。俺たちのいた町スタード付近には強い魔物は全くと言っていいほどいない。シマダのレベルが4だったのも倒したところで経験値があまり稼げないからのはずだ。


 それなのに町を出るときは30を超えていたと言っていた。妹は町から出ていないし旅もしていないはずだ。それを考えていると師匠が一体何者なのか本当に気になってくるな……。


 そんな事を考えているとケガをした男が入口の外から駆け寄ってきた。


「た、大変です! 盗賊が! 盗賊が現れました!」


「そう、ですか」


「どうやらこのダンジョンにも入って来てるみたいです……。私は道を知っていたから先回り出来ましたが、どうかお助けください!」


 かなり切羽詰まったようにまくしたてる男に周りの人たちも不安そうな顔になる。状況は思ったよりも悪そうだ。町を占拠しつつダンジョンにも人を出せるくらいの規模の盗賊団。どっちに主力がある? 町か? こっちか?


「私がいきます!」


「アンナさん」


 俺が考えているとアンナさんが声を上げた。最初の頃は大人しいと思っていたが、姉と再会できて安心したのと姉を捕まえた原因を作った盗賊を許せないのだろう、目に強い意志を感じる。


 しかし、アンナさんの魔法は広い所や平和な町の中では効果が薄いと言っていた。今は平和な町じゃないが魔の成分はかなり少ないだろう。マリーさんの事もあるし二人にはここに残って貰って俺と妹が向かったほうが良さそうだ。


「いや、アンナさんはマリーさんとここを守っててください。俺とエミが行きます」


「そんな! 私だって戦えます! 姉をこんな目に合わせた奴らを許せません」


「アンナさん、ここにはまだ動けない人もいます。この場所自体も広くはないですし、そして入口も一方通行で守りやすくなっています。守りは俺達よりもアンナさんの方が向いている。わかりますね?」


「……はい」


 行っても足手まといになるかもしれないのがわかったのか、理解してくれた。だけど正直アンナさん一人と病み上がりのマリーさんだけに任せるのは不安でしかない。せめてあと一人でも戦える人がいれば……。


 しかし考えても仕方ないので走りだそうとしたその時、正面から人がきた。


「無事か!? っと君はあの時の」


「勇者!?」


 突然勇者が現れた。城で別れて以来二度と会いたくない勇者PTだったが、今は頼もしい事この上ない。というか勇者がいるならもしかして他のメンバーも来ているのだろうか。


「君が何故ここにいるのかはわからないけど、町の人たちから話は聞いた。助太刀させてもらうよ。町には魔女達がいるから大丈夫だと思う」


「そうか……」


「勇者様……? 本物の勇者様だ!! 助かったぞ!!」


 勇者PTが来たなら俺たちが戦う必要もない。町の人たちも暗い表情から明るい表情に戻っていく。この勇者の能力は折り紙付きだ。妹が全く歯が立たなかった相手と互角以上に渡り合える実力の持ち主。


 だがどうしてここに来たのだろうか。城から遠くはないし不自然ではないがタイミングが良すぎる。


「勇者さん、どうしてあなたがここに?」


「ここに来た理由はね、昨日膨大な魔力を感じたからなんだ。それも、この場所で」


 勇者は足元を指さす。そこは昨日マキが魔法を撃ったところだった。勇者はしゃがみこんで地面をなぞるように触っていく。


「どうやらここに強いモンスター一匹と、さらに強い魔力を持った何かがいたようだね。君は知っているかい?」


 こちらを見ずに問いかけてくる。触っただけでそんなことがわかるものなのか関心していたが、その質問にはなんだか威圧的なものがあるんじゃないかと勘ぐってしまう。今何も言われていない事を考えれば疑われているわけではないと思うが、勇者が一体何を考えているのかいまいちわからない。


「実は魔界から来ていたモンスターの中に、まだこっちに残っている奴がいてね、そいつを探していたら昨日、ここで強力な魔力が急に発生した。急いで向かったら近くの町の人たちがいなくなっているという事件もあったという話だったけど助かったとも言っていてね」


 勇者はまだ地面を調べながら喋り続けていた。調べている場所は、グルゴが俺たちに向けて魔法を撃った場所、妹やアンナさんが魔法を食らった場所、そして、俺がマキに入れ代わった場所。


「昨日来た旅の方が助けてくれたと、そう言っていたよ」


 勇者は立ち上がるとこちらを真っすぐに見て聞いてきた。


「君、魔王になったのかい?」


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