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疑惑

 夜も明けて朝になり、何人か回復した人と協力して捕まっていた人たちと共に町に戻ることになった。何人かは既に町に向かっている最中で現在ダンジョンの中は順番待ちの状態になっている。


 回復した人の中にはマリーさんの姿もあった。町では迫害されていたらしいが、協力して助け合っている姿を見るとこの町でこのままやっていけるだろうと思える。見ているとアンナさんがこちらに気づき、マリーさんと一緒に近づいてきて頭を下げられた。


「トモキさん、本当にありがとうございました」


「あなたが私を助けてくれたそうで……ありがとうございました」


「いえ、なんというか、どうも」


 お礼を言われ慣れてないせいか思わずどもってしまった。それに助けたと言っても俺じゃなくマキの力だしどうにもむずがゆい。感覚は共有できてなかったのかキスしたのに実感がないというのも本当におしい。


「トモキさんがいなければ死んでいたかもしれないと妹から聞きました、なんとお礼をしたらいいか……」


「いやほんと、大丈夫ですから気にしないでください」


 ステータスが上がったのだからこちらも得をしているし、かしこまられると柄にもなく緊張してしまう。というかこの姉妹顔整ってて真っすぐ見られるとドキドキするんだよな。

 幼さを残した可愛らしさのあるアンナさんに、お姉さんって感じの美人系マリーさん。この二人が揃っているとこうも絵になるとは思わなかった。


 主に闇魔法を使うのは魔物が多いが、魔物は歳をとらず人型の場合は男だろうと女だろうと例外なく美人が多いと聞く。闇の精霊の影響で嫉妬や怒りを向けられやすい顔の作りになるんじゃないかという噂もあった。魔物が美人なのは人間からの嫉妬、人間が美人なのも人間からの嫉妬を受けやすいように。負の感情が高まりやすいようにということで。


 そう考えるとたしかにこの二人はそういう対象になるだろうと思える。主に人間からの負の感情ばかり向けられるというのが皮肉ではあるが。

 そもそも町の人たちから迫害されていても助け合えるという清らかな心を持っているのにどうして闇魔法使いの適性があったのだろうか不思議である。


 二人は町の人たちの介護に向かったが俺と妹は旅人で腕が立つということで町の人たちの護衛と、捕まっていた人たちがいる場所の守護を頼まれていた。妹の方が強いので大変だが道中の護衛を任せて俺はダンジョンの中の護衛をしていた。


 俺が戦力になるかどうかはともかく、妹から何往復もするわけじゃないしこの町に鑑定士がいたらレベル1は変に思われるからお兄ちゃんはみんなと一緒にいてと言われた事もある。マキに代われば戦えるがそこまで頼るというのもどうだろうということで納得することにした。


 と言っても見張ってるだけというのもかなり暇なのでやはりマキと会話することになった。


「魔王ってもっと冷酷なんだと思ってたよ」


(それは前にもいったろ? お前の中で過ごしてたからその影響をうけたんだって)


「それは聞いたけどさ、エルフの今の住処作ったってことは頼みを聞いたって事だろ? 魔王といえばエルフは皆殺しだーとかやっても平気だと思ってたぜ」


(どんだけ鬼畜だよそれ……。仲間にエルフと親しい奴がいた、仲間が殺されそうだっていうから手を貸しただけだ。仲間が大切な物は守りたい。それは今も昔も何も変わらん)


 情に厚いっていうのがイメージと違うんだけどな。と思ったがこいつはそういうもので、こいつなりに色々考えての行動だったんだろうと思わされる。


(まぁでも、人間の仲間以外にも優しくしようとか守ろうとかっていう感覚はいまいちわからないがな。魔界では仲間以外はほとんど敵だと思っていいからな)


「そうだな、それは正直俺にもわからん。というか盗賊三人殺してるからな……。グルゴと喋ってるやつと合わせて四人は俺たちが殺したようなもんだ。容赦ないこともあるよ」


(ん? 四人? お前の中で意識が出たのはさっきだから知らないが四人殺したのか?)


「そうだが?」


 そんなことに疑問を持つなんてどうしたんだろうと思ったが四人という言葉に違和感を感じた。そういえば宿屋の主人が言っていた旅人の人数って。


(気づいたか? 盗賊は五人いたんじゃないのか?)


「その通りだ! 宿屋の主人はあの時この中にはいないって言っていたからまさか……!」


 妹が危ない。そんな予感がして俺は町に戻ろうと思った時。


「お兄ちゃんどうしたの?」


「エミ! 無事だったか」


 一瞬で緊張が緩んだためか思わず妹を抱きしめる。妹は少し驚いたような顔をしたあと頬を染めながら少し大きめな声で言った。


「お、お兄ちゃん人前だよ? こういう事は人のいないところでゆっくりと、ね?」


「お前こそ人に聞こえるように何言ってんの!? ちがうわよく聞け、盗賊が一人どこかにいるはずなんだ。町になにか異変はなかったか?」


「え、そうなの。私町の中まで行ってない、入口で見送って戻ってきちゃった」


「……そうか」


 この分だと残りの盗賊はどうしているだろうか。選択肢的には逃げるか町の人たちを人質にするか、いや人質にしたところで何もできないな。それなら逃げているか町の人たちに見つかってボコボコにされているかのどちらかだろうか。


 魔物に人間を売った末路としてはその町の人たちから復讐されるというのは爽快感溢れる話だがそうそう上手くはいかないだろう。どのくらいの規模の盗賊だったかは知らないが、この町にちょっかいをかける事はもうしないだろうと思いたい。


 思ったよりも規模が大きい盗賊団なら、町の人たちが弱っている今襲いに来てもおかしくないが、信じたくないのと戦いたくないという気持ちが大きかった。


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