地下
(……なるほどな。物まねしの魂が俺の魂を封じていたと)
「そういう事になるな。だからこそ気になってることがあるんだが。マキの魂は完全に魔王なのか、物まねしの魂も混ざっているのか、という点だ」
マキが純粋な魔王の魂だったらもしかしたらこんなに人間よりの考えにならなかったかもしれない。どちらかというと俺の体を乗っ取って魔界に戻ってしまいそうなイメージがある。封印される前の魔王っていうのは、生き残るために自分を転生させようとしたのだから。
(もし混ざっているのなら、俺はどっちなんだろうな? 感覚的には完全に魔王だがもしかしたらあいつの可能性もあるのか)
あいつ、というのは物まねしの事だろう。
「でもまあそこは別に深く考えるところじゃないか。マキは俺の仲間、一緒に育ったなら家族とも言える。そして害はない。それだけわかってれば充分だな」
(お前は軽いな、俺はもうちょっと気になるところだな。自分を殺しに来た奴の魂が入ってるってのはあんまり良い気はしないからな)
「だが俺はもう、マキも仲間の一人だと思ってる。その物まねしの力が使えるのなら俺も一緒に戦える」
(ん? お前戦えないの)
「……」
魔物にはレベルという概念がない。だから俺がレベル的に全く上がってないとしても気づかないのかもしれない。
(わかった、俺が魔の使い方と物まねしのコツってやつを教えてやるよ。そう気を落とすな)
やたらと親切な魔王もいたものだ。
「ん……」
「エミ、起きたか」
魔法が解けたのか、エミが目を覚ました。
「良かった、無事だったか」
「お兄ちゃん……? え!? さっきのやつはどうしたの!?」
「死んだよ」
「誰が倒したの……?」
そうか何も言い訳考えてなかったぞ。いやまて妹はあの場にいたから全部知っているはずだ。言っても問題ないはず。
「一応、俺が倒したことになってる」
「……なんだか、魔法使った跡があるけど」
こいつよく見てるな! 戦闘跡を眺める余裕があるとかだいぶ冷静だな!
「その辺については後で話すよ」
「……絶対?」
「絶対」
「じゃあ今はこれで許してあげる」
そういって妹は抱きついてきた。不意打ちに近かったので全くかわす余裕もなく抱きとめる。
「怖かった……。ありがとお兄ちゃん」
「……ああ」
そうだよな。あのままだったらどうなっていたかわからない。相当怖かっただろうな……。助けられて本当に良かった。マキに感謝だ。
「あれ……、私……」
アンナさんも目を覚ましたようだ。これで全員そろった。
「二人とも大丈夫か? 少し休むか?」
「大丈夫だよお兄ちゃん、早く町の人たち助けにいこう」
「私も大丈夫です。姉に早く会いたいです」
そういえばアンナさんの姉、マリーさんを探しに来たんだったな。自分に色々ありすぎて忘れそうだった。
グルゴの話によれば人身売買もしていたらしいが、素養のあるものは食料として残してあるという事だったので間違いなくマリーさんもいるだろう。
地下へ続く階段を下りると思ったよりも長かった。人工的に作られたようになっていてまっすぐ下に伸びている。明かりも何もなく真っ暗な階段が続いていた。
進んでいくとうめき声みたいなものが聞こえてきた。
「お兄ちゃん……」
「結構、いるな」
それはそうか、町の人たち大半がさらわれて来ているんだ。それで静かだったほうがおかしい。
(おい、魔物の気配がするぞ)
マキが忠告をした直後に魔物の声が聞こえてきた。
『ふーむ、中々たまってきたな。ん、だれだお前ら』
相手の姿は見えないがこちらの気配を感じたらしく話しかけてきた。魔物の言葉だと認識できるようになっているのはマキの影響だろうか。
(こいつは戦闘能力は高くないが厄介な奴だ。魔を自分の好きな形に変えて操る攻撃をしてくる。人間に食わせたりすれば拷問になるだろうな)
こいつが人間たちを管理していたのか。グルゴ一人じゃなかったのは正直きつい。
『ここに人間が降りてくるというは考えづらい。考えられるとしたらグルゴがやられてしまった場合のみ。つまり私の役目は終わりですね。さようなら人間たち』
そういうと魔物の気配は消えた。なんだ? 俺達と戦わないのか。
(戦えば間違いなく勝てたな。人間には猛毒になる魔もお前に取り込ませたら意味がないから良い判断だろう。逃げる時をわきまえる奴は強い)
それを見越して逃げたわけではないと思うがお互いに助かったというところだろう。
「お姉ちゃん!」
「……アンナ……?」
アンナさんはマリーさんを見つけたらしく駆け寄って声をかける。どうやら売られても死んでもいなかったみたいで一安心と言ったところか。
(いや、あれはまずいな)
「どういうことだ」
(魔が入りすぎて体どころか精神が侵食され始めている。あのままだと間違いなく死ぬな)
「おいじゃあどうしたらいいんだよ」
「お兄ちゃん? どうしたの?」
妹が話しかけてくるがそれどころではない。助けに来たのにもう手遅れ?
「アンナ……私はもうだめみたい」
「お姉ちゃん! しっかりして! 今連れて帰ってあげるから!」
暗いからよくわからなかったがよく見ると体から完全に血の気が引いている。まさに死ぬ一歩手前といった感じだった。
「おいマキ、どうしたらいいんだよ。このままだと死ぬってことは助かる方法があるんだろ」
(あるにはあるが、あんまり倫理的によろしくないぞ)
「倫理的? 人を食った俺にはもう倫理なんて関係ねぇ」
(……わかった。じゃあ少し体借りるぞ。文句は言うなよ)
そういってマキは俺の体の主導権を持って行った。俺は遠いところから眺めているような感覚でマキの行動を見ていることになったがマキは真っすぐにマリーさんのところに向かっていく。
「お姉ちゃん!」
「どいてくれ」
「あなたは……!?」
アンナさんを手で制してマリーさんの体を支えた直後口づけをした。




