戦闘2
扉越しに声が聞こえていた割にはかなり頑丈な作りの扉だった。俺たち三人が入ってきても中の魔物は一切動かず、ただこっちを見ているだけだった。
かなりの威圧感がある。そこら辺にいる魔物とは明らかに格が違う。
人間よりも二回り以上もでかい体、蝙蝠のような禍々しい翼、機械のような鋭く鈍く光る大きな爪、そして魔物の中でも見たことがないグロテスクな顔。こんな町の近くにこれほどの異形な魔物がいるなんて。
「お兄ちゃん、こいつ、強いよ」
妹は冷や汗をたらしながら身構える。魔物や人相手でもまったく真剣味のなかった妹のこんな真剣な顔は初めてみる。俺が感じているよりも妹には相手の強さがよくわかるようだ。
師匠という人のところでどんな修行をしてきたのかはわからないが、もしかして死線でも潜ってきてるのだろうかと思えるほど緊迫した空気を放っている。
「姉を返してください!」
アンナさんが叫ぶが、足が震えている。こんな強そうな魔物を相手に啖呵を切ることはかなり勇気がいるだろう。相手からまだ敵意といったような物は向けられていないのにこれだ。勝手に怯えている状態、恐慌状態に陥っても何もおかしくはない。
魔物はこっちに今気づいたと言わんばかりに視線を向ける。それだけで心がやられてしまいそうだ。でもだからと言って心を折られるわけにはいかない。
俺にできることはまだ何かあるはずだ。
『つまらん、敵打ちか。つまらん人間風情でも少しは楽しませてくれよ』
椅子から立ち上がると異様さがさらに際立つ。序盤になんでこんな強そうなのがいるんだと本気で思う。しかしつまらない、か。目的はアンナさんの姉だったとしよう。それなら今は何を目的にしている?
つまらないというのなら、何か楽しむものを探していたはずだ。考えろ、考えろ。戦って勝てないなら戦わないで勝つしかない。
「じゃあ、何ならおもしろいんだ?」
妹もアンナさんもこの魔物相手に勝てるとは思えない。異様な佇まい、そしてこの近辺では明らかにおかしい強さを持つことからこの魔物はもしかしてこの前のお城を襲撃してきたときの連中なんじゃないだろうか。
『ほう? 我々の言葉が通じるのか。面白いな』
「ああ通じるぜ、さらに言えば魔王の魂を探しに来たんだったらその場所すら知ってる」
『ほう……? 聞かせてみろ』
「いいぜ、だがその前にこの二人を逃がしてもらってもいいか?」
「お兄ちゃん!?」
「トモキさん!?」
二人が叫ぶ。
「エミ、アンナさん。あいつを相手にして勝てるのか? 無理だろ? ここは俺に任せて引け。マリーさんも必ず助けてみせる」
「お兄ちゃん……わかった、絶対に生きて戻ってね」
「エミさん!? そんな……」
「ここはお兄ちゃんの言う通りにしよ」
ここでアンナさんが闇魔法を使ったら、確実に狙われる。マリーさんがどうやってこの魔物に目をつけられたかは知らないが、アンナさんも闇魔法使いだとわかったら殺されるだろう。それはなんとしてでも避けたい。
妹はそれがわかっていたのか、アンナさんをなんとか説得する。気絶させないで言葉で説得するのは珍しいがボス相手に背中は見せられないからだろうか。
「いいだろ! 普通の人間に興味がないんだったらその二人もどうでもいいはずだ!」
俺たちの会話を黙って見守っていた魔物に訴える。このまま逃がしてもらえれば二人はどうにか助かる。全滅することはないだろう。可能な限り交渉して逃げるつもりではいるがどうなるかはわからない。
『ふむ、確かにそうだな。だが違うな。その二人、ただの人間ではあるまい?』
そういうと魔物は腕を下から上に大きく振り上げる。ただのそれだけで風圧が俺たち全員を吹き飛ばす。予想以上に豪快な技に呆気にとられる、吹き飛ばすのに腕振るだけとか本当に強いじゃねえか。
威力事態は大したことはないが、壁に叩きつけられるほどの風圧、それなりに痛い。俺たちはなすすべもなく壁に向かって飛んでいき叩きつけられる。妹以外は。
「まず一人、何者だ」
「人間の言葉も喋れるんだね、さっきも外から聞いたけど実際にみるとすごい変な感じするね」
妹も壁まで吹き飛んではいたが、壁に着地してダメージを無くしていた。たしかに妹の動きなら可能な感じはするが不意を突かれても可能な動きなのか。アンナさんは普通に俺と一緒に叩きつけられていたが。
「私は普通の人間だし別におかしい事はないよ」
「ははは、魔物の匂いがするぞお前ら。人間がそんな匂いをさせるものかよ」
妹も俺も首を傾げる。魔物の匂いがする……? もしかして食べたからなんじゃ……?
「キノコの魔物は食べたけどもしかしてそのせい……?」
妹も思い至ったらしく思わず顔を見合わせる。魔物を食べると魔物はわかるものなのだろうか?




