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遭遇

 お腹を満たして休憩もしたせいか、先ほどよりも疲れはなくなった。地図も目的地もわからない探索だが、幾分慣れてきたせいもあるだろう。しかしいつ魔物に襲われるかもわからないのはかわらないので警戒はしておかなければならない。

 一度引き返してもいいんじゃないだろうかと思った時、奥にある空間に明かりが見えた。


「お兄ちゃん、あそこ……」


「ああ」


 俺たちを制するように妹が奥を指差した。そこは大きめな空間になっていてさっき俺たちがいたような安全地帯と思われる。

 そこに三人の男たちがいた。


「あの人たち……町で見たことあるような」


 アンナさんがつぶやくと向こうもこっちに気づいたらしい。なんとなくいやらしい笑みをこちらに向けてきていた、近づいてもそれは変わらなかった。なんだか不快な気持ちにさせられたがスルーするわけにもいかない。


「ここで何してるんですか?」


「俺達は人を待ってるのよ、へへへ」


 楽しそうにアンナさんと妹をじろじろ見る男たちに心底嫌気がさすがどうにか情報を引き出したいのでぐっとこらえる。町にいた男たちがなぜここにいるのか、さらわれたんじゃないのか?


「町のさらわれた人たちを探しに来たんですが知りませんか」


「教えてやってもいいけどよぉ、その女共よこしな」


 どこまでもわかりやすい悪党どもに問答なんて無意味なんじゃないだろうか。そもそもぼこぼこにして聞き出したほうがこういう輩は早そうだ。レベルを確認してみるか。


ネーム:レイジ 職業:盗賊

レベル:5


ネーム:フェリー 職業:盗賊

レベル:8


ネーム:ロウジ 職業:盗賊

レベル:9


 盗賊……? この人たち町の住人じゃないのか? 盗賊がそのまま町に住んでるなんて聞いたことがないし、そもそも町にいるのなら騎士団に捕まっていてもおかしくはないはず。

 もしかしたらこの事件はこいつらが起こしたのだろうか。町の住人を一気に連れ去るというのが盗賊にできるかどうかは疑問だが。


「おいお前無視してんじゃねぇぞ、お前らやっちまえ」


「まあまってくださいよロウジさん落ち着いて話し合いましょう」


「な! なんで俺の名前知ってんだお前!」


 考え事をしていたら先手を取られそうだったので牽制で名前を呼ぶ。いきなり知らない人から名前を呼ばれたら驚くだろう、俺だっていきなり呼ばれたらびびる。


 狙い通り俺の言葉に男達は一瞬油断した。そのうち一番後ろにいるやつが妹に倒される。

 何もいわずとも武力制圧に打って出ることを理解してくれる妹はこういう時は非常に頼りになる。


 アンナさんは男達と同じように少し驚いていたが、妹が一人倒すと理解したように警戒態勢を取る。これで実質三対二の形に持ち込めた。


「てめぇら……ただじゃおかねぇ!!」


 残った二人の内一人が短剣を構え俺に襲い掛かってくる。正面からならば学校で鍛えていたからなんなく対処できる。レベル差があろうとあたらなければ意味はない。ステータス差があろうと、技術で上回ってしまえば避けず食らわずで捌くことができる。

 

「エミのがはやいなっ、と」


「ぐあああ離せ!!!」


 横にスライドして剣をかわし後ろから思い切り押す。勢いをつけて走ってきただけに後ろから押されて相手はそのまま派手に転んだ。そのまま上に飛び乗り剣を持っていた腕をひねり上げる。訓練や喧嘩で慣れていたせいか相手の動きがよく見える気がする。


「せぇい!!」


 妹の方も片付いたというかまだぼっこ中だった。壁に追いやりぼこぼこにしている。腕の脱力具合から見ると肩を脱臼させられて追い討ちを食らっている、みたいな状況だ。

 どっちが悪党なのだろうか。


 妹がお楽しみ中なので無力化したレイジに話を聞くことにする。


「で、お前らは誰を待ってんだよ。リーダーでもいるのか?」


「誰が言うかよ!」


 大人しく言うことを聞いてくれないので妹に頼んで拷問にでもかけてやろうかと思い始めてきた。いやまて俺まで物騒な考えするようになってきたぞ……その辺は勇者パーティとか妹に任せて俺は常識人でありたい。


「じゃあ町の人たちはどうした、ここにいるんじゃないのか?」


「……」


 無言は肯定ともいうが、どこにいるのかも聞き出しておきたい。だからといってこのまま無駄に時間をかけるというのも得策ではない。うん仕方ない、次の忠告で全部吐いてくれなさそうならやってもらおうかなそうしよう。


「これで最後にしようじゃないか。お前らはどこから来て誰を待って何をしようとして町の人たちをさらってこんなダンジョンに居座って何をしてどうやって生活して誰がどこにいるんだ?」


「なんだって……?」


 よし理解できなかったな。これでちゃんと忠告はした、妹にぼこぼこにしてもらおう。決してイラついたからわざと答えられないように自分でも何言ってるかわからない質問をしたわけではない。そう決して。仕方の無いことなんだ。

 

「おーいエミこっち手伝ってくれー」


「はーい」


 妹は町から拝借してきた鉄のガントレットを装備しているがその威力を存分に発揮し悪党を打ちのめしていたようだ。……死んでないよな?


「お兄ちゃんこれどうしたらいいの?」


「とりあえず何でも喋りたくなるようにしてくれればいいかな」


「はーい、えい」


「!!? ああああああああ!!!」


 レイジが落とした短剣を拾って容赦なく足首を深く切る。どう考えても重症だ、というかたぶんこの傷は一生ものだろうという傷を平気で最初からつけていた。

 確かに完全に殺しに来ていた連中に情けはいらないがえげつないというよりもためらいの無さにドン引きである。


「喋りたくなったー?」


「うあああああ……!!」


「うーん、だめかぁ。欲張りさんだからもう一本ほしいのかな?」


「エ、エミさんこの人痛くて喋れないだけじゃ……?」


「最初に言うもんかって言ったんだからまだまだやらないと駄目だと私は思います!! 言わない人は根性を見せてくれるって私聞いたことあるんだから!!」


 エミの師匠って人だろうか……。なんて恐ろしい教育をしてくれたんだろうか。俺達は町を救うためにやってきたはずなのに傍からみたら確実にこっちが悪者である。


「はぁ……はぁ……なんてことしやがるんだ、ぜってぇゆるさねぇ……殺す!!」


「殺すって言うのはね、死ぬ覚悟ができてる人だけが使っていいんだよ? それにそんなこと言われたらあなたの事生かしておくと危険だね? お兄ちゃん、こいつも殺していいのかな?」


 ……どうやら倒れている二人はすでにお亡くなりのようです。


「まあ喋らないんじゃなー」


「だよね!! んじゃ一思いにやっちゃうね」


「ま、まて!! わかった! 言うよ言う! 命だけは助けてくれ!!」


「言わなくてもいいよもう、この奥調べればなんかあるんでしょ? さよなら」


「そいつの姉を知っている!!」


「エミさんまって!!」


 ためらいのないエミの言葉を聞いて必死にレイジは助かりそうな言葉を選んだらしい。生き残るには確かな力と行動力、もしくはそれを補う狡猾さがあればいい。


「姉は、マリー姉さんはどこにいるんですか!!」


「はぁはぁ、くくく……今頃売りもんとして他の連中とならんでるかもなぁ」


「どういうこと!? 町の人たちをさらったのってあなた達だったの!?」


「へ、黒魔術師っていやぁモンスターにも高く売れるってんでお頭が目をつけたのさ。町の連中はおびき出すためのエサよ。町から虐待されてたんだってなぁ」


「……」


 アンナさんは力が抜けたようにその場にへたり込んでしまう。唯一の肉親がどこかに売られてしまっているかもしれない。その絶望感で心が壊れてしまったかもしれない。


「アンナさん、落ち着いて。まだ間に合うかもしれない」


 アンナさんの姉が出かけたのが昨日、そう聞いている。それなら一日二日で人を売ったり買ったりできるわけが無い。一番最初に連れ去られた人たちはどうなってしまったかは考えたくは無いが、マリーさんだけなら救えるかもしれない。


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