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食事

 ダンジョンに入ってからだいぶ時間が経っていたが一向に人の気配がしなかった。簡単に人が見つかるような気がしていたが現実は甘くなく、ダンジョンの中で仮眠を取る必要が出てくるかもしれない。


 魔物との遭遇率はそこまで高くはないが万が一という可能性もある。休憩を取らないでいて疲れが命取りになって後悔するというのは避けたい。ずっと気を張っているせいか妹もアンナさんも疲れが見え始めていて初めてその事実に気づいた。


「二人とも大丈夫か? 休めそうなところがあったら休憩にしないか?」


「賛成」


「はい」


 妹もアンナさんも素直に応じる。やはり疲れていたのだろう。何も発見がない状態でこのダンジョンという閉鎖空間を歩いているとこんなに疲れるとは俺も思わなかった。


「じゃあついでに食事もしよう。エミ、さっきのトカゲみたいな魔物はいけそうか?」


「うーん、私は見た目があんまり好きじゃないからキノコみたいなやつのほうがいいかも」


「でもキノコのやつって毒もってそうじゃないか?」


「あー、言われてみればたしかに。この際スライムとかいってみる?」


「いやそれはちょっと……」


「ええと、二人とも、食事の話じゃなかったっけ……?」


 二人で盛り上がっているとアンナさんが間に入ってきた。当然だ、食事の話以外をした記憶はない。ではなく魔物を食べようとしている俺たちを不審に思っているのだろう。食欲不振なのかもしれない。


 というわけで町に来る前に倒してゲットした猪肉をアンナさんにプレゼントしてみる。保存や衛星面を考えると怪しいような気もするが特に問題はない。ファンタジー世界には当然のようにボックスと呼ばれる異次元ボックスがある。


 中がどうなっているかは知らないが完全に密封空間で入れたものは痛んだり腐ったりはしない。基本的にはドロップアイテムや装備を仕舞うことが可能な箱で、これはレベルに関係なく職業を手に入れた段階で使用できる。


 しかし内容量や重さが存在するため、その場に出していなくとも疲れるという微妙に現実感のあるものだったりする。実際の重さの十分の一程度になるがそれはそれでも重いものだ。ステータスや職業によってサイズも決まっているので人によっては運べたり運べなかったりする。


 猪肉はサイズもそんなに大きくはないので俺のボックスに入っている。というか妹のものや回復アイテムなども大体は俺が持つようにしている。召還という過程や重さがあるため、戦闘時前衛を務める妹が持っているよりかは断然効率がいい。ついでに言うと人は入れられない。あくまでも生きていない物しか入らないようだ。もしかしたら死体とかは入るかもしれないがそんな場面には遭遇したくはない。


「この肉は何の肉なんですか……?」


「食べたら教える」


 俺は半分ちぎり、目の前で食べてみせる。一応ちゃんと食べられるものだという証拠を見せておかないと食べてくれない可能性もある見るからに怪しい会話の流れだった。


 俺が食べたのをみてアンナさんも口に肉を運ぶ。目をつぶり瞑想するかのように咀嚼していたが目を開き驚いたような顔をした。


「おいしい……!」


「正解はファンゴの肉です」


「やっぱモンスターの肉じゃないですか!!!」


 といいつつ残りも食べるアンナさんマジかわいい。


 これで魔物をいくら食べても文句が出ないことがわかったので妹との談義をアンナさんを加えて続行する。もちろんこのダンジョンの中で調理から何から全てするつもりである。


「俺はスライム以外ならもうなんでもいけるんじゃないかと思っている」


「私もなんだか色んなモンスター食べたくなってきたよお兄ちゃん」


「わ、私は……キノコが、たべたいです」


「毒は大丈夫なの?」


「よく家で毒抜きとかしてたので、出来ると思います」


「よし狩ろう」


 というわけでキノコ型の魔物を探すことにした。何時間かダンジョンにいるが、キノコ型の魔物は比較的に遭遇率が高い。逆に俺が食べたかったトカゲ型の魔物は一回しか遭遇していない。だから食欲がそそられたというのもあるが今回はキノコにしよう。


 食料を決めてから少し経つと、魔物を見つけた。狙い通りキノコの魔物だった。キノコといえば焼いて塩を振るだけでもおいしいが、バターと一緒に炒めたあとに味の濃い調味料を入れて味を調えて食べるとさらにおいしい。


 幸いなことに調味料に関しては旅に出る前に色々と仕入れていたのでおいしくいただけるだろう。そんな妄想をしている間に妹が魔物を気絶させて運んできたので、来るときに見つけた小部屋に入る。小部屋といっても仕切りも何もないが、所謂安全地帯だと思われる場所だ。


「どうですか? 毒抜きは出来そうですか?」


「ええと……はい、大丈夫です」


アンナさんは魔物に触れ、何やら呪文を唱える。闇魔法は毒も使えるのか、と思ったが普通の調理の方法らしい。


 魔物のサイズはそこそこ大きいのでそのまま焼くことはできない。ちょっとグロテスク気味だがためらいなく包丁を入れ調度いい大きさに刻んでいく。その間に鍋にバターを入れて火にかけておきすぐ焼ける状態にしておく。


 安全地帯とはいえ、もしかしたら魔物が匂いにつられてくるかもしれないので妹には見張りを頼んでおいた。魔物の焼く匂いにつられて魔物が来るかどうかは甚だ疑問ではあるが。


「おいしそうに焼けました、と。エミ、大丈夫そうか? 大丈夫そうならできたからこっち来い」


「うん、大丈夫そう。おー、いい感じに焼けてるねおいしそう」


「これが……モンスター……内臓とかほとんどないんですね」


 魔物を調理する場面を初めてみたアンナさんが衝撃を受けている。俺もそうだったから無理はない。一度食べてしまうと正直食べ物に見えてくるから困る。キノコを捌いた時に完全に魔物だという事が頭から抜けるくらい簡単に捌いてしまった。妹が戦ってくれるのでこれからは俺が調理しよう。


「おいしいね、このキノコ」


「そうですね、非常においしいです……」


「……」


 妹もアンナさんも和気藹々と話しながらキノコを食べていた。俺はというとまた熱に浮かされたように体が急に熱くなっていた。


≪ステータスが上昇した≫


 またか、またなのか。魔物を食べるとステータスがあがる。しかし自分のステータスを確認しても何も変わっていない。一体なんだというのか。


 体の熱に浮かされながらなんとか二人に気取られまいとする。何か違うことを考えてごまかすしかない。次に食べたい料理の事を考えるならば、色んな魔物を使った料理がいい。キノコ料理は確かにうまいが単品ではなくソースに、肉をこねてハンバーグにしたやつにキノコソースをかけておいしくいただきたい。今度ハンバーグができそうな魔物にあったら絶対にやってやる。


「お兄ちゃんどうしたの?」


「キノコソースつくってもいけそうだなと思って」


「それはナイスだよお兄ちゃん!!」


 なんとか怪しまれずに済んだと同時に熱が引いていく。この現象についてはやはり専門家がいればいいのだが誰かに聞くしかないのだろう。


 そうこうしているうちに食事は終わり、またダンジョンの探索に戻っていく。


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