ダンジョン
アンナさんを仲間に加え、目的のダンジョンまで歩いていく。聞いていたとおり結構近い位置にその場所はあった。
「ところでアンナさん、闇魔法ってどんなものなんですか?」
闇魔法は禁術みたいなところがあるので学校でも習わなかった。火なら火を起こし、水なら水を発生させ、みたいなものだが闇ならどうなるのだろうか。光が輝いていたから闇は闇を纏って戦うとかそういうのだろうか。
「簡単なのだと……こんな感じですね」
アンナさんは近くの石を拾ってなにやら呟きながら握って見せた。少し時間を空けてから手を広げる。
「おお……」
石はアンナさんの手の中できれいに消し炭になっていた。きれいに消し炭というと綺麗な消し炭ができたように感じるが普通の消し炭である。
「あとは視界を遮ったり、気分を落ち込ませたりとかもできます」
こわっ。つまりこの闇はほとんど人に対して用いられるんじゃないだろうか。技の習得にはレベルの他にも色々要素があるがこれはなんというかある意味便利な気がする。
「そういえばアンナさん一人で来ようとしてたみたいだけどレベルって結構高いの?」
姉を探しに行くと言っていて、あの町の様子からだと当然一人だったのだろう。そうなると魔物に囲まれても大丈夫なくらい強いのだろうか。
「ええと、お恥ずかしながら確認はしてないんです。離れに移動してから教会にもいけなくて……」
「そうなんですか、じゃあ今確認しましょうか?」
俺がそういうと、え? という顔をされる。初めて会った人が鑑定士なんて聞いたら確かに驚くか。冒険している鑑定士というのは今ではほぼいないようなものだしな。
「お兄ちゃんは鑑定士なんだよー」
「ほえー」
アンナさんは気の抜けたような声を出していた。なんだかたまに可愛いなこの人。手でも握ってみようか。
「じゃあアンアさん、鑑定するので手を出してください」
「え? あ、はい」
素直に手を差し出してくる。白くて柔らかそうな手で、握ってみるとやはり柔らかい。そういえば女の子の手を握るのはかなり久しぶりな気がする。
「お兄ちゃん? なんで手握ったの? ねぇ」
しまった。妹には鑑定士の能力を使うところを見られていたんだ。となると自然に手を握ったように見せかけても妹にはばればれである。
「これは違うぞ、よく知らない人に対してやるときはこうしないとちゃんとわからないんだ」
「ふーん、私が鑑定受けたとき手握られなかったよ」
言い訳はだめでした。ずっとにぎにぎしているわけにもいかないので、妹の視線に耐えつつ鑑定を試みる。手は握ったまま。
ネーム:アンナ 職業:闇魔法使い
レベル:13
力 :7
賢さ :40
命中 :35
回避 :16
丈夫さ:8
運 :3
レベル高っ! 運ひっく!! いやこれは職業補正で下がっただけかもしれないがこれまでの境遇とか考えるとこんなもんなのかもしれない。
聞いていた話だとこの辺りの平均は5~10。それを越えてるアンナさんは充分強いと言える。
「13、ですね。結構高いですねレベル」
「あ、ありがとうございます」
ステータスの事は言わなくてもいいだろう。言ったところで特に意味もないし。そういえばこれが生のステータスだとしたら装備したあとのステータスはどうやって見るのだろうか。いやそもそも装備に数値があるというのも若干疑問だがあるだろうとはおもう。
アンナさんが思いのほか強かったので戦闘はかなり楽になると思われる。こうなると俺がいかに邪魔をしないかにかかってくるわけだが、ダンジョンの中の魔物にも話しかけられれば邪魔になりはしないだろう。見られても平気か、という問題を置くとして。
魔物の声が聞こえるっていうのはかなり珍しいから引かれる可能性はある。虐められていたというアンナさんが回りに言いふらすのは考えづらいがどうしたものか。
「トモキさん、あの……」
「ちょっぷ!」
「「いたっ」」
俺がいつまでもアンナさんの手を握っていたので妹が手をチョップしてきた。もし妹が本気だったら手首から先はなくなっていただろう。
「いつまで握ってるのお兄ちゃん! アンナさんも嫌がってたでしょ!」
「ああすまん、反省はしているが後悔はしていない」
「お兄ちゃん?」
「すいませんでした。アンナさんもごめんなさい」
「い、いえ私は別に」
深々と頭を下げて謝るとわたわたと目の前で手を振るアンナさんがこれまた可愛らしい。あざといなまじで。アンナさんの闇に引き込まれてしまいそうだ。
そんな俺が気に入らないのか、妹がこっちをずっと睨んでいても気にせず見続ける。可愛いは正義だ。
「もうっ、早く行こう!」
「ああすまんすまん、それじゃ行きますか」
「はい」
俺たち三人はダンジョンの中に入っていった。ダンジョンの中は石造りになっていて区画整理がしっかりされている。自然にできたとは思えないほどの細かい造りになっているがどういう原理なのだろうか。
初めて入るダンジョンに周りをキョロキョロしていると目の前に魔物が現れた。小さい人型のような魔物で棍棒を持っている。俗に言うコボルトという魔物だ。
話しかけようかと迷っていると妹が飛び出しコボルトの頭を拳で打ち抜いた。一撃というわけにもいかず相手に怯み効果を発生させる。脳震盪といったところだろうか。
「エミさん、あとは私が」
アンナさんは手を前にだし、なにやら呪文を唱える。聞き取れないほどの小声だが不穏な空気を感じる。
「スラッシュ!」
手から黒い靄みたいなのを出現させ、かなりのスピードで相手に向かっていく。魔法にはほぼ必中の効果があるらしいので防御していないならば確実にダメージを与えられる。怯んでいれば効果は高くなる。
黒い靄はそのまま相手にあたり消滅した。
「あれ?」
コボルトは固まったまま動かない。思わず声に出してしまうが、相手が切れたわけでも衝撃を与えたわけでもないような感じだったため、違和感があった。
「これで終わりです」
アンナさんが言うとコボルトは消滅した。え、何が起きたの。
「内部を破壊しました。人にやると血を吐きます」
やったことあるんですかと聞きたい気持ちになったが墓穴を掘りそうなのでやめておく。なんにせよ心強い技だということにして黙していよう、沈黙は美徳である。
「やっぱり人に使ってこその闇魔法なんだね! アンナさん強い!」
「エミさんこそ」
妹は強い人がいて嬉しいのかはしゃいでいた。強いで片付けていいのか甚だ疑問だが喜んでいるならまあいい。アンナさんも妹に褒められてまんざらでもなさそうだし良いことずくめで万々歳だ。どこぞの勇者も強かったけど性格に難ありみたいだったし強い人はどこかしらイカれているんだろう。




