事件2
お盆で帰省しておりました。実家は新盆で7月だったのでこの時期になりました。これから毎日更新していこうと思いますのでよろしくお願いします。
「実は少し前から人がいなくなる事件がありまして……」
俺たちが助けた人はアンナと名乗った。
「最初は何百人といた町の人たちも今では数えるほどになってしまって……」
アンナさんは訥々と語り始め、町の人たちがいなくなっている事を教えてくれた。
事の発端は数日前、町の子供たちが数人消えた。どこかに遊びにいってるのだろうと結論付けたが、後日また何人かの人が消えた。大人も子どもも関係なく毎日減っていったらしい。
「姉と私は二人で暮らしていたんですが、疑いをかけられてしまって」
「あなたがなぜ疑いを?」
「うちの親はもともと旅人だったんですが、この町が気に入ったらしくここに住み始めました。最初は何事もなく過ごしていたんですが、私たちが生まれてから少しして事態が変わったんです。親の勧めもあって職業鑑定に行ったら、その、闇魔法使いと診断されてそれからはこの離れに……」
闇魔法使いといえばかなりレアな部類だが嫌われている。昔からの風習で処刑を行うなんて過激な事をするところすらあるくらいだ。この町でも処刑までは行かなくても差別の対象になったんだろう。
「他の職業になればごまかせたんじゃないか?」
「その時は、父も母もこんなことになるなんて知らなくてそのまま闇魔法使いとしてやっていこうと決めました」
旅人なら闇魔法使いがその町でどのくらい差別されてるか知らなくても無理はない。俺たちに話すのも少し言いづらそうにしていたが、黙っていてもしょうがないと思ったのか素直に言ってくれた。
「姉も私もそれからは虐められていました。両親は庇ってくれていましたが、ある時父が、私に乱暴をしようとした町の人を殴り大怪我をさせてしまいました。そのせいで父は異端だと言われ殺されました」
娘を守るために体を張った父親に対して処刑とは……。この町は思ったよりも古いしきたりに縛られていたのだろうか。それとももしかしたらスタードでも俺に魔王の魂があるかもしれないとわかったら同じような目に合うのだろうか。
「そこからは母もショックで寝込みがちになり去年亡くなりました。それから姉と二人でなんとか生活していたんですが、何か事件があるたびに呪いだと疑いをかけられて……今回もそれと同じです」
「ひどいお話ですね……。まさかお姉さんもこの事件で」
「いえ姉は……原因の目星はついた、解決してくるから待っててと、置手紙を残して昨日起きたらいなくなっていました」
人が消え続け町が一つなくなるような事件、魔物が関わっていると考えても規模が大きい。かと言って人が人を攫う……盗賊や山賊だとしてもばれないでこんなに連れ去るのは難しいんじゃないだろうか。
少し考えればわかる事なのに町の人たちはどうしてこんな事をしているんだろう。人間のほうがよっぽどモンスターらしいと思ってしまう。
「姉は闇魔法も使えます。でも心配で心配で……姉を追いかけようとしたらさっきの人に捕まって……」
「お兄ちゃん、私、この人の力になってあげたい」
「エミ……」
少し環境が違ったら俺がこういう扱いを受けていたかもしれないと思ったのか、妹はぐっと拳を握りながら言った。
「それに、疑いが晴れて町を救えばアンナさん達姉妹ももう虐められないかもしれないしね」
「エミさん……」
「そうだな、俺も協力しよう。解決するなら早いほうがいいからな」
「トモキさん……」
俺たちの言葉に心を打たれたのか涙を流しながらお礼を言われる。涙目の女の子はちょっとドキドキするなとか思っていたら妹がジト目でこっちを見ていた。
「お兄ちゃん? いつもみたいに人目をはばからなきゃいけないような事するよ?」
「あらぬ誤解を受けるような事を言わないでくれ。いつもどころか一回もしたことないだろうが」
「本当に私がお兄ちゃんが寝てる間とかに何もせず布団に潜り込んでると、本当にそう思っているの?」
「……」
この妹怖い。心なしかアンナさんの視線も痛い。
「うんまあ気を取り直して村の人たちを救いに行こう」
「そうですよね、二人だけの時間が多かったらそういうことしますよねそうですよねわかります」
アンナさんは顔を赤くして早口でまくし立ててくる。こういうのに耐性がないんだろうなぁという感じだった。話を戻されそうになったのでさらに話を戻す。
「それでアンナさん、お姉さんが向かった場所はどこにあるんですか?」
「ここから少し行ったところにダンジョンが出来たのですが、そこだと思います」
ダンジョンといえば魔物の棲家になっている自然発生した遺跡みたいなものである、と教えられている。実際にどうやって発生するのか、どこに出るか等は現在も研究中らしい。一説ではダンジョンが産まれてから魔物が出現したなんて話もある。
ハースの村付近にはダンジョンがあったという話は聞いたことが無いので、最近出来たのであれば今回の事件に関係性はありそうだ。
「それじゃエミ、行ってみるか」
「うん、たぶんこの辺りのモンスターが棲みついてると思うから私一人でも何とかなると思うよ。でも回復薬は多めに持っていくけどね」
俺たちのパーティに必要なのはとりあえず回復職だろう。というよりも全体的にパーティとして成り立っていない。アタッカーも妹一人、俺は実質荷物持ちという状態だ。ほんとどうしようもない。
「あの!」
人のいない町からいろんな物を準備してからいざ行こうかという時にアンナさんが話しかけてきた。
「私も一緒に連れて行ってくれませんか……?」
「アンナさんて戦えるの? お兄ちゃん一人なら守れるけど二人だと無理だよ?」
妹が真面目な顔になり指摘する。俺が完全に足手まといなので、二人になったら守るのは不可能だということらしい。他にも何かありそうだが何もつっこまない。
「私も闇魔法が使えます。ダンジョンの中はモンスターが多くいるので闇魔法が使いやすくなっているはずです。足手まといにはならないのでどうか一緒に!」
姉の事が心配だ、どうしても連れて行ってくださいと頭を下げられる。アタッカーが増える分にはありがたい、断る理由は特に無かった。