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出発

 教会から自宅に戻る最中に親を説得するにはどうしたら良いか色々考えていた。しかし全くと言っていいほど何も思い浮かばない。


 レベルが1であることもステータスが低いこともわかっているだろうし、何より町の決まりもある。決まりといっても絶対にするなというほどではないけどどうなるかわからないしな。


 こうなれば単刀直入にお願いしてみてるしかない。もし駄目だったら、鑑定士になったから城で色んな人を目で見て実際にどういう風にしているかを感じてみたいとかそれっぽい事を言ってみよう。説得する理由あるじゃん。


「父さん、俺冒険に行ってくるよ」


「ああ、いってらっしゃい」


「軽いな!?」


 家に帰って開口一番親に言ってみたらあっさり承諾された。なんだこれ、軽すぎやしないだろうか。


「母さんいいよな? トモキももう子供じゃないんだし。レベルは1のままらしいが」


「あなた……。でもそうね、自分で決めたことなら母さん達は反対しないわ。でもちゃんとお友達とパーティ組んで行くのよ? 外は危険なんだから」


 両親はいつもと同じように、同じような口調で、友達の家にでかけるわが子を送り出すように承諾してくれた。いつも見守ってくれていて感謝の気持ちが溢れてきた。


「ありがとう……明日まず隣町に行って仲間探してから行くことにするよ」


 仲間は必須だ。この町では一緒に行きたいと思えるやつはいないので隣の町で探すことにする。できるなら壁になってくれるタンク職、後衛をしてくれる魔法職、近接アタッカーもほしい。

 さらに望むなら同じくらいのレベルの人たちで固めて共に強くなって行きたい。俺はレベル1のままだろうが。


「お兄ちゃん、良かったね。私も冒険楽しみだな!」


「え?」


 妹が聞いてくる。聞き返したのは俺ではなく父さんだった。昔から俺と冒険に行きたいと言っていたので当然一緒に行くつもりでいたのだが、何を驚いているのか。


「父さん?」


「え、いやほら女の子だし、なあ母さん?」


「あなた……。父さんは私が説得しておくから二人とも冒険の準備しておきなさい。トモキは装備壊れたんだから買ってからいくのよ」


 父さんは目に涙を浮かべながら母さんから説教を受けていた。子離れできない親というのもいるがうちの父さんがそうだったらしい。一人娘を冒険にだすのは確かに寂しいのかもしれないな。

 

 色々と準備を整え数日後、妹とともに両親に行ってきますと行ったら父さんは若干泣きそうな顔をしていた。母さんはどんな風に説得したかわからないが、また帰ってくるのでそんな顔しないでほしい。

 娘がいなくなって寂しいという気持ちを我慢してる顔は、なんというか自分の親がしているとこっちが悲しい気持ちになる。


「お兄ちゃん、これからどうするの?」


「そうだな、まずは隣町のハースにいこう。そこでいい感じの人を仲間にしたい」


「二人旅でも良いんだよ?」


「せめて回復は必要だろ……」


「私はお兄ちゃんの愛があれば常に満タンだよ?」


「何が満タンになるのか知らないが俺は胃に穴が空きそうだよ……」


 二人で出かけるのが嬉しいのか妹は常に上機嫌だ。そういえば二人だけで出かけるというのはかなり久しぶりな気がする。いつからだったか身の危険を感じてからは極力二人で出かけないようにしていたのだった。


 というともしかしてこれは早急に仲間を見つけないとまずいんじゃないだろうか。夜に宿屋に泊まるにしても二部屋取るほど余裕のある旅になるとも思えない。あれ、これまじでやばくない?


「今日仲間が見つからなかったら一旦家に帰ろうそうしよう異論はないよなというか認めない」


「私は、二人きりで、お泊りでも、いいよ?」


 こいつ! 狙ってやがったな! 目をキラキラさせながら一言一言区切るように甘ったるい声を出すな。


 俺たちの町スタードからは、ハースまでは約一時間といったところの距離にある。向かうには森などもなく比較的安全に向かうことができるので歩いて向かう。スタードよりもやや大きな町で人も多く冒険者もそれなりにいる。


 道中が比較的安全といっても魔物も出るには出る。


「スライム、か」


「そうだね」


 序盤の魔物の定番スライム。レベル1でも問題なく倒せる魔物だが試したい事があるので妹に攻撃しないように言う。


「そこのスライム、俺の言葉がわかるか」


「……」


 ぷるぷると震えているだけで何も行動はしてこない。スライムと言えど人が通りかかったりしたら襲ってくるはずだが襲ってこない。こちらの声が聞こえているのだろうか。


「もしかして喋れないのか?」


「きゅいー」


「かわいっ!」


 妹が黄声を出すのにびっくりしたのか逃げてしまった。もしかしたら平和な魔物なのかも知れない。うまく行けばほとんどの魔物との戦闘はこれで乗り切れるかもしれない。


「さっきなんて言ってたの?」


「いや、普通にただの鳴き声だった」


「そうなんだー、スライムもかなり倒してたけど攻撃食らってる時以外にも鳴くんだね」


 少し歩いていると次は猪型のモンスター、ファングがいた。このファングは大きな牙が特徴で突進技が強力だが猪突猛進というくらい真っ直ぐしか攻撃しないため比較的楽な魔物だ。試しに話しかけてみる。


「ファング、俺の声が聞こえるか?」


「ぐもおおおお!!」


「うお!?」


 声をかけた途端に突進してきてすんでのところでかわす。それでもめげずに声をかけてみる。


「聞きたい事があるんだが!」


「ブルルル」


 間違いなく聞いていない。どうみても戦闘態勢だ、倒すしかない。


「エミ、こいつは倒すぞ!」


「はーい」


 妹は軽い返事とともにファングの正面に立つ。そしてファングが突進してくると横に移動し顎を下から打ち上げる。そして横腹には打ち下ろすように拳を叩き込むとファングは動かなくなった。


「手際よすぎるだろ……」


「お兄ちゃん、これ食べてみる?」


「は!?」


 言ったそばから妹はファングを捌き始める。本来なら魔物は倒すと消滅する。そして経験値とドロップアイテム、たまにお金を落とす場合がある。魔物が持っているお金については人間を倒したときに持っていたお金という説があるが、強い魔物がお金を多く落とすというのはそういうことなのだろう。


 考え事をしていると妹はファングの食べられそうな部分と皮を綺麗に取り分ける。え、ドロップアイテム自作する人とかいるんだ。とか思っているうちに家から持ってきていたらしい簡易キャンプセットを取り出し火を起こしていた。


「もうちょっと待っててねー」


 たくまし過ぎてなんだかついていけない。


「魔物ってねー、攻撃で倒すと消えるけど気絶させてから色々すると色々できるんだよー」


 色々ってお前なにしてんだよ。外で魔物を倒してレベルを上げていたのは知っていたがこんな物騒な事をしているなんて知らなかった。


「あと不思議なんだけど、モンスターは食べられるとこ多いんだ。実際の家畜だと血抜きしたり臭み取ったりとか色々大変なんだけどモンスターは血も内臓も驚くほどないんだ」


 そういえば魔物は闇の精霊を取り込んで生きているって言っていたな。ということはそれ以外の器官は存在しないんだろうか。


「というわけで、上手に焼けましたー」

 

 妹は魔物の肉を上手に焼いた。これが食卓に出てきても魔物の肉とは思わないだろうというくらい香ばしい匂いがしているし、形もそれっぽい。肉の色も紫とかそういうこともなくちゃんと赤い。いやでも紫の血とか吐く魔物もいるらしいけどそういうのはどうなんだろう……。


「お兄ちゃん食べないの?」


「いや、せっかくだし食べてみる」


 というか魔物が食べられるなら食費がかなり安くすむ。調味料や香辛料、付け合せだけで済むならこんなに良いことはないだろう。というわけでいただきます。


「!!」


「どう? おいしいでしょ?」


 確かにおいしい。おいしいが妹の声は俺には届いていなかった。

 何かがおかしい。新しい発見をした時に全身総毛立つような、身震いするような感覚。体の芯から何かがこみ上げてくるような。


≪ステータスが上昇した≫


「は!?」


「ん? どしたのお兄ちゃん」


 妹はおいしそうに肉を食べていたが俺には急に現れた文字が気になって仕方なかった。ステータスが上昇した? なぜ? 何が起きた? 肉を食べたから? 魔物の?


 体がどんどん熱くなってくる。しかし熱くなるだけで別段異常はない、むしろもっと動きたくなるくらいだ。俺は逸る気持ちをなんとか抑えてステータスを確認する。鑑定士の能力によって人だろうと自分だろうとステータスが見られるようになった。


 ネーム:トモキ レベル1

 職業:鑑定士


 ステータス

 力  :7

 賢さ :7

 命中 :7

 回避 :7

 丈夫さ:7

 運  :7


 ……なんだ、何も変わらないじゃないか。ステータスが上昇したっていうのも何かの間違いだろうか。能力も何も変わっていない。シマダと試合したときのままだ。


「あーびっくりした」


「ん?」


 塩とかかけたりしつつ肉を食べることにする。その間に今の現象について妹に聞いてみる。ただし、二人きりの状況である以上、体の芯から熱くなったりとか身震いするようなとか言うと襲われる可能性があるため言葉には細心の注意を払う。


「なあエミ、ステータス上がる時ってどのくらい数値上がる?」


 できるだけ真面目な顔をしてみる。効果があるかはわからないが雑談みたいな感じで聞くと飛躍して襲われる可能性がある。


「うーん、私の場合は丈夫さ賢さ運以外は3ずつくらいかな。どうしたのお兄ちゃん、何か変だよ? もしかしておいしくなかった?」


「いやそういうわけじゃない、おいしいよ」


 真面目な顔が具合悪そうに見えたのか心配そうな顔で声をかけてくる。思惑は成功したとは言えるが気を使わせてすまんかった。


「テロップになんて表示される? あとレベルアップ以外にステータスが上がったりするか?」


 妹は少し考えたとに答えた。


「テロップが何かわからないけどステータスは感覚でしかわからないよ? このくらい上がったなぁとかそのくらい。ちゃんと確認できるのは決闘するか、鑑定士の人に見てもらう時くらい。それにステータス上がるのはレベルアップだけって学校でも習ったでしょ?」


 テロップが、ない? 試合する時も大臣に見てもらった時にもでたあのテロップが妹には見えていない?

 確かに誰かに確認したことはなかったかもしれない。そもそも言われてみれば文字が浮かんでいるというのもおかしい。じゃああの表示はなんなんだ?

 

 これはもしかして何かあるのか?


「なあエミ、もう一つ聞かせてもらうが、レベルアップした時ってどんな気分になるんだ?」


 これはレベルが上がらない悔しさから一度も誰にも聞いたことがない質問だった。小さい頃初めてのレベルアップの感覚は人に伝えられるのではなく自分で感じたかったからだ。


「いや特に何も。なんかちょっと強くなったかも! っていうくらいの変化しかないよ」


 俺のこの現象は本当にどういうことなんだ。


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