これから
「さて、無事に町に戻ってきたわけだが一人犠牲者を出してしまったことを申し訳なく思う。みんなにも怖い思いをさせてしまって本当にすまなかった」
教師二人が頭を下げて謝罪してくる。守ってもらったにも関わらずここまで謝ってもらうのもなんだか悪い気がする。もともと魔物のいる外は危険なものでそれを承知で行ったはずなのだから。
だからといって亡くなった生徒の親がなんて言うかは俺にはわからないが、確かに良い印象はもたれないだろう。安全は保障すると言った手前、学校からも何か厳罰があるかもしれない。
「先生は、俺たちを守ってくれたし逃がしてくれた。感謝することはあっても俺たちは責めたりなんてしないよ」
俺はそう言って先生の頭を上げさせる。みんなもそれに関して同意だったらしく誰も何も言わない。シマダも恐慌状態の時に助けてもらったせいか妙に大人しくなってしまった。
「お前ら……」
むしろ最初に危険な経験ができたことはこれから冒険する上でかなり役に立つだろう。知らなければ危険なところに突っ込んですぐにリタイアなんてこともあったかもしれない。それを教えてもらっただけでも充分すぎる。
先生はもう一度頭を下げて学校に戻っていった。生徒達から職業を聞いていたので学校に報告するのも仕事のうちなのだろう。亡くなった生徒の親にも。
このまま解散ということになり、妹と共に帰ろうとするとシマダが声をかけてきた。
「お情けでも職業つけたのか? 俺は……」
「戦士だろ、見ればわかる」
シマダが面食らったような顔をしているので少しすっきりする。毎日言われたい放題していただけにこういう時に攻めていかないと精神的によろしくない。
「なんでわかるんだよ」
「簡単なことだ、対象を見ると能力とステータスがわかる。鑑定士ってやつだな」
「……」
鑑定士という職業はかなりレアだということは学校でも習っている。そしてどういう職種なのかも。わざわざ三時間もかけて城下町に行く理由がそれを物語っている。
この町には鑑定士はそもそもいないし、隣の町にすらいない。鑑定士は城や教会に専属で雇われるのが普通なくらいだ。鑑定士になれるだけでまわりに大きい顔をしても文句は出てこないだろう、しようとは思わないが。
シマダもそれをわかっているらしく何も言ってこない。こうやってちゃんと黙らせられるのは気分がいい。
「お兄ちゃん、早く行こう」
何もしない俺たちをみて焦れていたのか相手の出方をみていたのかわからないが妹に催促される。
「そうだな、帰ろうか」
妹に促されるまま俺は帰る事にする。シマダは呆然としていたが最後に負け惜しみのように叫んでいた。
「所詮レベル1なんだろ!? どうせ戦えもしないんだっら意味ないよな!!」
確かにその通りなんですけどね。
一度家に帰って体を洗った俺はもう一度でかける準備をする。戻ってきたその足で向かうには魔物にやられたせいか服がぼろぼろすぎた。
「あれ? お兄ちゃんまたでかけるの?」
一緒に帰ってきた妹にももちろんわかってしまうので別に隠すつもりもない。というか誘ってみる気でいた。
「ああ、だめもとでも教会に行ってみようと思ってな。お前もくるか?」
「ああそっか、デートのお誘いだね! 教会って事は結婚式の下見だね! 流石お兄ちゃん!!」
「お前の頭が流石だよ」
妹を連れ立って家をでる。この町には小さな教会がある。小さいと言っても神父はきちんとした教会から派遣されてきているので大きさとかは関係ない。大きかろうが小さかろうが教会は教会である。
「おー、久しぶりネー」
「こんにちは、お久しぶりです」
「こんにちはー」
教会は一つしかなく、レベルのあがらない俺は祈りに来ていたりした。結果は言うまでもなく意味はなかったので、たまに来る程度でしかなくなっていた。
「今日はどうしたのですカー?」
神父はフランクに聞いてくる。神父の名前はアル。体格も大きくボクシングやレスリングといった体を使うスポーツもやっていた事もあるらしく筋肉もある。神父というよりも熊といった感じだ。
「いや実は呪われてるんじゃないかって言われまして。こういう事情があって」
アルは親切でよく話を聞いてくれていた。今回も同じように自分の職業が表示されなかったり、今度は表示されたりと何か呪われたりしてるんじゃないかと聞いてみた。流石に魂が魔王とかの話は伏せたが。
「ンー、じゃあとりあえずこっちきてくだサイ。エミさんは少し待っててくださいネー」
「はーい」
妹もお祈りには来ているのでアルとは知り合いだったりする。というかこの町でアルを知らない人もアルが知らない人もたぶんいないだろう。そのくらい教会はみんなが親しみやすい場所だったりする。
「では、目をつぶって深呼吸してくだサイ」
アルの言うとおり薄着になり目をつぶってゆっくりと深呼吸する。アルは聖書みたいな本を持ち何かを唱えるようにしている。普通の呪いを解くときもこんな感じなのだろう。
「―邪を映し出せ、サーチカース」
瞼ごしでもわかるくらいに光が部屋に満ちている。なんだか凄く聖なる光っぽいが本人は眩しくないのだろうか。
「……もう目を開けてもいいですヨー」
めっちゃ眩しいが目を開ける。アルはサングラスをかけていた。やっぱ眩しいのかこれ。
「結論から言うと、何かありますが、一般的な呪いとは違うみたいデス。なんというか先天的に持って産まれたような……でも害はないような気もします」
そういってアルは本を閉じる。サングラスを外し俺の事を上から見下ろすような形になる。
「この町の人たちには産まれた時に祝福がされたはずデス。なので呪いの類では無いと思いますがなんなのかワタシではわかりません。専門のひとじゃないとわからないデス、申し訳ナイ」
町で生まれた子どもは祝福を受ける。呪いの有り無しの確認もそのときされている筈だが、その時神父はまだアルじゃなかったらしい。アルに変わったのも結構最近の話だし俺が子どもの時も同じようにしてたかはわからないしな。
教会ではこれが呪いかどうかはわからない。まあ魔王の魂だとしたら何かしら反応してもおかしくはないだろうし魔王の呪いのほうだとしたら普通じゃ解けないだろう。害がなさそうというのがかなり気になるところだがこんなものだろう。
「わかりました。ありがとうございました」
「いえいえ、またぜひ来てくだサイ」
アルは特に質問してきたりはしない。聖職者は話を聞く事はあっても内面に触れてくるような話はしてこない。簡単なアドバイスや説教はしてくるが。
「エミ、帰るぞ」
「うん、お兄ちゃん」
妹は大人しくお祈りしていたらしい。
教会に来たこと自体は空振りではなかった。むしろ何かがあるとわかっただけでも儲け物だが、どうやら確認するためには本当にエルフを探さなくちゃいけないらしい。
「エルフか……」
「キスしようって言った? いいよお兄ちゃん」
勇者の話から実在はしているらしいがどこにいるかはわからないという事だった。探すには相当骨がおれる事になるのは間違いないだろう。
結局俺はレベル1だろうがなんだろうが冒険に出ることにした。職業についても謎のままだしエルフに会って呪いの類なのかどうかなのかも聞いてみたい。
魔王の魂、物まね士の魂、これらの力がもしも使えるようになったら強くなれるんじゃないかという期待もある。
そして何よりも、魔物と会話できるという状況と魔物が人間と変わらないという言葉が気になっていた。もしそうなら人間界でも魔物を統率してくれる魔物がいるなら常に平和な世界ができるんじゃないか、等と柄にもないことを考えたりもした。
とりあえずまずは親の承諾と仲間探しからになるだろう。




