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決意

妹は蚊帳の外

「お断り、させていただきます」


「なっ」


 鎧は驚いていたが、俺はこの人たちについていく気はなかった。俺が何なのかもわからない、存在してるのも物まね士の魂だからその変わりとしてこい? ふざけたことを言ってくれる。


「俺は、自分が何なのかもわからないのに、それで人の言いなりになるように生きるのはごめんです」


「君は物まね士だ! 職業鑑定してもいい、モンスターを魔物と呼ぶのも相手に敬意を表しているからだろう!? 彼もずっとモンスターの事を魔物と呼んでいて不思議だった! 真似するものには敬意を、といつも言ってたのにモンスターにもそう敬意をはらっていたのは手紙を読んでよくわかった。君もそうなんだろう!」


 人はみな人間以外の害ある生き物をモンスターと呼ぶ。俺もさっきの魔物にあうまでは化け物としてモンスターと呼んでいた。でもあの魔物に出会ってから何かが俺の中でかわった。


 彼らにも考えがあり、人と同じようにしてすごしている。あり方は多少違うかもしれないが、生き方は似たようなものだ。


 呼び方が違うだけでほとんどの人は特に気にも止めないだろう。しかし相手の存在が害でしかないのならそれはきっと人間だろうとモンスターになる。


 あの魔物は確かに人を殺しただろうし、人間に対して何も思ってないだろう。でも目的もあるし何より情があった。妹を殺さないで、俺の言う事を聞いてくれた。


「俺があなたたちの冒険について行ってもいいことなんて何もないですよ」


「そうかもしれない、いやきっとそうなのだろう」


「勇者まで何を! 私は彼がしたことを最後まで見届けたい! それの何がいけない!」


 鎧はヒステリックになっているが勇者は落ち着いていた。


「たしかにそれはいけない事じゃないし、あなたの望みだったのかもしれない。でもあなたがしたい事というだけで彼の人生を壊してはいけない」


 俺がパーティに入りたくない理由、俺を俺個人として扱わないと言っているような人と一緒にやっていけるわけがない。それに侍には命を狙われる危険すらある。


「鎧さん、僕は生まれてから父の勇者としての姿をみて育ち勇者として育てられてきた。その勇者として言えることは、人を不幸にしてまで自分の幸せを望んじゃいけない」


 偽善だと、言う人もいるだろう。でも勇者として生まれた彼はたぶん本気でそう思っている。だから周りの誰も何も言わないでじっと話を聞いている、勇者とは自分を犠牲にしてでも世界を救うやつのことなんだろう。


 それが正しいか間違っているかは俺にはわからないが。


「じゃあ私は何のために、追いかけてきたんだ」


「あんたうじうじうじうじうっさいのよ。その物まねさんはもういない、死んだ人も蘇らない、それなのにいつまですがってるのよ馬鹿じゃないの……」


 魔女が鎧に向かって話し出す。それは嫌味ではなく諭すようにも聞こえたし、自分自身に言っているようにも聞こえた。


「だって私は、彼が死んでから、それだけ考えてきたんだ……。やっと見つけて、これで……」


「違うの、見つけてないの。元からいないから。いい、よく聞きなさい」


 直後バァン!!と激しい音が聞こえて思わず耳を押さえた。何事かと思ったら魔女が袋みたいなものを持っていた。


「うるさいのは嫌いなの……」


 まだ耳がキーンとなっているが、床には鎧が転がっている。え、この人何してんの。よく聞けってお前それ人としてどうなの。


「何よその顔……あんたも追及されてめんどくさかったでしょ? だからこれでおわり」


 魔女は何事もなかったように本を読み出した。完全に自由の人だった。


 金属の鎧を着ている人の耳元で爆音を鳴らし平然としているのも恐ろしいが、うるさいと言いつつ自分が良いなら爆音出しても良いと信じてるところがかなりやばい。


 この人たちと旅にでたくない理由、魔物にはあった情というものがこの人たちからは感じない。確実にどこかが破綻している。


 さっきの諭すような言葉も、悲しそうな声も、きっと作り物だったんだろうと思えるほどの清清しさ。


「魔女……まあいいかこの人がヒステリーなのは今に始まったことじゃないし。ところで今回は本当にごめんね。そうそう、僕科学者だけど一応職業鑑定もできるんだ。せっかくだしやっとく? 魔王でも物まね士でもどっちでもおもしろそうだし」


 周りの反応も特に気にしてない、というかいつもの事みたいな感じだ。これがこの人たちなりの仲間関係なのだろうか……。もし一緒に行くとなっていてもこれを見たら正直かなりご一緒したくなくなったと思う。


「ええと、じゃあお願いします」

 

 若干というかかなり引き気味だが、せっかくここまで来たんだし職業鑑定できるというならしてもらおうじゃないか。ここで魔王とかでたら正直かなり目もあてられない気がするが。


「いやー、それにしてもさ、君を連れ去ろうとした魔物って君をどうしようとしたんだろうね! 興味が尽きないよ」


 ずっと喋るのを我慢していたのか、そのくらいテンション高く話し出した。


「だってさ、魔界にはもう魔王がいて魔界を支配してるんでしょ? それなのに魔王はどうして残り半分の魂を欲しがったのかな? 君と一緒に魔界をさらに強固に統一? いやいや違うでしょ。鎧さんの言ってた話じゃないけど君の魂を奪って魔王の力を完全復活でしょ!」


 嬉しそうに話しているが、内容に衝撃を受けざるを得なかった。なんで気づかなかったのか。魔王が魂の半分を見つけて探してこいと命令をして、その魔物は俺を連れ帰ったとして。


 それは確実に魂を奪われるだろう。欲しがる理由なんてそれしかないじゃないか。情があったように感じた魔物も本当は俺じゃなくて魔王に仕えてるから、だったんじゃないのか。


「あれ? 気づいてなかった? もしかしたら殺されるところだったんだよ? 生きててよかったじゃん! ここで知り合えてよかったよ! このあと君がまたさらわれて魔王に殺されたとしても魔王にどうやって魂をとったのかちゃんと聞けるからね! 知らなかったらそのまま魔王倒してるよきっとあはは!」


 そんなに、人の不幸が楽しいのだろうか。いやきっと自分以外はどうでもいい、楽しければ何でも良いという考えが行き過ぎてこうなってしまったんだろう。そう考えないと人間不信に陥ってしまいそうだ。


「それで君の職業だけどね……ん、なんだこれ」


 職業鑑定士は相手の職業を見る、と念じれば相手の職業を見る事ができる。魔法使いが魔法を使う時に念じるのと同じ要領だ。しかし俺の職業を見たとき、ずっとテンション高かったはずの科学者の顔が曇る。


「君の職業は物まね士か魔王かと思ってたんだけどどっちとも違う……というかわからない」


 ウラノ 職業:―――


「こんなの初めて見るよ、いやぁ本当に君は面白いね! ありがとう実験材料にしてもいいかな! っごふ!」


 やばい顔して近づいてきたので顔面を思いっきり殴った。歯が折れて血がでて殴ったほうの手からも血がでる。痛い。


「あははは! 元気がいいねぇ! 怪我しちゃったよまあいいけど」


 やりすぎたかと思ったがそこまで気にしていないようだ。歯が折れたら相当痛いはずだが道徳と一緒に痛覚も麻痺しているのだろうか。


「もしかしたら君呪われてるのかもね、ほら、鎧の話で呪い受けたどうのこうのあったじゃん? あれあれ。今までいっぱい職業見てきたけど見られなかったのは初めてだからたぶんそうなんじゃないかな、まあどんまい」


 もう一発殴りたい気持ちに駆られたがどうにか抑える。呪いの解き方を知っているかもしれないしな。


「これが呪いなら、どうやって解けばいいでしょうか」


「うーん、わかんないね。教会にでも行ってみたら? 期待薄だけど。あそこは解毒と女神の祝福とかいったよくわかんないお祈りくらいしかしてないからね」


 かなりあっけらかんと教えてくれる。もう一発殴っても教えてくれたんじゃないだろうか。


「ああなんだか少し痛くなってきた気がする。痛覚消す薬の開発が進むなぁ。ああそうだ呪いと言えばエルフとか何かわかるかもね、どこにいるか知らないけど」


 喋ってないと死ぬ病気なのかと疑うくらいずっと喋っている。痛いのをごまかすために喋っているのかもしれない。


「ああ僕はもうだめだ、何かが作れそうだ。というわけで後は頼んだよ」


「じゃあ私も、ごみは片付けておいてね」


 科学者と魔女の二人がでていく。足元には鎧と侍。ごみってこいつらのことか。


「いやまぁなんというか自由な人たちでごめんよ、彼らも悪気があったわけじゃない」


 悪気もなくあんなことできるほうが問題な気がするけど何も言わないでおこう。


「さっきの話、職業がわからないっていうのは確かに呪いかもしれない。エルフなら解ける、そうだね、エルフ達は呪いの専門家だからね。彼らで解けない呪いはたぶんほとんどないよ。でもごめん、場所は僕たちも知らないんだ。父はエルフと会ったみたいだけど、どうやって会ったかも覚えていないみたいなんだ。それこそ呪いでも受けて忘れさせられたのかもしれないね」


 それじゃ、また会うかもしれないねと言い残して勇者も出て行ってしまった。俺と妹と鎧と侍を残して。 もしかして勇者、この二人片付けるの面倒だったから逃げたのか……?


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