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大統領のホットドッグ

 

 エリーが目を覚ましたとき、時刻は午後三時半だった。眠ったおかげで疲労は全身から消えていた。まるで、ベッドが吸いとってくれたみたいだ。

 自室でシャワーを浴びて、着替えをすますとエリーは一階に降りた。朝から何も食べていない。お腹が空いた。ジョーイに何かつくってもらおう。

 一階ではジョーイとアランが台本のセリフについて話していた。あたり前だが、辻黒亜門つじぐろあもんの姿はない。彼がどんな料理を食べたのかエリーは知らない。ただ、亜門が大満足で、この店を去ったのは容易に想像できた。ここにきたすべての客がそうだったのだから。

「やあ、エリー。よく眠れたかい?」

「ええ。おかげで朝食とランチを食べ損ねたわ」

「そう思って、ホットドッグをつくってあるよ。レンジの中に入れてるから温めて食べてね」

「ありがとう」

 ジョーイの言葉どおり、ホットドッグは厨房のレンジの中にあった。歴代アメリカ大統領の写真でつくった〝大統領のホットドッグ〟だ。

 電子レンジのボタンを押すと、エリーは冷蔵庫の中からコーラをとり出した。さまざまなハリウッド映画のパンフレットを混ぜてつくった映画コーラだ。ジョーイのオリジナルレシピなので、エリーも調理法は知らない。ジョーイいわく「映画とコーラのネタバレは禁止」らしい。

 夕食前の間食は、この二品でとろう。アメリカの文化を味わうことで、映画に使えるすばらしいアイデアが浮かんでくるかもしれない。そんなことを考えていると電子レンジのタイマーが鳴った。

 ホットドッグを食べていると、ジョーイが厨房にあらわれた。背中にリュックを背負っている。これから、どこかに出かけるのだろう。

「エリー、ちょっと食材探しに出かけてくるよ。夕食はポールがつくってくれるけど、デザートが食べたかったら、自分でつくってね」

「わかったわ。いってらっしゃい」

「じゃあ、いってきます」

 ジョーイは鉄砲に見立てた指でファニング(引き金を引いたまま、撃鉄げきてつをもう片方の手で連打する撃ち方)のマネをすると『荒野の七人』のテーマを口ずさんで、店から出ていった。

「ヒントのつもりかしら?」

 エリーはコーラを一口飲んで、目をつぶった。暗い視界の中でガンマン姿のユル・ブリンナーが見えた。まちがいない。弾丸だんがんのように強烈きょうれつな炭酸は『荒野の七人』によるものだ。

 目の奥のユル・ブリンナーが笑った。しかし、次の瞬間、彼の顔が溶けて、内側からサイボーグの顔があらわれた。炭酸の正体は『荒野の七人』ではなく『ウエストワールド』だった。

 ――帰ってきたら、無理やりでも部屋を掃除させるよういわなくちゃ。

 だれもいない厨房でほほをふくらませると、エリーはコーラを一気に飲み干した。


                      (つづく)


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