三匹の子豚のカツ丼定食 その4
オオカミ少女が母親と再会したところで、シャンボール製の『三匹の子豚』は幕を閉じた。
ぼくは四人の笑顔を思いだしながら、カツ丼を食べた。そうすることで、いっそう、カツ丼がおいしくなるような気がしたからだ。
カツ丼定食を食べおえると、ジョーイさんが銀のワゴンを押して、厨房から出てきた。
「ジョーイさん。このカツ丼定食、最高です」
「ありがとうございます」
パーティーグッズの豚鼻をつけたジョーイさんがにこりとほほ笑んだ。
絵本は帰り際にジョーイさんが返してくれた。破られたページはないし、子豚もイケメン豚人間に変身していない。その代り、ページが増えていた。ぼくが巨大なカツ丼を食べるページが本の最後に追加されていた。
カツ丼定食だけでも大満足なのに、ジョーイさんは絵本以外にもミックスサンドウィッチのお土産をくれた。
「すごい。これも『三匹の子豚』でつくったんですか?」
「いいえ。これは八教科の教科書でつくった〝八教科のミックスサンド〟です。ある人物から、亜門さまにわたすように頼まれていたのです」
「ある人物?」
「はい。その人物から伝言も預かっています。『黒板拭きを手伝ってくれて、ありがとう』だそうですよ」
「……もしかして弓香ちゃん?」
ジョーイさんはニコニコとほほ笑むだけで、何もこたえなかった。
店を出ると、ポールさんとシャルルさんがビニールプールに戦艦のプラモデルを浮かせて遊んでいた。
「ポールさん、シャルルさん、さようなら」
「じゃあな、亜門さん」
ポールさんが手をふってくれた。
「すぐにまた会うことになるけどね」
シャルルさんが意味深なウインクをぼくに送った。でも、そのときのぼくは、それがどういう意味なのかわからなかった。
「さよなら、シャンボール」
ぼくはシャンボールの建物に手をふって、自転車をこぎはじめた。坂を下りていると風に混ざってジョーイさんの声が聞こえたような気がした。
「またのご来店をお待ちしております」
(つづく)