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俺と吸血鬼と偽りの歌姫  作者: 吸血鬼くん
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偽りの歌姫



「おいマナ…邪魔だからそこをどけ」



 掃除をしている際のことだ。俺はテレビに目が釘付けになっているマナが邪魔になり、一言退くように呼びかける。



「はあ?主人である私に対して、その言い方は何?」



 どうやらテレビに夢中だったからだろうか、横槍を入れられたことによりマナは気分を害したようだ。



「いいからどけ、掃除の邪魔だ」



 だが俺はそんなことなどお構いなし、掃除機の先を軽く当て退くように促す。

 


「…分かった、分かったわよ、もう~」



 何度か掃除機を当てたかいがあってか、マナは観念したように立ち上がり、近くにあるソファへと移動した。

 


 その間も、マナの目線はテレビに向けられていて、少女達が変身し悪者をやっつけるという、いかにも小さな子供向けのアニメに見事飲めり込んでいる。



「はぁ…」



 それも目の前でお菓子を食い散らかしながら、「いけー!そこだー!」とはしゃいでいる少女の姿を見て、俺は深いため息をついた。



 ソファの上でマナは興奮の余りか勢いよく立ち上がり、それにより手に持っていたお菓子袋の中身を辺りに散らばす。



「っはぁ…」



 二度目のため息が漏れる。



 俺は一体、このため息を何回したのだろうか。



 一度掃除し綺麗にした場所を、マナによるお菓子爆弾によってもう一度掃除をする。


 

 マナが現れてから早二週間、このような事が毎日のように続いていた。



 マナは突如現れたあと、俺が聞いた質問の中で、自分が何者かについての質問に対してはきちんと答えてくれたものの、あとの質問に対しては



『あれは夢じゃなくて本当に起こった出来事よ。え?何?じゃあなんで生きてるって?死んでないからに決まってるじゃない。それにいい?私は貴方のご主人様なの!言葉遣いには気をつけなさい?私がいないと貴方は生きてはいられない体なんだからね!』



 と、随分と雑な説明で終わったのだ。


 

 ちなみに、マナとは何日も一緒に過ごしている。マナは一着しか服を持っていなかったため、同じ服だけを着させるわけにもいかず、しょうがなく子供服を何着か適当に買ってある。



 今マナが着ているピンクの、フリルが付いた服と短パンは、適当に買った服の一つだ。



 大の男の俺が子供の下着などを買うときなんて、周りの視線を恐れ、恥ずかしさと、通報されないかという恐怖で寿命が縮むかと思えた。



「…はあ~」

「ハアハアハアハアとうるさい!何をそう興奮しているのよ!」



 何度もため息をするその声が、アニメに集中しているマナには気が触ったようだ。マナは頬をむっと膨らませて俺を見る。



「お前が菓子をばら撒くからだろうが!」



 それに俺は最もな意見を述べる。マナの持っている菓子袋を指差し、周りに飛び散った残骸を指差し、手に持っている掃除機を指差す。



「…ん…む…いやこれは」



 何度も注意していることを繰り返しやったことに、マナは苦しい面持ちで目線を逸らしながら言葉を濁す。



「菓子を取り上げられたくなかったら、今後一切ばら撒くな」



 その言葉に、マナはこの世の終わりのような悲痛な顔を見せた。



「っな!わ、私は貴方のご主」

「分かったな?」



 俺はそれ以上の言わせず、マナの発言に被せ有無の言わせない一言を食らわす。



「………はい」



 マナはしばらくの間、口を開けたままプルプルと震えていたが、すぐにしょんぼりとうな垂れ、小さく頷く。



 それを見ていて俺は、なんともいえない複雑な気持ちでいた。



 突然現れ恐怖を感じさせられたかと思えば、この二週間の間ではまるで恐怖を感じず、それどころか子供をあやしている気分になる。 



 今では世話の焼ける妹を持ったような、そんな感覚に苛まれ始めているくらいだ



 …こうして見ている分…ただの子供にしか見えないんだよなあ…。



 吸血鬼と自ら名乗ったマナといえば、今では消沈したかのように、正座し暗い表情でテレビに顔を向けている。



「…吸血鬼ねえ」



 血を吸うことで知られる吸血鬼だが、今のところ血を吸われた覚えは無い。寝ている間に吸われているのかと疑い用心していたが、そういう形跡もない。



「…うーん」



 そもそも何故マナは俺のご主人様だと言っているのかが分からない。いくら理由を聞いても



『なんだっていいの!私が貴方のご主人様だっていってるからそれでいいの!』



 と、お菓子で釣ろうとしても、アニメを見させない脅しをしてもマナはその一点張りで答えてはくれなかった。



「一体何にそんなに意地を張っているんだ?」



 だが疑問を持ったところで、いくら聞いても答えてくれないのなら仕方のないことだった。



 マナの考えが分かるに到っていない俺はただ考えても無駄だと思い、朝飯を済ませていないので朝食を作ることにした。



 …ん?



 しばらくして、作っている最中に材料を切らしていることに気づく。


「卵ねーじゃん…」



 親子丼を作ろうと考えていたものの、卵無しでは味つき肉を盛り付けただけになってしまう。



「おいマナ、ちょっと買い物いってくるがご飯少し待てるか?」

「んー?大丈夫だけど早く帰ってきてねー」



 それにマナは俺に顔を向けず、テレビを見たまま適当な生返事で答えが返ってきた。



「おう、じゃあひとっ走りで買ってくるから待ってろ」



 軽い相槌の返事をして外に出る。二週間も経つと、不思議と俺はこの生活に慣れていた。














 すぐさま買い物を済ませた帰り道、家から少し離れている先のこと、俺はふと他に買うものを忘れていないか、顔を上に上げ考える。



 すると、少し離れている先に、電柱の上に立つ人影が見えた。



「_ん?」



 離れていてよく見えないものの、顔は此方を向いているように見える。



「…なんだあれ?」



 軽く目を擦る。それからもう一度人影のいた場所を見る。だが、そのときには人影は影も形もなかった。


 

「…疲れてるのか俺?」



 頭をポリポリとかき、気のせいだと思った俺はそのまま何事も無かったように家に向かった。



 家の前につき、念のためにと玄関の鍵を閉めていた俺は鍵を差し込んで開ける。だが入ろうとした瞬間、今度は背後に誰かの気配を感じた。それにさりげなく後ろを向いて確認する。



「…やっぱり疲れてるんだな俺」



 しかし背後には誰もいなかった。



 今日は多めに寝ようと心に決め、玄関を上がり家の中に入る。買ってきた材料で再度調理を開始し始めた。



 俺が戻る頃にはアニメはとっくに終わっていたのか、暇になっていたマナはソファの上で寝ていた。



「マナ、飯できたぞ」

「ふぁあ…あ…ん~…」



 親子丼が出来上がったため、マナを起こして朝食を食べ始める。



「「………」」



 寝ぼけているのか、マナはいつもより静かにもくもくと食べていた。珍しく朝食に無言が訪れたため、俺は外出にあった出来事をなんとなく話すことにする。



「そういえば聞いてくれよ、帰り道にさ、電柱の上に人影が見えたんだよ」

「ん~…人影…?」



 半分目を閉じた状態のマナは、寝ぼけながらも俺の話をちゃんと聞いてるのか虚ろながら受け答えをする。



「ああ、で、家に上がるときにさ、誰かに見られている気がしたんだよな」

「…ん~…それがどうし…」

「いやさ…それについてどう思うかって聞いて」



 マナは俺の話を聞き終わる前に、突然立ち上がった。衝撃で食べかけの親子丼が倒れ零れ落ちる。



 余りに突然の行動に、ついに本格的な反抗期かと思い、恐る恐るマナの顔を見た。



「…マナ?」


 だがマナは俺を見てはいなかった。目を見開き、その目は、俺の後ろにある窓の外側をじっと凝視したまま動かずにいる。



「一体後ろに何があるって…」

「見つけた」



 突然後ろから声が聞こえた。振り向けば窓の外では見知らぬ一人の男が立っている。



 黒い帽子で顔が隠れよくは見えないものの、見た目からして30代後半くらいだろうか。黒いマントのようなものを背中につけ、黒いスーツを着ている。


 

 白昼同道、全身が黒一色の男が、自分の敷地に立っているのは、いかにも怪しすぎて気味が悪い。



「見つけたって…誰だか知らないがな、勝手に人ん家の庭に上がりこんで覗き見してくるとは随分悪趣味だな」



 俺は許可無く上がりこんできた相手に嫌味をぶつける。それに男は無言で何も答えず、ただただじっとマナを見つめている。



「おい…おま」

「見つけたぞ!偽りの歌姫!」

「…は?偽りの歌姫?」



 男はそういうと、声を急に荒げ腕をマナに向かって振るった。



「一体何がしたいん」

「下がって!」

「え?」



 急にマナは俺の前に立ちふさがり、腕を組み屈む姿勢になった。刹那、前にあった窓ガラスが粉々に砕け、横にある家具の全てが後ろに吹き飛ばされる。



「は!?!?!?」



 吹き飛ばされた家具はばらばらに壊れていた。食器などの家具は窓ガラス同様に粉々にされていたる所に散っている。



「…っく!ここは危険だから一旦ここから逃げるよ!」

「え、ちょま…ぐぉ?!」



 マナは俺の腕を掴んだかと思ったときには、もの凄い速度で走り出した。一瞬で男の前を横切る、そのまま何処かに向かおうとしているようだ。



「ちょちょちょっと、一体これってどうなってんの?!」

「説明は後!とにかく私に付いて来て!」

「付いて来てっていうか、お前俺のこと引っ張ってるじゃん!それに何処にいくっていうんだよ?!」

「考えていない!」

「考えていないのかよ!?」

「とにかく今は逃げるのが先よ!」



 マナはそういって、辺りを一直線に駆け抜けていく。



 俺は止まりかけている脳をフル回転、思考を巡らして今の状況についてを考える。何も情報が得られていない中、一つだけ確信を持って分かっていることがあった。



 誰がどう考えても分かりうること。



 望んでもいない過激で白熱するようなバトル展開に、一般人の俺が巻き込まれた。



 それは現状を要約すれば、俺は今、非常にやばい状況に陥っていることだった。




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