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鉄処女のリゾンデートル  作者: 林原めがね
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秘密逢引


「鋭利さん」

 銀の少女は隣に並んで歩いている、たった一人の女性に話しかけた。

「ん。何だい、銀架」

 続きを言うのには勇気と勢いが必要だった。

「私、鋭利さんのことが好きです」

「へぇー」

 ほら、この人ならこう返してくると思ったんだ。

 いじけた風に鋭利の涼しい顔を盗み見ていると、その横顔が急変した。

 

 ボン、と鮮やかな血の色に。


 鋭利は赤面したまま、わわわっ、と慌てふためき、手をデタラメに振って、

「ななななあ、何をいきなり、お、驚いたじゃんか、ったくよぉ……!」

 あの美麗な鋭利が狼狽するのが面白くて、銀架は吹き出してしまった。

 今度いじけた顔をしたのは鋭利の方だった。半眼で睨んできた鋭利は、ふうっと鼻から怒気を捨てると、笑っているこっちの頭に手を乗せてきた。

「オレも、そんだけ正直に言えれば楽なんだろうけど、どうも恥ずかしくてなー」

「おや? 駄目ですよ鋭利さん。目の前の困難から逃げては」

「明らかに楽しんでいるよなー、オマエ」

 ったく、と力が篭り掛けていた右手から力が抜け、鋭利が腰を曲げた。

「え?」 

 そっ、と柔らかい熱源が額に添えられた。 

 背を伸ばし、そっぽ向いた鋭利の耳は何物よりも赤く染まっていた。

 そして、それは恐らく自分の頬も。

 銀架は自分の顔が赤くなるのを感じ、目蓋の上を赤い液体が、

「……って、わぁあああああ! リアルレッド! え、鋭利さん! 私、昂ぶり過ぎて額から血が!」

「は? って、ええええええ! 八重歯で切っちゃったかこれ! するど! オレの歯するどっ! ってか危な! やっぱ慣れないことはするもんじゃないな、うん」

「い、良いからこの出血止めて下さいぃ! 止まらないいいいい!」

 銀架は、鋭利と笑いながら、皆の待つ家に帰っていく。

 この先にも多くの試練が降り掛かるだろう、計り知れない難敵が立ち塞がることもあるだろう。犠牲を覚悟する困難が邪魔する時もあるだろう。

 何が待ち構えているか、何が変わっていくのか。未来は依然と分からない。

 でも、今はゆっくりと、ずっとこのままで。

「えいや! あれ? これ鼻血だっけ? あ、気絶した」

 延髄を思いっきり打たれ、銀架の幸福の時間は、結構すぐに終わった。

 でも彼女の背中の上も、これはこれで至福の時だった。


          Fe


 暖かくて大きくて、でも左側が妙にゴツゴツしていて痛い背中で、少女はまどろみの中で『姉』の顔を思い出しながら、大切な人の優しい声を聞いた。

「ようこそ銀架。今日から新たな血族となるオマエを〈金族〉は歓迎する。だから、ようこそ『しろがね』。オマエの名は魔を祓い、明日を射貫くための弓。飛鳥弓あすかゆみ銀架だ」

 幻想で会った久しぶりの妹の顔は、泣き出しそうな満面の笑みだった。


          The Metal Maiden's Reason D`etre ……FIN


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