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鉄処女のリゾンデートル  作者: 林原めがね
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真打昇華②


 鵺也という男と自己紹介と謝罪を聞き交わして、その後すぐ別れることになった。

 まず一番目の理由が、

「眠い! あんたのグダグダした言葉を処理出来ない! 帰る!」

 と鋭利が嘆いたことだ。疲労が溜まっていたのは誰もがそうだったので異論は無く、これは素直に聞き入れてくれた。

 二番目の理由が、どうでも良かったからだった。 

「ええい、まだあんのか! 原因も理由も感情も過程も、無事終わってしまえばどうでもいいし! さっさと家に帰らせろ!」

 しつこく付き纏う鵺也と〈主人公〉の残党を振り払い、鋭利と銀架は走り出した。

 三番目の理由が、そんな彼らの好奇心が煩わしかったからだ。

「あとな! 何と言われようとオレはオマエらの世話なんてしねーし、銀架はテメエなんかにやらんからな鵺也! はあ? 『大喰』のことなんざ知らねえよ! 身体を調べさせてくれ? い・や・だ! もうオマエらとはこれっきり、だっ! あ、何だ雲水? 身体を回収してくる? 好きにしろ、オレたちは先に帰るぜ。あばよ!」

 二人はここに来た時と同じように急いでその場を後にした。


 その頃〈金族〉ビルの一室では『蒼鉛』と『長老』が喧々諤々の喧嘩をしていて、それを困り顔で見ている椰子原の状況があった。怒鳴っているのは『蒼鉛』だけなのだが、『長老』の方も怒っていることには変わらないようだった。

 争いの原因は、帰ったはずの長老が一人の男を連れて戻ってきたことだった。

 彼の背中で眠っているその男を見て、椰子原が驚きの声を上げた。

「ええ! それ、小垣君じゃない!」

「「はあ!?」」

 帰ってきた虚呂の診療に再び来ていた『白金』と『蒼鉛』が反応した。

『長老』が話すに、浅部に帰る途中で鼎の『人形』に小垣の捕えられている場所を教えられたらしい。助けに行って欲しい、とも。

「だから覚悟して行ってみたら、詰め所にはヒーローが一人もいなくなってましてな。連れて帰るのは楽でしたぞ」

「何で裏切り者のてめぇーが『金』に頼みごとされんだ。てめぇー実は〈主人公〉サイドのスパイなんだろ、おい!」 

「……またあなたは、浅はかないちゃもんを付けますな。愚かな……」

 それが口火になり、二人は止める間もないままヒートアップしていった。

『白金』が語るには、この二人の険悪さは『長老』が〈金族〉の一員だった時からよくあることらしく、それが元で彼はここを去ったのではと疑惑が立った。そのために後に『蒼鉛』が鋭利に折檻されたとこまでが、ワンセットの話だとか。

「で、でも、危なくない? いつでも掴み合いになりそうな……」 

「そうなったら虚呂に任せるわ。ほら。治療終わったわよ」

 彼女の手元にあった光が消えて、寝ている小垣の息が落ち着いたものになる。

 椰子原も胸の奥から、凝り固まっていた不安を吐きだす。

 とその時、小垣の体内から、スルリと数本の糸が抜け落ちるのが見えた。どこにも繋がっていない短い糸だ。拾ってみると、手の中で空気に溶けて消えてしまった。

 その糸には見覚えがあった。今日一日、自分のそばにいて守ってくれていたニセ小垣の使っていた糸だ。持ち主の意思を必死に叶え続けていたのだろう。

 確か彼の名前は、鼎雲水。

『金』とも呼ばれていた、糸と同じ色の髪を持つ、車椅子の男。

 眼を瞑って、手に握った金色の糸を感じてみる。温度も感触もなかった。けれどどうしてか、温かさを感じた気がした。今日一番近くにいた、彼の掌の温かさが。

 眼を開くと、『白金』が何か言いたそうな顔で椰子原を見つめていた。

「な、何です」

「いや、何つーか…………いや、やっぱ良いわ」

 ガシガシと頭を掻くと、『白金』は煙草に火を付けて、立ち上がった。

 パンパンと両手を叩き、喧嘩する男どもの仲裁に入る。

「ほら止め止め。この二人を日本まで送っていくわよ。戦争を起こさせないために、あたしたちで出来ることをするのよ」

 喧嘩していた二人の男は口を止め、睨み合い、互いに指を突きつけながら、

「こいつは絶対裏切って邪魔するから、使わない方が良いぜ」

「この愚かな人種は無能なくせによく吼えるから、信じてはいけませんぞ」

 再び激しく額をぶつけ合う『蒼鉛』と『長老』。二人の口が開かれようとする。

 そこに氷点下の声が割り込んできた。

『元気が良いね、君たち。お陰で目が覚めたよ。まさか喧嘩、じゃないよね?』

 二人の身体に痺れが走る。動きを止め、声のした方を向く。

 虚の空間から、目隠しの男が、ボワリと滲み出てきた。

 二人の男が絶句する。『長老』は動揺を隠そうとしているが、バレバレだ。

「さあ、行こうか君たち。〈廃都〉の外に帰らせてあげるよ」

 目隠しの男が椰子原と『白金』の方に歩いてくる。

「あ、あなた、誰よ」

「僕は虚呂だよ。日本までの短い間だけどよろしくね。『白金』、今日はお世話になったね。で、彼はもう動かしても大丈夫かい?」

「当然さ。どっちかてーと、あんたの方が危険な状態よ。自分でも分かるでしょ? そんな急いでどうしたんだい。死ぬか?」

 はははは、と爽やかに笑う目隠し。そういう亡霊のようで少し怖い。

 虚呂は小さい熊のキーホルダーを指の先にぶら下げて、

「さっき雲水から報告が来てね。ついさっき向こうも無事終わったみたい。だから迎えに行ってそのまま、二人を送っちゃおうと思って、さ」

 スルッ、と目隠しの方向を椰子原に向けて、彼は楽しそうに話しかける。

「さあ、後片付けをしに行こう。戦争を君たちの力で止めに、ね」

 椰子原は邪気のない虚呂の笑みを見て、小垣の寝顔を見下ろした。彼の手をぎゅっと握り締めて、願うように一度眼を閉じてから、澄み切った顔で笑い返した。

「行きましょう。この街と日本を守って、ハッピーエンドにするために!」

 宣言の声に、近くに寝ていた小垣が、ん、と寝息を漏らして反応した。

 それを見て、椰子原の顔は優しげに綻ぶのだった。


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