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鉄処女のリゾンデートル  作者: 林原めがね
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真打昂揚①


 春久がニヤ付きながらこっちをからかってきた。

「大将が出会ったばっかの女の願いを叶えるたあ、珍しいじゃねえか」

「どういう意味だそれは。……俺も反省しているのだよ。やれることをやってきたつもりだったが、まだ可能なことがあったと気付いた。この娘に気付かされたのだ」

「そらぁ結構なことで。久々に見たぜ。おめぇさんが叱られるとこなんざ」

「ああ。俺もあの頃を思い出した。お陰で目が覚めたさ」

 宵闇の上空を機械の爆音が翔け貫けた。

 南西の空から三機のジェット機が飛翔してきた。自衛隊のものではない。米国だ。

「メリケン野郎はもう嗅ぎ付けて来たのか。早ぇな」

「横浜基地の物だろう。あの国も争乱時には相当の痛手を被ったものだからな。とは言え、現在空を飛ぶのは感心できんな」

 と、北東に突っ切ろうとした飛影の一つが、浮かんできた球体とぶつかった。

『大喰』の黒球だ。あの高さであのサイズということは十メートル近くあるはずだ。のったりと泡は戦闘機を受け入れ、弾ける。暴君が抉る。機体は先端から右翼をごっそり持っていかれ、失速。そのまま乱回転し、燃料に引火して爆発した。

 大量に降ってくる戦闘機の破片に対して、鵺也は反応を見せなかった。

「『バブル』に食われてしまい、後には何も残らない、か」

 その通りになった。破片は雲のように揺蕩たゆたう泡の大群に飲まれ、塵一つまで『大喰』に食われる。鵺也まで落ちてこられた残骸は一センチのガラス片だった。

 それを掌で受け止め、損ねる。引き付ける風が『大喰』から吹き、ガラスが闇色の海に落ちていったからだ。海はそれを拒まず、無慈悲に飲み込む。

 巡回軌道に移ろうとした二機の戦闘機が、その様子を見て南西に舞い戻っていく。

「もうあの高さまで舞い上がっていたのか。さらに高く飛んでばら撒かれる前に、本体の方を叩かなければだな」

 そのためには、と破片に備えて頭を抱えて、地に伏せていた銀架を見下ろす。

「貴様に頑張ってもらう。準備はできたか、銀架」

「いつでも。さあ来いです!」

 腹ばいのままで銀架は鋭い目線と返事を返してきた。

 良い目付きだ。透き通っている。


 最初に一つ忠告する、とこちらの真正面に正座した銀の少女に言った。

「『万能録』の魂に飲まれないようにしろ。あれを精神の不安定なままで使えば暴発して、貴様自身が新たな脅威に堕ちる可能性もある。気を付けてくれ」

「善処します!」

「いや善処じゃなくて絶対を約束……、」

「努力します!」

「努力というか細心の注意を……、」

「奮闘します!」

「奮、……まあ、良いか」

 鵺也は目蓋を下ろして、吐息一つ。後ろに控えていた結魅に合図を送る。

「……主様、本当に宜しいのですか」

「今更遠慮するな。全て覗け」

 そして、誰にも漏らさぬように固く封印していた記憶を、開放する。

 結魅の目が透明に光る。こちらの過去の一部を覗いているのだ。

 結魅の『過感覚フルスクリーン』は人の過去を体験する、という異能だ。その者が歩んできたこれまでの人生を、喜びや悲しさの感情の動きや、痛みや温度の感覚さえも、全てを包み隠さずつまびらかに体験する。リアルタイムで使えば、心も覗けるだろう。

 欠点は、自分の意志がどれほど強くても同調し過ぎてしまうところか。一度その者自体になるのだ。相手が感じた苦しみや悲しみは全て同じだけ感じることになる。ゆえに結魅は、この街の誰よりも痛みを経験した女性といえる。

 そして『過感覚』は自分の感じた過去を、他人に見せることができる。銀架に使って『覚醒剤』を覚えさせようとしたのはこの方法だ。『覚醒剤』の映像を見せることで『万能録』の中にそれを刻ませ、コピーさせようとしたのだ。

 結魅がゆっくりと瞬きをする。目の色が元通りになった。

「これらの過去を、銀架さんに見せれば宜しいのですね」

「ああ頼んだぞ。銀架、初めてでは刺激が強いかもしれないが、頑張れ」

「? 何がですか?」

「これですよ」

 膝折った結魅が不思議そうな銀架の顔を掴み、目を合わせた。

 銀架が一度大きく痙攣し、その腕が力なく枝垂れる。結魅は一瞬たりとも目が外れないようにしながら、両手で固定した銀架の頭を地面に下ろした。

 三十秒程度見つめ合うと、結魅は眼を外し、銀架の目を閉じさせた。

「これで主様の知る鬼形児の情報は、銀架さんの中に送られました。目が覚めるまでしばし待ちましょう」

「ふむ、俺の人生は三十秒で伝え切れるのか」

「え、な、何を、言ってるんですか! そ、そんなわけないでしょう。こ、これは一部の情報記憶だけ見せたので、早かっただけです! あ、主様の人生が、う、薄っぺらいなんてことは、け、けけっけ、決して……!」

「おいおい。動揺し過ぎだぜ、結魅」

「別に傷付いたわけではない。参考として気になっただけだ。まさかそんなに良い反応されるとは思わなかったな」

「そ、そうですか。それなら」

 ほ、と安堵の溜め息を溢した結魅の足元で、銀架の背が仰け反った。

 暴れるように何度も仰け反り、苦痛の声を上げる。

「これは、主様の痛みの記憶に反応しているのでしょうか?」

「そこまで自惚れる気はない。俺の人生より、彼女の方が波乱万丈に満ちているだろうさ。これは能力の拒絶反応だ。『万能録』が活性化し出した証拠だ」

 呻き声を上げ、冷や汗を掻き、暴れる能力に耐え、銀架はまだ目覚めない。


           Fe


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