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鉄処女のリゾンデートル  作者: 林原めがね
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鋭刀腐敗①

    

 銀架は心の底の、もっと奥から、暴獣の雄叫びが響いてくるのを感じた。それは銀架の口から自然と零れ、熱病にうなされる者の叫びとなって空気を震わせていく。

「……ぉぉぉぉぉおおおおおおおぅっ、ぁぁぁぁぁぁあああああああ…………っ!」

 銀架は身体のコントロールが効かない中、これはやばいものだという確信があった。このままコレを出してしまえば、大変なことが起きてしまうだろう、と。

 銀架は、コレは自分にはどうしようも出来ないものだが、自分のことなのだからどうにか出来ないはずがない、と矛盾したことを自分に言い聞かせ、心の奥底から暴れ出てくる高温の激情を何とか押さえ込もうとしていた。

 しかし、その熱が一瞬にして収まったのを感じた。急に蓋をされたかのように。

 肉体の操作権が銀架に戻り、真っ白に染まっていた視界が徐々にクリアになっていく。やがて、目の前に一人の黒衣が立っているのを見つけた。

 自分が見間違えるはずがない。鋭利だ。

 鋭利は呆けるように、暗くなってきた空を仰いでいた。

 声を掛けようか迷っていると鋭利の首が前に落ちて、目線が銀架まで降りてきた。

 左の義眼が落ち掛けていた。右眼は少し変だった。虹彩にバッテンの入った、

「あれ? 鋭利、さん……?」

 爛々と怪しく光る、蒼天の眼球。

 ここから離れろ、という大きな声が遠くで聞こえる。遠くじゃない。すぐ近くだ。

 でも銀架は、彼女から眼を離せないでいた。

 無感情なのではなく、ただ無機質なガラスの瞳の鋭利と、見つめ合う。

 最後まで見ていた。自分の横を何人かが走り抜けていった時も、『時計屋』の男がこちらの脇を抱えて走り出した時も、じっと眼だけは離さず、離れず。

 黒い鬼が身を縮めて片腕を振るう動きで、欠けている左肩と左脚の付け根から、漆黒の血液をマグマのように放出し始める。遅れて左の眼孔からも。

 偉そうな男の指示が『時計屋』に送られる。

「本気で飛ばせっ」と。

 銀架を抱き抱えたまま『時計屋』は器用にターンし、鋭利に手を向けた。

「……あっ…………」

 銀架の視線が鋭利から外されて見えないまま、鋭利は未来に飛ばされた。

 ようやく皆が足を止め、安堵の息を吐いた。高慢な男が銀架を抱えるキザ男に訊く。

「これで何分持つ?」

「行って三分ちょっとっす」

 そうか、と男は思案するように頷いて、移動を歩きにて再開する。

「行けるところまで離れよう。あれが何か、俺には判断が付かない」

 白スーツの腕の中で放せと伝えるつもりで銀架はモゾモゾ動いた。『時計屋』は思い出したようにこちらの脇から手を抜き、銀架を下ろす。

 銀架は地に足を着け、そこにいる〈鵺〉四人の顔を見回すと、

「……………」

「待て待て待て待て待てぇい!」

 襟首を後ろから掴まれ、さっきの場所に戻ろうとした銀架が止められる。

 ムカついたのでかなり不機嫌な眼で襟を掴んだ『時計屋』を睨み付ける。

「……にすんだゴラァ。私の邪魔をするな」

「うわ、怖っ!」

『時計屋』が威圧に恐怖し、手を引く。銀架は再び進み出した。

 ちょっと、と目の前に、今度は自分と同い年くらいの少女が立ち塞がる。

「私たちが危ないって注意してやってんのよ! 従いなさい!」

 生意気なことを言ってくる。きっと同い年のくせに。背が高いだけのくせに。

 そいつにも絶頂御機嫌斜めの半眼三白眼を差し向ける。

「……怖っ!」

 一度怯んだが、前から立ち退かない。すると後ろから声が掛かった。

「『ジャイロ』、もう良い。行くぞ」

「え、でもっ、鵺兄ぃ……」

 短髪の少女が反発するように銀架の後ろを見て、ヒィ、と喉を上擦らせた。

 振り向くより早く、銀架の目の中に無数の火花が散った。

 後頭部をメリケン付きの拳骨がクリティカルヒットしたのだ。銀架の意識は衝撃に抗うこと耐えることも出来ずにそのまま、

「……っぁ……っ!」

 否応無しに暗闇に落ちていった。


 覚醒したのは『時計屋』の背中だった。近くに大型の乗用車が停まっている。

「もう目覚めたのか。二十五秒か。早いな。本気で殴ったんだが」

 この畜生な男は鋭利と仲良くなれると確信する銀架。

「……気絶には、慣れていますから」

 背中から降りながら、だがもう文句を言う気にもなれず、代わりに訊いた。

「逃げて、これからどうするつもりなのですか」

「対策を練る。『覚醒罪』の効力を知っているか?」

 首を左右に振る。集団催眠か、そんな感じのものだったと聞いたことがある程度だ。

「そうか。手短に言うと、凶暴化し、肉体が壊れるまでずっと暴れ続ける」

「分かりました。じゃあ、殴って正気に戻してきます」

 話はもう終わったので、踵を返して足早にさっきの場所へと歩き出す。

「まあ、待て『シルバーレイ』」

 ガシッ、と髪を掴まれた。後ろに引っ張られる。痛い。こいつ最低の野郎だ。

「単身で『No・1』と戦っていたところ、あの黒の女は相当の実力者だろう? 貴様に勝てる見込みはあるのか。あるならこの手を離そう。無いなら駄目だ、止めておけ」

「……いいから、髪の毛から手を離せ!」

 パッと解放される。バランスが崩れ無駄にタップを重ねて、クルッと半転。

 すると、何が気に食わないのかずっとしかめっ面の男が目につく。少しぐらい笑えばいいのに。その後ろから、こんな気温なのにマフラーをしたメイドの女が現れ、こちらを落ち着かせるように柔らかな口調で話しかけてきた。

「あの女性の能力を教えて下さい。それが分かれば対策を練ることが出来ます」

 この女が一番正常だと認定。格好はアレだが。

 銀架はこの人を中心に話を進めることにした。他の奴は無視しよう。

「あなたの、あなたの名前だけを教えてください」

「俺の名前は鵺也だ。彼女は俺の側近の『パノラマ』という」

 キチガイな男が何か喋るが何も聞こえない。

「私は結魅・ゆみと申します。貴女は、『シルバーレイ』と呼べば良いのでしょうか」

「私の名前は、今は銀架です。あそこにいる鋭利さんに貰いました」

「あの女、肉体の欠損など見たところ獣化系か。『エイリ』と言うのか。なる――」

 横から来るうるさい声を、両耳を塞いでシャットアウト。結魅という女だけを見て、こちらから一方的に鋭利の能力の特徴を伝えていく。

 理解は出来ていなかったが使い方と特性は知っている。金属を食べて、血からそれを複製する。金属器を造り出す。あと体が石のように硬くて、力持ちで体重が超重量。

 概要だけ話したので一分も掛からなかった。

 なるほど、と再びしゃしゃり出てきた声をスルーし、結魅に問う。

「それで、対抗策は浮かびましたか?」

「俺の知る能力では無いな。このまま迂闊に挑むのは危険だ。一度戻って調査するか。そうだ、『エイリ』の能力名を教え……、」

 耳に手を当てようとする動きを見て、男は口を閉じ、結魅に目配せする。

「えっ、ああ、はい。一回戻って調査したい、です。もう少し情報が欲しいです」

 ならば即決。答えは出たも同然。

「よし、戻ろう! そして狂暴化した鋭利さんを倒そう!」

「おお、剛毅っすね、この娘」

「あー、おれも参戦するぜー」

 野太いボイスが、分厚い筋肉の塊と共に降ってきた。

 ワイルド風味の知らない顔の男だ。でも腕から金色の糸が見えたので判別付いた。

「「何だ、あなたですか」」

 声がかぶる。向かいの結魅と顔を見合わせ、筋肉ダルマを再確認して、気を取り直し、

「「結構、時間掛かったのですね」」 

 顔を突き合わせる。ドキドキする鼓動を抑えながら、深呼吸を一度挟み、

「「それで、勝ったのですか?」」

 三度目。これは一体どういうことか。お互いを指差しながら、

「『金』の鼎さん、ですよね? こいつらとどういう関係?」

「『ハンター』、この娘と知り合いだったのですか?」

 両者からの問い掛けにワイルドな男は、ああー、と頭を掻きつつ言い返す。

「実は、わけあって共存状態になってる。合体中だ」

 腕に付いていた糸が、一枚の鉄板をどっかから取り出し、鼎の声を作る。

『そういうこと。あっちで仲良く殺り合ってたらヒーローが逃げてきてな? 心配になって行こうと思ったら、疲労で俺の本体が掘り返せなくなっちまって、』

「っで、おれに頼んできたんだが、おれはおれで限界だったもんで、歩けなくなってからこいつにサポートして貰って、急いで飛んできたってわけだ」

 呆気に取られていた鵺也が現状を思い出し、よし、と首肯して、

「お前がいてくれれば頼もしい限りだ。『時計屋』、あとどのくらいだ」

「三十秒切ってるっすね」

「そうか。『ジャイロ』、『パノラマ』。用意はいいか」

「いつでも行けるに決まってるよ!」

「私は別に準備とか必要ありませんので」

 結魅と生意気短髪少女が平然と頷く。

「よし。では、『シル……銀架。お前の恩人を助けに行くとしよう」

 それに頷こうと首を大きく振り上げ、下ろし、

「っは…………!」

 瞬間、銀架は真下からの強い衝撃に突き上げられた。


          Fe


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