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鉄処女のリゾンデートル  作者: 林原めがね
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鋭刀流汚①


「鵺兄ぃ、今さらなんだけど。『覚醒罪』って何がどうして危険なの?」

 運転席からその声は聞こえた。狭い車内のことである。いくら運転が荒く、エンジン音が激しく、タイヤが踏む砂利の音がうるさくても、聞こえなかった振りは無理だ。

 前を見つめながらの輪音の疑問に、零蒔も乗っかってきた。

「確かに、まだ聞かされてませんでしたね。『No・1』が『万能録』を使って復活させるのは『覚醒罪』に違いないって言ってたっすけど。これから、もしかしたら遭遇するかもしれないその能力を、そろそろ教えてくれません?」

 鵺也は呼吸一つ分迷い、吐息を置いてから、

「あまり、気の進む話でも楽しい話でもないが、確かに話さないわけにはいかない、な」

 と前置きをして、訥々・とつとつと話し出した。

「『覚醒罪・ディペンド・デス』。これには三つの性質がある。その三つは組み合わさり、最悪な形で実を結ぶ。これが『覚醒罪』が他の〈七大罪〉を差し置いて、最も凶悪と謳われる理由だ」

「『凶悪』? むごいの?」

「そいつが一番強いわけじゃないんすか?」

「そいつ自身の戦闘力は皆無だな。しかしそんなことは問題では無い。性質が最悪すぎるのだ。その一つ目の性質が『依存』。自分を認識した人間を一人残らず魅了し、自分に依存させることだ」

 耳を傾けていた二人が息を飲む。自分が初めて知った時と同じリアクションだ。

 魅了・催眠系の鬼形児は僅かながらいるが、やはりそれは催眠術や精神干渉の域を出ず、外から強いショックを与えたりすれば、『目を覚まさせる』ことは可能だ。

 だが、と鵺也は断ずる。

「『覚醒罪』が用いるのは強烈な恋愛感情のような、麻薬のような『依存』だ。魅了の本来の意味がそれであるように、自分に『惚れ』させる。『依存』から逃れようとも、時間の経過と共に自分が抑えられなくなり、もう一度だけ、と『覚醒剤』を認識しようとしてしまう。恐ろしいのは、認識させれば良いということだ。視界に納めても、声を聞いても、触っても、匂いを嗅いでも。『覚醒罪』の毒はその身に及んでしまう」

 この時点で強力な鬼形児であることは零蒔と輪音にも知れただろう。

 この性質が『覚醒罪』の核たる部分とも言えるので、これさえ知れば対応策は思いつく。つまりそれは、

「直接会わなきゃ良いってことっすね」

「でもそれって、出会った時点で負け確定ってことじゃん!」

「そうだ。敵対すら出来なくなる」

「だけど、近くの味方も巻き込んでしまうんじゃ……?」

 零蒔にしては鋭い指摘だ。

「ああ、敵味方関係なく巻き込む」

「でもそれじゃあ……、」

 全員がそうなったら戦いにならない。零時はそう言いたいのだろう。

「だが、それで良いんだ。戦場にいるものを全て『覚醒罪』の影響下に置くことで、他の性質が活かされることになる。それが二つ目の性質、『発狂』だ。『覚醒罪』に魅せられた者は破壊衝動に襲われる。理性を飛ばされ、自己を見失い、目に付く物を壊していく。破壊と戦闘のみを求めるバーサーカーと化す。

 どうだ? 戦争という殺し合いの舞台に相応しい演出だろう?」

 ゾッと血の気の引く音がした。

『発狂』の毒によって、人間側の戦力の九割が自滅していった。警察の機動隊や自衛隊、街や仲間を守ろうとしたそれぞれの力を含んだ膨大な戦力はそのまま、自分らが守ろうとした大切なものを破壊する無慈悲な暴力に反転した。

 狂った暴力の矛先を決められるのは『依存』の主のみである。元々対等ではなかった鬼と人の争乱は、破滅と虐殺の連続でしかなかった。

 争乱の戦況は嫌でも鬼形児側に傾いていった。

「そして、極め付けが最後の性質だ」

「……まだ何かあるんすか……!」

 辟易した零蒔の声。しかし鵺也は強引に話を進める。話はまだ終わっていない。

「『依存』と『発狂』の性質があり、だがそれらを活かすために必要不可欠な、もう一つ。それが力のリミッターを外させる『暴走』だ」

「……『暴、そう』」

 まるで初めて聞いた単語のように淡々と繰り返す輪音。

 だが輪音は知っているはずだ。自分たちが活動し住んでいる深淵部に存在する化け物たちは、まさにその言葉の通りのことをしているのだから。

「深淵部の化け物たちは『覚醒罪』の毒を浴び過ぎた者の末路だ。『覚醒罪』の死体は未だに〈廃都〉の中心に存在し、毒素を吐き続けている。そして中毒状態になった化け物たちは毒に囚われ続け、『依存』と『発狂』と『暴走』をし続けている」

「あいつらって、そういう奴らだったんすね……」

 感慨深く頷くのは、よく奴らと遭遇する零蒔だ。とは言え彼は逃亡しかしないが。奴らを倒せるのは、同じ『覚醒罪』に汚染されたモノぐらいだ。

「『第三段階』というものを知っているか?」 

 輪音と零蒔が互いの顔を見て、おずおずと首肯する。

「噂で聞いたことくらいは」

「この前、ハルさんが自慢げに語っていましたぜ」

「そうか。第三段階とは、いわゆる能力の覚醒という奴だ。その異能の真の威力を発揮するのが第三段階であり、これに目覚めるには一つの補助が必要になる」

「つまりそれが、」

 助手席が言いかけた言葉を、そう、と相槌を打ち、繋げる。

「それが『覚醒罪』の『暴走』だ。春久も、十年前の戦場で『覚醒罪』を目撃し、第三段階に覚醒した。敵戦力の強奪と味方戦力の強化をもって、〈七大罪〉は七日間戦い続け、『覚醒罪』が死ぬまで人類を圧倒し続けた」

 しかし『覚醒罪』の毒に耐えられない者は、人間も鬼形児にも大量に存在した。

 特に弱い個体、まだ幼く第二次性徴も来てないような子供や、病弱な者、負傷していた者は内側から破裂するように死んでいったと言う。当然の話だ。無理やり『発狂』させられ『暴走』させられ『依存』に苦しまされ、人の器が壊れないはずが無い。

 それに耐え、毒を浴び続け、暴れ続けた個体が、深淵部の化け物となった。

「『覚醒罪』に関わった者は、敵も味方も無差別に精神と肉体を苛まされ、やがて死に至るか、人の心を失う。これが『淫欲』なる悪魔の力だ」

 口を閉じると、静寂が舞い降りた。エンジンの駆動音が別世界のものに聞こえる。

「……ど、どうにか倒せないんすか?」

 溺れた者が助けを求めるように、息を必死に吐き出しながら零蒔が訊いてくる。

 鵺也は首を前に傾けた。

「そうだな。例えば、相手を見ずに離れた場所から爆撃を加えられる鬼形児か、兵力があったとしよう。だが、これで倒せるのは『覚醒剤』が一人でいる場合だ。そこをカバーしていた他六人の〈七大罪〉の代わりに、今回はあの〈主人公〉たちがいる。倒すのはおおよそ無理だろう」

「でも、『おおよそ』なんだ? 『絶対』じゃないんだ?」

「まあ、そうだな」

「え、やっぱ何かあるんですか?」

「……あるといえばある。が、期待しているとこ悪いが、それは大分特殊なケースだ。何せその方法とは、現在生存さえ明らかでない行方不明の他の〈七大罪〉に止めてもらう、というものだからな」

『覚醒剤』と接触し続け、唯一平静を保ってられたのが、〈七大罪〉だったらしい。容易に想像付くことだが、そうでなければチームは作れなかっただろう。

 その実現不可能な方法を聞いて、ああ、と納得した息をつく二人。

「それが分かっていれば、俺っち苦労しないっすよ。ぶっちゃけ辛いっす」

「他力本願じゃないけど、助けてくれないかなぁー〈七大罪〉の誰かさん。でも十年前にバリバリの現役だったんじゃあ、今は大分年上さんだよねぇ。だとなぁー」

「輪音は年上苦手っすからね。まあ、少なくとも二十歳以上であることは確実すね」

「零蒔はいくつだっけ? ハルが二十五ってのは知ってるけど」

「ハルさんおっさんすねぇ。俺っちは二十一っす」

「おい」

 と、与太話に花を咲かせていた二人に声を掛け、右を顎でしゃくる。

「見えたぞ。〈主人公〉だ」

 えっ、と二人が顔を向けた方向に、〈主人公〉の壁が並んでいた。

「『No・1』と『パノラマ』はあの中にいる。気を引き締めろよ二人とも。あそこが、正念場だ」

 三人を乗せた車は搭乗者の意など気にもせず、容赦なく群れに近付いていく。


            Fe


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