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鉄処女のリゾンデートル  作者: 林原めがね
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鋭刀研磨③

 

 一撃必殺の鎌鼬が空中の鋭利に向けて発射された。

「……ッ!」

 しかし、戦利だけがそれを見ていた。

 放つ直前、姿勢も制御できていない鋭利が、黒い飛沫の一塊を口に含み、嚥下し、腹内に収め、弾けるような哄笑を満面に浮かべたのを。


「……ひゃっっっっっっっっっ、はぁ!」

 その瞬間、鋭利の腹を突き破って、砲口が顔を出した。


 四十六センチの艦砲は、大気を歪ませ迫りくる衝撃波に静かに構え、

「……食らい尽くせっ!」

 烈風の鎌が、鋭利の胴体から生えた大砲の口に吸収され、飲み込まれた。

 そよぐ風だけが残り、鋭利をふわりと揺らす。その風を元に、鋭利は姿勢を整え、腹から大砲の全容を引っ張り出す。身長と同じくらいの長さ。

「……馬鹿、なっっ!」

 うつ伏せに落ちながら、真下の慄く戦利に目掛け、大砲を向けた。

「お返しするぜ、利息はゼロだ感謝しな! 吐き出せ『闇口』!」

 砲弾サイズに収束されたカマイタチの衝撃波が、発射された。

「……ぬおおおおおああああああああ!」

 片腕のカマイタチは叫び、返す刀でもう一度音速の刃を放った。

 お互いの中空で二つのかまいたちが激突した。食い合い、対消滅する。

 圧縮された空気の塊が爆発し、鋭利とカマイタチをデタラメに吹っ飛ばす。

 ダメージは衝撃を逃がせない分、地上にいた者の方が大きい。地面に押し付けられ、叩きつけられたカマイタチは、自分の技が無効化された驚愕や体力が僅かしか残ってなかったこともあるのだろう、変身が解除されていく。

「……貴様、何をした!」

 人間の姿に戻った戦利は、その場に膝を着いた。遠くに飛ばされ、降り立った鋭利は、その嘆きの声を聞いた。

 もう、立ち上がれない少年の前に、近づいていく少し歳上の少女。

「どうした、もうダウンか? こっからが楽しくなるんだろ。自分の能力を持った武器を装備するっていう、同じ条件になってさぁ」

 茶化すように言って、懐から食べかけの短刀を取り出す。

「銀架の言葉とこれを『食べた』ことで分かったぜ。オマエが何をしてるのか。これと同じように、鬼形児の肉で造った道具を身に付けてるんだな? 左腕はそれの材料として差し出した。形状は靴とかがそれっぽいかな」

 レッドの語っていた、「腕を代償として」の部分が引っかかっていたのだ。

 カニバリズムでもなければ、人の腕にどんな利用価値があるのか。だけど銀架の「重なっている」という証言と鬼の血の味がする小刀。そして自分が他者の血から造る武器の仕組みを統合して考えると、答えはすぐに出てきた。

 戦利は己を材料にした加速する道具で、自分の速度を倍掛けしているのだと。

「卑怯って言うつもりもないさ。でもま、オマエがその道具を使う限り、オレもオレ自信とも言える大砲を使わせてもらうよー。これで、『正々堂々』だろ?」

 軽口を叩く鋭利を、戦利が憎悪と憤恨の眼光で見てくる。

 なぜ、と『弟』は血走った目で不平を訴えた。

「なぜ、貴様だけが、俺の上を行ける。なぜ貴様ばかりが、次に進める!」

「僻みかコラ。こんな身体の人間が他人の嫉妬を受けるとは思わなかったぜ。確かに、戦うには便利だがな」

 言って、見せびらかすように片腕を開く鋭利。その姿は出来損ないの案山子。骨と血管が浮かび上がり、痛々しい切傷も変色している痣も、そこには刻まれている。

「いや、それさえも本物の武器には勝てない。つまりオレはその程度のモノだよ」

「……俺たちを侮辱するのか!」

「どうしてそうなる。被害妄想気質だなオマエ」

 言いがかりにもほどがある。何の気もなく、何となく吐いた自虐なのだから。

「まあ、『No・1』であるオマエ倒したら、今のどの〈主人公〉よりも強いって証明にはなるのかな?」

 勿論そんなことは無く、要は相性の問題なのだが、戦利はますます混乱に陥る。

「何だ。何なんだ貴様は! 化け物か! まさか、〈七大罪〉なのか……!」

「バカか。十年前オレは九歳かそこらだぞ。自分に勝ったそいつを伝説の『最強』にしちまえば名誉は守れるってか? はっ、自惚れんな。オマエ如き、ざらにいる」

 戦利があらゆる言葉を無くす。敵の前に屈するリーダーに絶句し、闘志を我が身に仕舞っていく〈主人公〉たちは、視線を鋭利に集中させる。

 さあ、と鋭利はタイマン相手に一歩詰め寄り、

「決着、付いたんじゃねーか? 背骨も内臓もイかれちまっちゃ、もう長くは戦えない。これ以上はイジメになっちまうぜ?」

「……俺に、〈主人公〉に負けを認めろというのか………っ!」

「ああ、そうさ。〈金虎〉は死に、オマエはオレに負けた。もう〈主人公〉は終わりだよ。もし戦争を起こして外の国々に勝ったとしても、頭を失ったオマエらが生き残れる道はすぐに途絶える。絶対にな」

「舐めるな! たとえ一人になったとしても、ヒーローは滅びない……!」

「…………」

 虚勢を張る戦利を下らないもののように見下ろしてから背を向け、こちらの一挙一動を見逃すまいとしているヒーローの内輪に近付いていく。ビク、と動揺し、近付いた分下がっていくヒーローたち。敵であり、昔のトップだった鋭利に彼らが向けてくるのは敵意ではなく困惑の感情。

 鋭利は足を止め、半円になった彼らを見回して、軽く、そして深く息を吸う。

 聞け、と声を張って、言い放った。

「オマエらのトップである『レッドフェザー』はオレに敗北した。勝者として、そして元『No・1』としてオマエらに一つの重要な情報を伝える。絶望を伝える。嘘と思うかもしれないが、信じろ」

 鋭利の元『No・1』の貫禄に圧されるように、群衆は言葉を少なくしていく。

「オマエらを管理し、支配していた〈金虎〉は、先日そこの『レッドフェザー』の手によって滅ぼされた」

 静聴していた集団が一気にどよめいた。

  

            Fe


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