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鉄処女のリゾンデートル  作者: 林原めがね
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超上激戦③


「………?」

 全身に力と緊張を張り巡らせ自然体で立っていた春久は、鼎が完全に気絶したことに気付くと訝しげに、しかし油断無く見つめながら鼎に近づいていった。

 ……限界が急に来て、プッツンと来たか? にしても、違和感が残るが。

 近くに行くほど、鼎の醜態が目に付く。まるで死体のようだと感想を抱く。


 そして、春久の足元の地面が急に無くなった。


「……………ッ!」

 抜けるように開いた大穴、その縁に手を伸ばす春久。彼の第三段階の肉体と反射神経はそれを達成させるが、今度は穴が収縮していき、閉じていく。

 地面はアスファルトとその下のコンクリからなる。だから沼のように柔らかく狭まっていく動きは何とも奇妙で面妖で、不自然の塊としか言いようが無い。

 急いで穴から抜け出そうとする春久の足が、穴の底から来た何かに引っ張られる。

「ぐっ……!」

 動きが鈍った隙に大地の収縮は早まり、春久の体を下から飲み込んでいく。

 足から腰へと。腰から肩へと。肩から頭へと。そして残すは縁に掛けられた二本の腕になったところで、春久の片手が返され、近付いて来る向こう岸に向けられる。

「……ふん!」

 地面の顎を受け止める。

 両腕を開き、穴の抉じ開けと体の持ち上げをこなす。

 再び地上に出た春久の目は、頭への落下物を確認した。

 落ちてくる太いコンクリートの杭。空中に浮いている二十本以上の電柱が、鉛筆のように尖った先端を下にして、まだ下半身が噛まれて動きが取れない春久を狙って、次々と雪崩落ちてくる。

「………………ッ!」

 電柱は余すことなく春久に直撃した。破砕音と杭の残骸が重なり、ぶち当たる。

 最後の一本が突き刺さると、残骸の山に雨が降り注ぐ。ただしその液体には臭いがあった。そこに誰も乗せていない一台のバイクが突っ込んでいく。

 激突。と同時に臭いのある液体、ガソリンに引火し、爆発が起こる。

 音と衝撃が弾け、廃れたオフィス街を駆け巡る。

 高く燃え盛る瓦礫のキャンプファイヤー。動く者のいない黄昏の町並みを照らし、夕日の如くに煌々と赤い光をチラつかせる。火は巨大になっていき、しかし建物に燃え移ることは無い。まるで生きているように、火炎は建物に寄り付かない。

 そこに別の動きが生まれた。

 カラ、と焚き火の頂上の小さな破片が、転がり落ちる。

 踊っていた火炎が急速に山に集約していく。まるで蓋を押さえつけるように。

 そして次の瞬間、新たな爆発が起きる。

「…………ぅぅぅぅぉぉぉごごごごおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 それは直下から突き上がってくる、一つの噴火だった。

 燃える山の上部を吹き飛ばし、地下から噴き上がるのはどこまでも熱い雄叫びと打撃から生まれた衝撃と、一人の燃え上がる巨人。

 火山の中から、古代の英雄は再び復活を果たした。

「ぅぅうぐぐがががががあああああああああああああああああああああああっ!」

 怒り猛る獣の吼えが天につんざめく。燻りを残す噴石が、讃えるように野獣を赤く照らす。驚くことに彼の体には傷一つ、火傷一つ無かった。

 狙い打つように、春久に向かって、十五階建てのビルが倒れてきた。

 ビルは根元から折れ、大気を押し退け春久に向かって倒壊していく。虫を潰すように振り下ろされるビルに、野獣は向き合い、拳を構えた。

 腰に据えられた右の巨腕は、鋭く吐く息に合わせて放たれる。

 五〇メートルのビルに比べると、三メートルと小さい『巨狩人・ヘラクレス』が放った拳は、

「……………らァァァッッ!」

 熱を帯びた衝撃波が接触点から生じ、破壊の一言を持ってビルを真っ二つにした。

 破壊者の足元の山が反作用で凹み、それでも余る衝撃波が山の篝火を掻き消す。

 二つに分かたれたビルの上方は宙で三回転した後、落下して道路を貫き、地下鉄の駅に填まる。弾かれた下部分は、後ろの幾つかのビルを巻き込んで、倒れ込む。

 まっすぐ突き出した腕を戻し、春久は青目に少しの正気の色を取り戻し、

「おお、すげーすげー。ビビったぜマジで。街が丸々敵って、すげー迫力だな。これがおめえの第三段階か? ま、それでもおれを傷付けることは叶わないんだがな」

『あんたやっぱ化け物だな……』 

 その声は地の底から湧き上がってきた。大地がその身を震わせ、石臼のような音を立てる。重低音は地面のあちこちに開いた穴を通ることで、人の声になる。

『ただ勘違いしてくれるなよ。これはそんなのじゃない。何だ第三段階って』

 蹴られた空き缶のように飛んできた電話ボックスを、春久はビンタで払いのける。

 春久は瓦礫の山から飛び降り、近くの穴、マンホールに近づく。屈んで見下ろすが、底に裂け目が出来ていて、さらに深くへと繋がっていた。

「くそ、どこにいんだてめえ。第三段階知らねえのか? ぶち切れるとこうやって十年前のこと思い出す奴いるんだよなあ。怖い怖い、っとと」 

 足が地面から生えた泥の腕に掴まれそうだったので、慌てて飛びのく。そこにさっき割ったビルの上半分が地下駅を砲台にして、発射された。

「…………!」

 空中で大重量の塊に轢かれ、春久は派手に吹っ飛ばされる。それに応えたのは砕けたビルの下側。コンクリの建設物はバネ仕掛けのように跳ね上がり、飛んできた春久をバッティング。春久の身体は地面をバウンドし、違うビルの壁面に激突し、落ちる。

「……ぐ、ぬ」

 外見的にはまだ無傷だが、これだけ殴られては『神の光輝』の状態とはいえ、ノーダメージと言うわけにもいかない。体の内側に少しずつ蓄積してくるものがある。

 立ち上がろうとする片腕に若干の痛みが走る。ヒビでも入ったか。だがそれだけだ。戦闘不能には程遠い。街はすでに壊滅寸前だが自分はまだまだ闘える。

『こんなもん、ただの第一段階だぞ』

「……あ?」

 意味不明なワードが地から聞こえてきた。

「おいおい、第一段階って。低い方が強いってのか、おい」

 地の声は春久を無視した。

『そうだよな。何だかんだ言っててもビビってたんだな、俺は。相性的に絶対負ける相手じゃないのに、どうしてこんな苦戦してたんだか』

 聞き捨てならないセリフが聞こえた。

「……ああ? てめえどういうこ、…………ッ!」

 キレそうになった春久は、寸前で周辺の地表が蠢いているのに気付いた。

『俺は、赤いあいつに負けて、心が折れかけた。だから変に気張っちまって、正々堂々と勝とうとしたり、負けても悔いが残らないようにって、勝手に酔いしれて、そうやって自分の流儀・スタイルを曲げていた』

 独白に地面は揺れる。だが、それとは別の、何か生き物が地面上を這いずり回るような振動。まるで地面が沸騰しているかのような、乱雑な揺れ。

『でも違うよな。だからって何も出来ないまま終わるんじゃ違う。体を張ったからって勝てるわけじゃない。誇り高く戦ったって、負けたらそこで終わりなんだ。卑怯? 臆病? 姑息? 汚い? 好きに言え。いくら蔑まれようがこれが俺の流儀・プライドだ。意地とか誇りとかそういう綺麗なのは正義、てめえらがやっとけ。俺は世界を利用し尽くして惨めに隠れ回って罠に嵌め続けて、てめぇらを潰す』

 瓦礫の散らばった地上に立ち上がる影がある。それは砕けた岩や鉄筋、電線などが組み合わさり、圧縮され、形作られた、五メートルはある岩の戦士。

 その数は五体。しかし、そこで終わらない。鼎は止まらない。

『あんた専用に石と鉄で造った戦い続けるゴーレムだ。素材もスペアも限りなくある。存分に楽しんでくれ』

 それは、大量の瓦礫の分だけ、無尽蔵に産まれ出てくる。

 ゴーレムが次々に産声を上げていく。彼らの口から生じるは、荒武者の咆哮。

「マジかよ……! てめ、とんだ化け物じゃねえか……!」

 まず、動けるようになった初めの五体が来た。

 鈍重そうな見た目に反してそれらの足運びは素早い。すぐに春久に辿り着き、一番近いゴーレムが拳を出す。連携で右の一体から蹴り。春久はそれらに耐え、正面のゴーレムを乱暴に殴り付ける。胸部に大穴が開いて吹っ飛ぶが、その隙間に別のゴーレムが入る。左と後ろにゴーレムが回り、四方を囲まれる。

 判断は即決。前傾ダッシュし、進行の邪魔をする眼前のゴーレムを肘で打ち砕く。

 包囲から抜け出した先は、予想通りにすでにゴーレムの巣窟と化していた。

「………………」

 ざっと目算で五〇体。しかも、まだまだ増え続けている。

 彼らは無感情の目を一斉に春久へ向け、流れる連携を持って攻めかかる。

 後ろに退避するか、このまま突っ込むか逡巡。

 その一瞬の隙に地下から生えてきた無機物の手が足に絡み付き、自由を奪う。手は絶え間なく生え、両足の拘束を強固にしていく。前後からは走り寄るゴーレム。

「……ふん!」

 一度脱力し、四肢に力を込める。そうして体を張ればそれは『巨狩人』にとって攻撃になる。足に付着してくる土塊の手を弾き飛ばし、春久は真上に跳んだ。

 弾丸のように飛び出した春久は空中で体を回し、そばのビルの屋上に到達する。

 下を覗くと、ゴーレムが気持ち悪いほどウジャウジャしていた。あいつら一つ一つの攻撃はそれ程でもないが、あの数と澱みない連携は脅威だ。囲まれて動きが取れなくなるのはまずい。衰弱するまでいたぶられて終わりだ。

 後ろでコンクリートの石畳が動く音が聞こえる。もうここまで来たか。

「でも、そう万能磐石ってわけじゃねえだろ? 感じるぜぇ、こいつらを砕き壊す度に、てめぇの精神も一緒に割れていってんのをよぉ」

 どう能力者の意識が変わろうとも、能力の基本法則は変わらない。これだけ街全体を操るのには、それだけの精神と神経を費やさなくてはならない。自分の安全を蔑ろにしてでも。つまり、街を破壊すればその分のダメージは鼎に返っていく。

 こいつは、自分の身体や精神までも使い潰してやろうという覚悟なのだ。

 屋上に立ち上がった三体の新たなゴーレムは表情など無いはずだが、春久と顔を合わすなり、ニヤ、と笑った気がした。それが開戦の合図だ。

「ははは、良いねぇ。両者共々、全身全霊全力投球。これぞ、真の殺し合い。先に死んだ方が負けってなぁ!」

 春久は雄叫びと両の拳を足元に思いっきり叩き付けた。起きた破壊は、屋上から一階まで亀裂が入り、そして高層マンションがパカと割れたことだった。

 足元を失い、春久とゴーレムは落ちていく。ゴーレムは空中で必死にもがくが、敢えなくボルトが剥き出しの基礎部と衝突し、四散する。その上に豪快な音を立てて着地する春久。残骸は更に粉々になり、基礎部に無数のヒビが走る。

 春久は見えない所に隠れ潜んでいるライバルに向かって、堂々と宣言した。

「いざ、決戦!」


            Fe


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