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鉄処女のリゾンデートル  作者: 林原めがね
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超上激戦①


 飛び下りていった鼎を出迎えたのは巨大な張り手だった。

 鋭利たちと別れた後、鼎はすぐに『ハンター』を補足した。獣の男は警護を一人も付けず、しかしそれで十分なのだろう余裕をもって、その足を鋭利たちが目指すのと真反対、〈廃都〉の奥に向けて進んでいっていた。

 歩みとも言えるその後を追跡していく鼎は機会を図っていた。決闘の場所をだ。あの野獣の男と自分が争い合えば、そこ一帯は更地になるだろう。自分がしなくても噂に名高いあの『ハンター』なら、街を一つ潰すことなど容易い。だから、彼が〈廃都〉の奥、つまり人口の少ない地域に足を進めるのは願ってもないことだった。

 中層部の区域に入り、『ハンター』が廃墟になったオフィス街に踏み込んだとき、鼎は高架の線路の橋に飛び登り、その下を潜ってきた野獣の男に檄を飛ばした。

 しようとし、でもそれより先に荒い男の声が飛んできた。

「てめえか、さっきからこそこそと付きまとってたのは。何の用だ」

 鼎は一瞬面食らうが、獣みたいに感覚の鋭敏な奴の性質からして尾行に気付かないはずがない。鼎は平静を装い、用件を喋ることにした。

「てめえに聞きたいことと、恨みが一つある。両方済まさせてもらうぜ」

「ああん? んだよ、ったく面倒な物言いだな」

 といい、難色の濃い顔で見上げた『ハンター』は、しかし鼎の姿を知覚するなり一転、溢れんばかりの喜色を浮かべた。

 急激な笑みへの変化に鼎は肝がゾッと冷えるのを感じ、考えていた策も忘れ、灯火に誘われるように飛び降りてしまった。地上に落ちながら、初対面のこの身体にはいきなり攻撃してこないだろうと高を括っていたのだが、

「まさか迷いなく殴ってくるとは……!」

 野獣の男は落下地点にダッシュしてきたかと思うと、肘から先の右腕を巨大化させ、巨人の掌底を放ってきた。

 鼎の対応は冷静だった。落下中に『チップス』を体の前に持ってきて、盾の形に展開。「……ッ!」盾の中心で掌底を受け止め、相手のパワーを鱗のように重ね合わせた一枚一枚に分散し、合体を解除して、後ろに飛ばすことで受けた威力を流す。

 余っていた鉄片を『ハンター』に雹のように降らせていく。獣の男はうざったそうに鉄板を振り払い、巨大な拳を構えた。慌ててその場から飛びすさる。

 距離を置いたことで、男の野獣のような顔の全体像が視認出来た。

 男の顔は笑みが深すぎて、頬まで裂けていた。尖った歯並びがよく確認できる。

 現代に失われた、野生のホモ・サピエンスの笑みだ。

「よぉうやく会えたぜ、カメラマンくぅぅぅぅぅんん! さあ、バトろうぜ!」

「何で、ばれたんだ? 教えてくれよ、『ハンター』」

 はっ、と笑い飛ばし、彼は自分の鼻を自慢げにアピールする。

「おれは犬ほどじゃねえが結構な嗅覚を持っててな、嗅げば分かるのよ。それが『ハンター』って呼ばれる理由の一つでよ。どうせだから名乗り上げとこうか。『獣王』鵺也の番犬であり右腕、『ハンター』の春久・はるひさだ。よろしくな、カメラマン君」

「……元から逃げれなかったってことか。小垣はどこだ」

「あ? ……ああ体の方か。さぁてね、どこだろうな。ん~、おれ知ってたかなぁ~? 上手く思い出せないな~」

 イラッと奥歯を噛みしめる。実に扱いにくい野郎だ。何でも良いから殴り合いたいという魂胆が見え透いている。大将の鵺也とやらはさぞ苦労しているだろう。

『チップス』を両腕に装着していく。非常にやりたくないが、闘うしかないようだ。残った『チップス』は小惑星のように周囲に漂わせる。

「しかしまあ、でっけー腕だな、それ。両脚が使えない俺としては、あんたの肉体が全面的に羨ましい限りだ」

「おれはな、もう少し間接的な力も欲しかったよ。肉体の強化しか出来ないんじゃ、直接殴って片付けるしかないってのに」

 へぇ、と生返事をして、左右の拳をぶつけて装甲の強度を確かめる。

「自分の能力ばらしちゃって良いのかい。手加減しないぜ、おっさん」

「大人はガキに優しいのさ。まあ、強者の余裕ってやつ?」

「ありがたいこって」

 相手の見よう見まねで拳を構える。肉弾戦は不得意だ。だからこれは格好だけ。

 カチャ、と腕と脚を覆っている金属同士が当たり、音を鳴らす。

「〈金族〉が『金・こがね』、あがた雲水うみ。覚えておけ。この名があんたを屈服させる」

「……良いねぇ、やっぱり良いよ、お前。そんな顔されちまったら、ゾクゾクするじゃねえか。来いよ、鼎。とことんまですり潰してやんよぉ!」

 野獣の咆哮が天上に響いた。


 来いと言っておきながら春久は、自分から殴りかかってきた。

 一瞬で鼎の直前にまで跳び込み、しっかりと地を踏み締め、巨大な拳を打つ。

 あれを受けてはいけない。今度は本能がそう伝えてくる。

 ここからは一撃が命取りだ。だから回避だけを考え、敵の挙動をよく見て、

「……ッ」

 左手に飛んで避けた。右は春久の左拳が結ばれているのが見えたからだ。

 跳んだ鼎を追って、春久は二撃目、伸ばし切った右腕を真横に振るって薙いでくる。

 それを身体を折りつつ、鉄片のシールドを立て、上に受け流す。

 敵の動きは止まっていない。三撃目は左腕。

 右腕を引き戻し、回転速度の上がった左拳が、伏している鼎を狙う。

「甘いぜおっさん……!」

 鉄の小惑星を合わせ、宙に二つのアームを作る。骨身だけの手指は春久の腕に絡まり、パンチの力をそのままに牽引し、鼎の上を飛び越すように、

「……っ、背負いか……!」

 左腕を掴んだまま、地面に叩きつける。春久は右腕を真下に打ち付けた。アスファルトが腕の形に陥没し、投げの衝撃が相殺される。

 破壊の音が耳に刺さり、鼓膜から痺れが抜ける前に、次の音が響いた。

「……しょ、っとなあ!」

 ドゴン、と鈍い音で春久が地面を蹴りつけ、高くバク宙した。

 宙に舞った春久は、寝ているこっちの頭を狙って、蹴りを放つ。

 鼎が転がって避けたのと、春久の爪先が地面に突き刺さるのは同時だった。春久は即座に足を抜き、上からの回し蹴りを放つ。

 速い、が無駄に力が篭ってるせいで遅い。

 後ろに退いてそれを避けると、春久は独楽のように回り、今度は左の後ろ回し蹴りを打ち出してくる。その足首を『チップス』で横にずらし、弾く。常人ならバランスを崩す勢いで跳ね飛ばしたが、鼎はどういう筋肉の構造をしているのか、ピタリと制動を掛け、そのまま新たな蹴りにして、戻してきた。

 左の蹴りが返ってくる。だがこれもバックステップで避ける。

 野獣の男は身体を反転させ、犬歯を剥いた。

「このっ……! 逃げんじゃねえ!」

「無茶言うなクソ中年! 怖ぇだろうが!」

「おれは、まだ二十代だボケェ!」

 春久は膝を溜めて、急加速で飛び込んできた。後ろに逃げ切れない。

 接近しながらの両の拳が飛んでくる。咄嗟に『チップス』を総動員させ、手首を掴み速度を殺しつつ、両手でその拳を受け止める。

「っぐぅッ!」

 ズズン、と拳の重さを受け止めた地面が軋み、鼎の視界が揺らぐ。鼻から血が押し出される。腕の筋が何本か千切れる。各関節に付いていた鉄片がパキと割れる。

 受け止めたとは言い難い。ここから更に力を加えられれば、鼎など簡単に押し潰されてしまうだろう。だが春久は、押し合いではなく攻撃を選んだ。

 春久は頭を引き、すぐ近くのこちらの顔目掛けて、頭を大砲のように打ち出した。

 だが、それを待ち構えていた鼎は、意識が腕から別の所に移って、腕力が一瞬緩むのを待っていた鼎は、上半身を仰け反らし、

「……はぁ!?」

 金の糸を春久の胴体に回して、巴投げの要領で空に跳ね上げる。鼎は春久の両手を掴んだまま万歳をするようにして、上げた大男を地面に叩き落とす。

 腕を封じているこれなら受身は取れないはずだ。

「………ハッ!」

 メゴ、とアスファルトが巨人の形に砕かれ、黒い破片を跳ね上げさせる。

 威力は流されず、春久の中だけに留まる。その確かな感触があった。

 鼎は完全にブリッジする前に〈金糸〉で押さえ、上体を戻す。敵に背を向けないようにと身体をすぐに春久に向けて、鼎は止まった。

 とっく起き上がっていると思った敵が、まだ寝っ転がっていたのだ。


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