真刀絶削②
「むっ」
鋭利は動物的な直感でそれを感じ取り、顔をそちらに向けた。左、北東からだ。
「え、鋭利さん、う、後ろから敵が、ていうか上からもぉー!」
「ん? おっと、」
まず落ちてきた二メートルぐらいの岩石を一太刀で切り捨て、割れた岩を弾き飛ばし、今にも追いつこうとしていた豹の鬼にぶち当ててから、銀架を伺う。
「何だい? 銀架」
「いや、もう何でもないです。どうしたんですか、ぼーっとして」
前に飛び出してきた褐色のヒーローに銀架の光撃が発射され、たじろいだところをバイクで轢き飛ばす。衝撃で減速してしまった分を、スロットルを上げ、取り戻す。
「さっきな、仲間の気配がまるでこの世から消えた気がしたのさ」
「え。まさかそれはっ。死んだ魂が、知らせに来たと言う……!」
「いやいやいや。ただの気のせい、ってか気まぐれみたいなもんだって。何となくそう思っただけ。実際のとこ分かんないし、分かるわけがないって」
「……そのわりには的確に向いていましたが」
それよりも、と憮然としない口振りで銀架は前後左右を見る。
「……こんなんで本当に『No・1』が見つかるまで逃げ切れるのですか。その前に捕まってしまいそうな……。というか見つけてもどうやって倒すんですか。不意打ち?」
「それは銀架の十八番っしょ。不安になるのも分かるが、大丈夫さ。……たぶん」
「最後の一言が余計!」
鋭利は苦笑する。バイクは高速を保ったまま、巧妙なハンドル捌きで慌てふためく〈主人公〉の間を抜け、時にはね飛ばし、時に飛び越え、彼らを置き去りにする。
バイクの速度に付いてこれる〈主人公〉は少ない。また、周囲が仲間で埋め尽くされているので、広範囲かつ高威力の攻撃は仕掛けてこれないでいる。
勇猛果敢にもバイクの前に立ち塞がって、壁となろうとする強者もいるが、
「シュート」
「はーい」
簡単に意思が交わされ、銀光が放たれる。哀れにも散っていくヒーローたち。今のところ空気を加速しているだけだから、彼らも大怪我を負わずに済んでいる。
銀光の弱点は連射が不可能なことだ。出来るだけ敵の少ない方向に突き進んでいるが、大勢に囲まれ動けなくなったらそこで終わりだ。
そして〈主人公〉は連携の取れた集団だ。こうしている間にも全ヒーローに連絡が回されているはずだ。今ごろ境界域に集っていたヒーローたちも慌ててこちらに引き返していることだろう。このふざけた逃走劇も、長くは続かない。
「でもな、銀架。レッドの気持ちになって考えてみろ。自分たちが追っているはずのオマエがノコノコと姿を現わし、仲間を潰して、逃げ回っている。さて、どう思う?」
「バカだと思う。実のところバカですからね、鋭利さんは」
「……その通り」
こいつ、意外と優秀な頭を持っているじゃないか。胸にグサッと来たぞ。
「そしてこうも思う。何か秘策があるのではと。警戒するわけだ」
「何かあるのですか?」
「無きにしもあらず。が、それもやっぱり時間稼ぎ。でもそれで良い」
「えーと、つまり?」
つまりだな、と答えようとした矢先、ブレーキに手を掛け、速度を緩めた。
進行方向の道路が、垂直に起き上がっていたのだ。
目の前で四車線分のアスファルトが捲れ上がっていく。それは左右の道も同じだ。十字路の道はそれぞれ弧を描き、天にそびえる壁となる。後ろからは〈主人公〉。完全に塞がれた。
「や、やばいですよ!」
道路の壁にぶつからないよう緩やかに停車し、狼狽える銀架の肩に優しく手を置く。
「まあまあ、まだあるって。お空にシュート」
「え?」
銀架が上空に何も無いことを確認してから、それでも言われるまま銀光を撃ち上げる。
銀の光が夜に染まりかけている空を昇っていく。
「レッドはプライドの高い男だ。侮辱された瞬間怒り狂うだろうな。そして、あいつには堪え性というものが一切ない」
メットを外し、顔をあらわにする。鋭利たちが観念したと思ったか、ヒーローたちから歓声が挙がる。分厚い壁の上からは、術者だろう白い仮面のヒーローが降りてくる。銀架は思うだろう。絶体絶命と。
「だけど安心しろ銀架。こんだけ時間が経てば充分だ」
鋭利は天を指差す。つられて銀架の首が持ち上げられる。
耳を傾ければ、それは聞こえる。空に鳴り響いている、歪んだ風の音。
「この音は……!」
気付いた数人のヒーローが空を仰ぐ。風が強まっていく。
銀架が身構え、〈主人公〉の進軍が止む。鋭利は左肩の接合部分に手を当てた。
空に赤い点が見えた気がして、それと同時に圧力の風が降ってきた。落ちてくる乱れた風に、鋭利は生身である右目だけ瞑り、
「……………!」
強烈な弾ける音。爆発時のような風が、こちらと〈主人公〉の間から生じる。
続いて着弾のインパクトで地面が吹き飛び、クレーターと地震が生まれる。
それは、たった一人の単なる着地。
四方に走る爆風と土砂が、鋭利たちの身体を好き勝手に叩く。
巻き上がる風の中で鋭利は、喜の感情をあえて抑えずに笑い、唖然顔の銀架におどけてウインクをする。
「つまり、こーゆーこと♪」
「見つけたぞ、ブラック……!」
散々挑発され、堪え切れなくなった『レッドフェザー』が、こうしてあっさりと姿を現した。
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