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鉄処女のリゾンデートル  作者: 林原めがね
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真刀絶削①


 地下鉄の道は都市の真下に縦横無尽に広がっている。あちこちが崩落していたりするが、全体を把握してしまえば移動に使うのも住むのにも便利である。

 地下の暗闇を行く虚呂の足取りは、見ているサジが心配になってしまうほど軽いものだった。鼻歌とスキップを踏む虚呂に、サジは気になって問いかける。

「一度は殺されちゃいそうになった相手と再戦しに行くのに、随分と気楽に構えてるじゃない。ボクがいるからって安心しちゃってるのかな?」

「違いますよ。でも、何ででしょうね。今だったら凄いことが出来そうだ」

「また子供みたいなこと言っちゃって……」

「そういうサジさんは子供らしくないね」

「そういうキャラ設定だし」

 虚呂はクルクルと重力を『ずら』し、宙を飛び回る。さっきからこのように、遊びに行く少年のように無邪気に、無闇にはしゃいでいるのだ。十九の男がはしゃぎ回る姿は不気味なのと同時に、サジの心に不安めいたものを生み出す。

 どこか現実離れした、このまま幽霊になってしまいそうな儚さを感じるのだ。

「なあ、本当に大丈夫かい? 無駄に命張って死んじゃってくれるなよ」

「ねえ、ザジさんって〈七大罪〉の一人だよね」

 急な話の方向転換。しかも隠していたことを真正面から聞かれサジは面食らう。

「……人が言いにくいことを……! うんまあ、そういう過去もあったような……」

 落ち付きを取り戻したようで、幽体から肉体に戻る虚呂。地に足を付けた彼は言う。

「何で影に関わっているのかな、って考えたら結論出ましたよ」

「確かにその通りだし。偶然ね、奴らの持ってる道具を見かけて、しかも〈七大罪〉を狙ってるって聞いて。これは放って置けないなとボクちゃん出撃」

「一撃で消してしまえるのに、泳がせていた理由は?」

「指示を出してる首謀者の正体を探るため。まあ予想は付いちゃってるんだけどね。どこかで伝令役とか協力者とかと接触しないか見張ってたら、虚呂君が死に掛けてたから助けに出てきた所存だよ。お陰でボクの気配覚えられちゃったかもね」

 そもそも本性ならともかく、気配を隠すのは苦手だ。サヤコの時は密偵などと嘯いているが、実を言うと自分に尾行の技術は無い。我慢強くない性格と自負しているし。

 見ていたところ、影は〈七大罪〉を倒せる力は無いが、〈廃都〉を混乱に陥れるぐらいの技量はあるようだ。それくらい影らの扱う道具が優秀であるということだ。

 首謀者の名前を聞き出すのは、もう諦めた方が良いかもしれない。

「でも物理攻撃は効かないし、あの姿でも威圧出来なかったし。あいつらの始末は虚呂君に任せるしぃー。残りのダメになっちゃった鬼どもはボクが片付けるよ」

 最良の提案だと思ったが虚呂は、いや、と断りを入れてきた。

「あいつら全員、僕に任せてくれませんか。試したいんです。僕の力を」

「さっきも同じようなこと言ってたけど。何? 遅めの思春期? こうゆうのは分割した方が効率良いし。てか虚呂君てこずってたし。君も病み上がりの身なんだから、頼まれたって無理はさせてあげないし?」

「一瞬ですよ。一瞬で全て終わらせます」

「一瞬って。ボクの全力スタイルだってそれは難し――、」

 目が覚めるように、一つの可能性に気付く。それは決して在り得ぬことではない。そう考えれば今の虚呂の無駄なハイテンションも頷ける。つまり彼は、

「……奴らとの戦いの中で、目覚めたってことかぁ……! おいおい、理性を保ったまま目覚めるとか、久しぶりにこんな天才見たよ……」

「ザジさん」

 足を止めた虚呂が不敵な笑みを引っ提げ、亀裂の入った天井を指す。

「いますよ、上に。あいつらも僕たちを消したいみたいだね」

 言うなり〈幽体化〉し、虚呂は飛んだ。サジは跳躍して追いかける。

 出た場所は、どうやらだだっ広い空き倉庫のようだ。明かりは当然のように皆無。ここまで徹底されると逆に感心する。光に頼らない『視界』の虚呂は良いとしても、基本健康体な自分としては、もう少し日の当たる場所が好みなのだが。影どもは暗闇でないと活動出来ないのだろうか? だとしたらなんと不憫で不便な話なのか。

「来てあげたよ。さあ、決着を付けよう」

 虚呂の誘いに、影が闇から突如として生まれ、同時に多くの壊された鬼も殺気と狂気を持って現れる。

 静謐な闇が、死と狂と騒の入り混じった、血みどろの混沌カオスに変わる。

「いやー、昔みたいで堕ち付くし? んじゃまあ、お手並み拝見。君の魂を見せちゃって」

「はい。ではではご覧ください。『焦失点・フォーカシングポイント』、最後の段階ステージを!」

 そして彼は、狂いに満ち溢れた闇に飛び込んでいった。



 虚呂は見た。影が水筒のような物を取り出し、周囲の鬼に見せ付けているところを。

 水筒を眼にした鬼から次々に正気を失っていく。後ろでサジが慌てて眼を隠していた。あのサジでさえも筒には警戒を示すようだ。きっちりと知覚している虚呂が現在も狂いに落ちてないことから、あれは視覚で捉えさせないと効果が無いのだろう。自分に眼球が無いことを虚呂は感謝した。誰に? 自分の運命に。

「眼球の喪失が、こんな所で役立つとはね………」

 眼球どころか視神経が丸ごと無いので鋭利の義眼や『白金』の〈癒光〉も通用しない。日常生活に支障が無いから放置しているが、自分の障害がどうしようも出来ないものだと知った時、虚呂は逆に安堵したものだ。

 良かった。自分が助かるようなことがなくて、と。

 こんな酷い力を持った自分が、のこのこと救われるようなことが無くて良かった。

 虚呂は自分の力を嫌いこそしないが、自慢にも思わない。

 自分たちの力は、個の生物が持つには強力すぎる。だからこそ、いるかも分からない神様は全ての鬼形児に障害を与えたのだろう。代償だというように。

 自らにあてがわれた障害を恨む鬼形児は多い。と言うかほとんどの者は憎んでいる。その気持ちは分からなくもない。自分の異能を忌み嫌う鬼形児もいる。その気持ちも同じように分かる。しかし同時に虚呂は、その両方に感謝も感じているのだ。

 それは五体満足の健康優良児が、自分の肉体に感謝するように。

 それは勧善懲悪の物語で、悪を裁く正義に感謝するように。

 虚呂は強さと脆さの調律の取れた肉体に感謝する。

「だから先に謝っとかないとね。今からとても酷いことするから」

 無防備に、虚呂は一人しかいない影に近寄る。影と鬼たちがどよめいた。

「不可解。何故効果不及。貴様何奴?」

「何って、鬼だけど?」

 軽い調子で返してから、意識を心の奥に集中させる。精神の深層に潜り込んでいき、一番奥に仕舞ってあるものを引っ張り出す。イメージは自己を完全に心の中に落とし込み、奥を抜けて、袋のように全体を裏返す感じだ。初の試みだが、成功する自信はあった。

 好機と見た狂った鬼たちが虚呂に襲い掛かる。虚呂を中心に置いた円陣だ。まさに四方八方から狂暴が迫る。逃げ場は無い。

 そしてあっさりと、狂鬼たちの破壊行為は虚呂に届き、


「あ、『魅えた』」


 一人残さず、この世から消え果てた。

「――ッッッ…………ッ!」

 声にならない叫びとはこのことを言うのか、それを影が実演する。影が棒状の道具を取り出し、必死に「〈死骸之杖〉!」と唱えるが、効果はどこにも起こらない。届かない。

「ははぁー、思ってた以上にえげつない能力だね。これが僕の第三段階か」

「……ボクも人のこと言えないけど、チート過ぎないそれ?」

 一部始終を見ていたサジが、真ん丸の眼で言った。

「うっかりボクを巻き込まないでよ。流石のボクも死ぬし、それ」

「ですねぇ。初めてだから暴発はしちゃうかも」

 サジがそそくさとコンテナの後ろに退避した。

 鬼形児の能力には、成長期に合わせて目覚める第一段階と第二段階があり、それともう一つ、限られた者だけが辿り着ける第三段階というものがある。悟りの境地とでも言うのか、第三を発現出来た者は『目覚めた』と言われ、今までとは格の違う力を使えるようになるらしい。曰く、〈七大罪〉の七人は全員『目覚めた』鬼だったとか。

 都市伝説の類だと思っていた。ただの強力な能力を妬んだ鬼形児が流したデマだと。あいつらが強いのは第三段階があるからだ。俺たちもそれを使えれば、という。実際はっきりとした『目覚めた』という基準が分からない以上、その噂は聞くにも値しない。ある程度強ければ、全部第三段階になってしまうではないか。

 虚呂が発現出来たのはほんの偶然。もしくはあの筒型の道具に触発されたか。

 急に感じ取れるようになった自分の中の違和感を、第三段階と判断したのはカンだ。

 とはいえ所詮は個人の力。せいぜい範囲とか威力が変わるくらいだろう、と信頼しつつも過信はしていなかった虚呂なのだが、

「計算違いというか、過小評価し過ぎたね、こりゃ」

 範囲や威力どころではない。桁が違う。世界が違う。進化の過程をふっ飛ばし過ぎた生物を見ている気分だ。周りの世界にそぐわな過ぎる。

「対象を完全に『ずらす』ことで、この世から消し飛ばす」

 サジの声。さっきの一回だけで本質を見抜いたのか。虚呂はそこに注釈を加える。

「と同時に世界の一部を『ずらし』、異世界を創造する。今からやってきますね」

 さっきの感覚を忘れないように、指揮者のように指を振るう。

 覚醒の、体から魂が剥がれる、隔世の感覚。

 影と虚呂の存在は、その場にサジを置いて、別世界に飛んだ。


           Fe


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