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鉄処女のリゾンデートル  作者: 林原めがね
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心金鍛接③


 赤いヒーローが人気の無い地区を走り抜ける。『No・1』の戦利だ。

 ここは〈主人公〉と自衛隊が緊張の面持ちで集っている境界域から十五キロ離れたところに存在する地区で、〈廃都〉の西端に位置している。

 ここに住むのは〈廃都〉の住人ではなく日本政府に依頼された建設会社の作業員だ。だが、日本の各本社から帰還命令が出されたため、今はその姿はない。

 戦利は風が流れるように、ある建設途中のビルにスイスイと駆け登っていく。

 一つの窓から入り込み、コンクリートが打たれただけの薄暗い部屋に着く。消し忘れたのか、隅で付けっ放しになっていたライトが室内をぼんやりと照らす。

 戦利は何も無い、誰もいない部屋を見渡し、ライトと真逆の隅で目を止める。

「おい、来たぞ」

 光に照らされた戦利の影が揺らめき、そのまま、ぬっ、と起き上がった。

 戦利の影から不自然に現れた黒い人影は、まるで煙のように棚引く。

 そいつの口らしき箇所がモゴモゴ動くが、何を言っているのか分からない。

「俺と喋りたいならその覆面を取れ。『過感覚』はどこだ」

 そもそもこいつと言葉を交わす義理は無い。心酔している主が同じというだけで、同志や仲間と思ったことは一度も無い。それは向こうもそうだろう。

 暗殺者などという唾棄すべきこいつらを見逃し、〈廃都〉を自由に動き回ることを許しているのは、あくまで『あのお方』に免じてだ。手段が違うが主君に尽くしていることに変わりはない。そうでなければ今すぐにでも殲滅している。

 ふと後ろに、誰かの気配が生まれる。

 振り返った先に佇んでいたのは鵺也の側女だ。名前は忘れた。

「側女ではありません。本妻です」

 ムッとした顔で聞いてもないことを言われた。声には出してなかったつもりだが、心でも読まれたか。

「『No・1』、まさかそのような外の者と手を組むとは。とうとう鬼形児としての矜持さえも捨て去ったみたいですね」

「俺を責めるか? だが、目的のためなら全てを使うのが俺のやり方だ」

 影はこちらが指示すれば求める物を用意してくれる。それもまた『協力関係』と呼べるものなのかは知ったことではない。必要なのは使えることだ。

 影が闇にまぎれて消えていく。今回も最後まで顔を見せなかった。気に食わない。俺に対する侮辱ともいえる行為だ。逆に、あからさまに不愉快そうな顔を見せてくる『過感覚』の方が好感が持てるというものだ。

「……我が主のようなことを言いますのね。それで、私にさせたいこととは何ですか。あんな者に迎えに来させ、こんな所まで連れてきておいて」

「要件は簡単だ。ある娘に貴様の力で『夢』を見させろ。『覚醒剤』の悪夢をだ」

『過感覚』の女が無関心の姿勢を崩して、目を剥く。

「……バカな! 殺すつもりですか! そんな、残酷なこと……!」

「必要な犠牲だ。『覚醒罪』の力を手に入れば日本は再び滅び、あのお方がこの国を統べることになる。鬼形児たちの居場所が、新たな国が生まれるのだ」

 戦利の言葉に『過感覚』が息を呑む。何か口篭るが、口に出されなかった言葉など戦利からすれば、無いも同然だ。

「そう、良い。ここまでは順調だ」

 戦争のお膳立ては済んだ。お互い開戦の準備も出来ている。『過感覚』もここにいる。

 あとは主役の『万能録』だけだ。

 時間が足りないわけではないが、未だ『シルバーレイ』を捕まえられてないのは不安要素だ。捕獲に行った部隊からの報告では黒衣の者と共に逃亡中らしい。

 しかしその進行方向は西。つまりこっちに向かっているという。

 黒衣の者とは『ブラックソード』のことに違いない。あの黒い『No・1』が考え無しに特攻してくるとは思えない。こちらの目論見を潰すつもりだろう。あの『姉』は、一番初めの『No・1』はそれ程の力を持っている。

「そう、波乱があるとすればここからだ」

 駒は揃った。余計なことは考える必要は無い。全ては正義と鬼形児のため、

「そして、あのお方、土御門玄鶴・げんかく様のため」

 思考は一直線に。細く、固く、鋭く。何よりも熱く。速く、速く。

 速く。


            Fe


「ここからは二人で行ってくれ」

 走行中、鼎がスクッと立ち上がって言った。いや実際に足だけで立ったわけではなく、『チップス』を足に沿わせて貼り合わせることで甲冑を作り、甲殻類のように外側から体重を支えさせているのだ。

「もう見つけたのか?」

「重要参考人をな。あいつが知らなかったらインチキだろ」

「誰ですかそれ?」

「ん、俺を襲ってきた野獣のおっさん。『巨狩人・ヘラクレス』」

 そう言って鼎は高域を爆走するバイクから飛び降りていった。その背中を渦巻きながら『チップス』が付いていく。鉄板の橋が下りのスロープに変化していき、バイクが地上に下りるのを待ってから、スロープになっていた『チップス』も鼎を追いかけていく。

 鋭利は一度バイクを止め、走っていく鼎の背中に一瞥を加える。メーターに付いていた最後の一枚が蝶のようにヒラヒラと飛んでいく。

「気を付けろよ、『金』」

 一枚が風に煽られ、笑った。

『ははっ、何だ、俺が負けるとでも思ってんのか?』

「なーに言ってんだ、オマエは負けてばっかだろ。オレ以外の女が相手だといつもそうじゃねえか。じゃなくて死ぬなって話。御立派な正義にこだわって、くれぐれも命まで捨てるなよと、経験者からの御忠告」

『……は、らしくねーこと言ってんじゃねえよ。俺が、一度でも死んだことがあるかよ?』

 いやさ、と鋭利は頭をポリポリ掻いて、

「これが最後の会話になるかもしれないし」

『何て不吉なことを言うんだお前は!』

 鉄片はその叫びを切りに木の葉のように飛び去っていった。本体の方はすでにどこかに消えていた。戦場を遠ざけてくれたのか。あるいは遠慮なく暴れるためか。

 視線を戻すと、銀架がいそいそとサイドカーに潜り込んでいた。

「あの人勝てますかね」

「ま、きっと大丈夫さ。そっちはそっちで音とか振動凄まじいよ?」

「え、楽だからあの人こっちに座ってたんじゃないのですか?」

「はは、それはどうかなぁ? 体を固定出来る分、楽かもねー」

 銀架はサイドカーの座に腰を落ち着かせる。一応試してみるつもりのようだ。

「これからどうするのですか?」

「どうするも何も、前見てみろよ。お出ましだぜ」

「え? 何が……わっ!」

 爆音が再開し、後輪が空噴く。シートベルトを締める間も与えず、急発進。

「わ、わわ、ちょっと、危ないじゃないですかぁ!」

「まあまあ許せって。それより覚悟しとけよ。今からあそこに突っ込むから」

「あそこ? ……うひゃあ!」

 銀架がバイクの進行先に見たもの。それは色取り取りの仮面の集団。

「外縁部に向かう〈主人公〉たちの大行進だ。あの中からレッドを見つけて、ブッ飛ばして、無事逃げれればオレたちの勝利だ」

「……うわぁー、ヒーローってあんなにいたんですね……。アレの中を進まなきゃ、ホントにいけないのですか!?」

 慌てる銀架を尻目にニヤァと笑み、スロットを上げる。

「舌噛むなよ。かなり荒っぽくいくから」

 ふと、鋭利の口から一つの息が漏れる。はっ、と。

 漏れた息は次の吐息に続き、少しずつ繋がり、やがて断続的なものに変わり、大きなものとなり、派手に爆発する。

「わっあはははははははははははははははははははははぁぁぁぁぁっっ!」

「鋭利さんがとうとう壊れたぁー! もうやだぁぁぁ!」

「ははははははは! なぁに言ってんだ銀架、クライマックスはここからだぜぇぇぇぇ! がははははっはぁぁぁー!」

「助けてぇええええええええ!」

 少女の叫びは爆音に掻き消され、バイクは全速力でヒーローの軍団に飛び込んだ。


         Fe


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