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鉄処女のリゾンデートル  作者: 林原めがね
33/61

鋼殻剥離④


 次々と、銀架としての人生が現在から過去へと展開されていく。

〈金族〉でのこと。今朝のこと。〈主人公〉を飛び出した昨日のこと。〈金虎〉からの指令に嫌々従っていた一ヶ月前のこと。弱者を傷つけるヒーローに、初めて嫌悪を覚えた半年前のこと。そして、死んでいく『姉』を目の前にし絶望した、二年前のこと。

 そこから記憶が裏返る。グルンと転換を迎える。

 人間だった少女の記憶から、化け物だった女の記憶に。

『姉』との思い出が回想されていくが、同時に『妹』との思い出が混じり出す。それでも肉体の回想は、自分自身の過去を鮮明に鮮烈に、残酷に映し出す。

 四年前、『私』は人間が設立した立派な孤児院に住んでいたが、飢えた鬼形児たちの襲撃に遭い、そこを失った。その後、誘われるように森に入っていった。

 十年前、争乱の日、両親に連れられ、当てもなく逃げ回った。十三年前、母の産道を通って、産声を上げた。それ以前、肉体は羊水の中で小さくなり、一つの受精卵になり、精子と卵子に別れ、その二つも消え、『私』の存在が完全にゼロになる。

『妹』の歴史は巡り終わった。だが、もう片方の走馬灯は止まろうとしない。

 記憶の逆再生がどこかに飛ぶ。

 知らない鬼形児がいた。水の異能を行使する。視界が飛ぶ。

 また、別の鬼が目の前に立ち、浮遊の異能を使う。移り変わる。

 見覚えのない鬼が拳を構える。地面が激しく揺れる。場面が飛ぶ。

 また違う鬼形児。物を凍らせる。飛ぶ。物の心を読み取る。飛ぶ。鬼が岩に化ける。飛ぶ。光を曲げる。飛ぶ。物を直す。飛ぶ。心を操る。飛ぶ。闇を産む。飛ぶ。身を分ける。飛ぶ。火に触る。飛ぶ。木を生やす。飛ぶ、飛ぶ、飛ぶ、飛ぶ、飛ぶ、飛ぶ飛ぶ飛ぶ飛ぶとぶ、とぶととぶぶぶととぶぶうぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶ――――、

 ガツン、と。

 突如、目から超新星爆発が起こった。頭にもの凄い衝撃を受けたのだ。

「……い! おい! 銀架! 大丈夫か!」

 視界が意識下に戻され、焦燥した鋭利の顔が飛び込んでくる。 

「しっかりしろ! 戻ってこい! クソ、どうしたってんだ! 何ならもう二、三発食らわした方が良いか、これ!?」

「いや、さっきので起きたみたいだぜ。いったそうだったなぁ、さっきの」

「目を覆いたくなるほどの一撃でしたねえ」

 こちらの焦点が自分の顔で結んだことが分かったのだろう、鋭利は銀架の両肩から手を離し、安堵の息を出した。そんな鋭利を見たまま、痛みの元凶の頭頂部にこわごわと手を伸ばし、その痛みを確かめる。驚くほど激痛がした。

「っ痛ぁー! 腫れてますよこれ絶対! どんだけ強く殴ったんですか、あなたは!」

「ん? 勢い的にはコンクリの壁を砕くつもりで殴ったかな。いやー、にしても正気に戻って良かったぁー!」

「……え? なに、私の頭、コンクリより丈夫なんですか……?」

 てか、その強さで人殴るとかこいつが正気か、と誰ともなく呟き、ひく。

 どうやら意識を失ってた間、ソファに寝かされていたようだ。独占していたソファから上体を起き上がらせる銀架を、鋭利たちが心配そうに見てくる。

 見守られる中、銀架は自分の身体を抱きしめ、確かにあることを確認した。

 しかし、身体の内側を意識すると、さっきまでは無かった別の感覚もある。違和感や齟齬といった濁りはなく、むしろこれまで以上の正常さを感じる。

「恐らくこれが、本当の、『万能録』としての私。感じます。色んな、力が」

「私の話が刺激になって、少し目覚めてしまいましたか。正直、有り難くないですね。敵側の手間を省いてしまいました」

「ちょっと待て。銀架が『万能録』って、本気で言ってるのか?」

『長老』は訊ねてきた鋭利を見ずに、銀架をじっと見つめてくる。

「そこは本人が一番自覚しているでしょう。まだ元の記憶が定着してないようですが、目覚める段階まで行ってないことが不幸中の幸いですな。あるいは一生このまま『銀架ちゃん』としてあり続けるかもしれない。ああも言いましたが、今の銀架ちゃんは『万能録』よりも妹の方に近い存在です。彼女の模倣は完璧です。『妹』を遺し続けたいと願う内は、あなたはその姿のままでしょう。記憶も身体も」

 衝撃の新事実に銀架は、まさかっ、と目を張った。

「一向に身体が成長しないのも、あの時の私がそう設定したから……!? くっ! 一番の敵は、やはり自分ということですか……! あの時の私めェ!」

「……あまり、ショックを受けてませんな。無理はいけませんぞ」

「いえ、大丈夫です。……あのお墓には、『姉さん』じゃなくて『あの子』が眠ってたんですね。あるいは昔の私が、でしょうか」

「実を言うと、まことに失礼ながら前に一度だけあの墓を暴いたことがあるのですよ。墓の下にあったのは、女性の遺体ではなく髪の毛でした。しかも彼女の前情報としてあった銀髪ではなく、黒い髪だった。そこから『万能録』がまだ生きてる可能性に行き着いたのです。ですが、まさか本人が記憶を封じて、『妹』の方に成っていたとは。通りで見つからないはずです」

 そこで、『長老』は道化師のように、諦めるように両手を浅く広げ、

「さて、これで私の話せることはお終いです。これで分かったでしょう? 『No・1』の狙いは、恐らく〈七大罪〉のいずれかの復元。そうでなくとも、『万能録』が戦争に利用されたら碌なことにならないのは確実でしょうね」

「………………」

 しばらく誰も、何も言えなかった。それは本人である銀架もだった。

 何を聞いても驚かない、と豪語して身構えていた鋭利たち三人は、ただただ口を開きっ放しにするだけだった。やがて『蒼鉛』が重々しい口振りで、息を洩らす。

「……知っちまったからには、また守らなきゃってことだよなぁ。はぁー」

「いや、溜め息突いてるけどオマエ、まだ一度も活躍してないからな?」

「まあまあ、それは言わない約束で」

「ま、『蒼鉛』の言う通りだな。止めなきゃならない理由が一つ増えただけだ。銀の娘っ子が実はどんな怪物だったとしても、『No・1』がムカつくことには変わらねえ。だがまあ、俺でも鋭利でも倒せなかったんじゃ、もうどうしようもない気もするんだが。あの男に弱点なんてあんのか?」

「そのことについてなんですが。一つ、昼間の彼を見て、感じたことがあって」

 挙手して、銀架は思い出すように『レッドフェザー』のズレを伝える。

「今の『No・1』はどこかおかしいです。使えるはずのない力を、悠々と行使している。私がさっき『No・1』に思ったことは、重なっている、でした」

 色ガラスに例えれば分かりやすいです、と銀架は言った。

「能力とは、そこに透かし、通すことで光という現実に変化を与える、様々な種類の色ガラスです。色の濃さが干渉力を表してます。今の『No・1』には、それが二重になってると感じました。ガラスを重ねることで、光が更に濃くなるように。自分の能力にもう一度能力を重ねて、力を強化している。イメージ的には外にもう一人別の自分がいて、力を与えているような……すみません、自分で言ってて訳が分かりません」

「うむん、でも興味深い例えだいねー。外に別の自分、かー。面白い」

 こっちの言葉に刺激を受けたか、鋭利が楽しそうに思考に耽り出す。

 その時、何かを感じ取った屏風が深刻そうに、横で似たような顔をしていた鼎と頷き合い、次に銀架と鋭利に視線を送ってくる。

「タイムリミットが来たようだぜ。〈主人公〉の輩が〈迷霧〉に侵入してきた。鼎も確認済みだ。ここが突き止められるのも時間の問題だ」

「もーか、もうちょっとで分かりそうなんだがなー。ここ、ここまで来て、うーん」

 手刀で喉を示してから、鋭利は隣室の扉に振り返って、

「貧弱虚呂はそう言えば? まだ寝たきりかい?」

 鼎が苦笑して、それに答える。

「奴はさっき見たら消えてた。手伝ってもらおうと思ったのに、ったく、仲間甲斐の無い野郎だぜ。置き土産に気味悪いの残していったしな。お前にだとさ」

 鼎は〈金糸〉を隣に飛ばして、一つのナイフを引っ張ってくる。鋭利はそれを空中でキャッチし、金属器であることを見るなり、自然な流れで口に運ぶ。

「……ん? これって、この味、……ああ、おお! おお? ああああ!」

「ど、どうしたんですか鋭利さん?」

「……ふふっ、やっと分かったのさ。レッドの奴がどんな方法で、異能の出力を上げてんのか。銀架のアドバイスとこのナイフのおかげでな。にしても、ッイヒヒヒ。奴の驚く顔が目に浮かぶぜェ、あは、あひゃひゃひゃひゃひゃ!」

 そして鋭利は、心配になった銀架が銀光の加速付きの拳で殴り飛ばすまで、奇声を上げながら、狂ったように笑い転げていた。


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