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鉄処女のリゾンデートル  作者: 林原めがね
30/61

鋼殻剥離①


 全てをお話します、と鋭利の昔の服に着替えた銀架は言った。

 そう前置きしてから、銀架は言葉を選んでいるのか、考え込んでいた。

『蒼鉛』の唾を飲み込む音が響く。鼎もいつもの余裕の笑みを引っ込めている。

「えーと、私も聞いて良い話なのかしら」

 どこかからか取り出したメモ帳を構えながら、椰子原が心配そうに尋ねる。食事時には一言も喋れてなかったが、マスコミ魂のお陰か、顔に生気が戻っていた。

「椰子原さんの場合、隠そうとしたらもっと知りたがるだろう? だったらせめてメモだけは防いで、あなたの中にどんな情報が入ったか、把握させてもらう」

「……『小垣』君、もしかして私のこと信用してない?」

 鼎はジト目をして、今まで回収したメモ帳を扇のように広げて、今も椰子原の手の中にあるメモ帳を〈金糸〉で掠め取る。その動作には信用の一欠片もない。

「『小垣』、じゃ混じるから、あが、『アガキ』君意地悪しないでよ!」

「その混ぜ方は酷い!」

『足掻き』が抗議するが、銀架が没頭から帰ってきたので続きは封殺される。

 全員の耳が銀架に傾けられ、聞く準備は万全。銀架は話し始めた。

「はっきり言って、自分でも解明できていません。事実を話しますが、説明が足らなかったとしても、私はそれ以上説明することはできません」

「それで良いさ。さ、聞かせてくれよ。オマエの過去を」

 はい、と銀架は目に力を入れ、覚悟を入れ直す。

「私には、姉がいました。二年前に死んでしまったのですが」

「何? 姉がいたのか。まったくそれを先に言えって。美人だったんか?」

「ボスぅー、状況を考えろよコラー?」

 乗り出した鼎に鉄拳をチラつかせる。むう、と無念そうに引っ込む色情魔。

「そもそも私は、人間でした。五体に恵まれた、ただの子供だったんです」

 はあ? と鋭利たちは自分の耳を疑った。聞き間違えとしか思えないことサラリと言ったぞこの少女。しかもそれはまだ本題じゃないらしい。

 観客の反応を無視して、銀架の告白は続く。

「姉さんは死ぬ直前に、私に力を預け、鬼形児にしました。以上です」

「………………………………え?」

 根気強く話の続きを待ってた鋭利が、声を漏らした。

「え? どうしたんですか皆さん。終わりましたよ、話」

 空気が、一瞬凍りついた。はあ? と『蒼鉛』が焦って言った。

「え、だって、結局どういうこと? 謎が増えただけだぜ、銀架ちゃん」

「そんなの私だって知りませんよ。自分でも分かってないって言ったじゃないですか。まあ、全部姉さんの不思議パワーのせいだってことじゃないですか?」

 銀架はツンと顔を背けて、そこからの説明を放棄した。んなもん知るか、と。

 そして、鋭利が暴走した。

 銀架の足元に屈み、ガッと足首を掴んで、一気に持ち上げた。

「あ・ま・り・に・も、説明になってねぇぇぇぇ! 二年前に死んだってことしか分からねぇぇぇぇぇ! そんなんで納得できるかぁー! おらぁ! 吐け銀架! まだあんだろ! あるに決まってるよなぁ! 吐け小娘ぇ! おらおらおらおら!」

「お、落ち着け鋭利! 逆さにして振っても出るのはゲロだけだ!」

「うぉうぷ。何て激しいシェイク………! 胃、から、お米が込み上げて……!」

「わっ、わあ、わああああぁぁ! 止めろ! 振り回すな鋭利! 何か飛んできたぞ!」

 ジャイアントスイングから離れたところで椰子原が冷静にメモを取る。

「ふむふむ。鬼形児は切れやすく、怒ると騒がしい、と」

「あながち間違っていないのが頭の痛いところだよな。で、椰子原さん、その紙とペンはどこから出した?」

「んもう、デリカシーの無い人ね、アガキ君は。女の子には秘密がいっぱいあるのよ」

「『アガキ』言うな」

 回転を徐々に和らげていき、最後は銀架を持ち上げつつ、スイングを止める。

「ふう、すっきり。良い仕事したぜ」

 暴れて気分爽快の鋭利は、足元で瀕死の銀架を気遣わずにさて、と始める。

「当の本人がまさかここまで使えないとなると、さて、どうしたもんだかね。さっきの話、仮に全部本当だったとしたら、鍵は『姉』と呼ばれていた鬼形児の能力、か」

 仮初めであるが、そうして家族を演じる鬼形児は多い。鼎が造った〈金族〉も家族の一体系を目指したものだ。イメージ的には、血族というものだが。

「そういや、あの娘っこは何系の鬼形児なんだ? そこら辺に『姉』のヒントは転がってんじゃないか?」

 鬼形児は異能の系統によって、獣化系、発現系、超能系、次門系の四つに分類される。では、銀架はどの系統だろうか。体内からエネルギーや現象を放出する、発現系の特徴があるが、次門系の感触もある。銀光の能力は、光自体に破壊力があるわけではなく、何かにまとわせて、それを打ち出すことであの威力を発揮させている。中心に置く何かを加速させる異能と見た。

 加速の源はきっと重力だ。重力を扱う異能なら、十中八九次門系であろう。

「発現系、っぽい次門系だな。超能系のようで実は発現系の屏風と似てるな」

「ふむ。次門系か。うーん、何も見えてこないな」

 頭の中を整理してるのか、指を折りつつ、椰子原が聞いた。

「だけど、元々人間だったって、そんなことありえるの?」 

「俺は聞いたこと無い事例だが、人間だったんなら障害を持ってないのも頷けるな。ま、だからと言って納得できるわけはないんだけどよ。『蒼鉛』も、数年前は浅部にいたんだよなあ。人間が鬼形児になったって話、聞いたこと無いか?」

「俺も一度たりとも聞いたこと無い。中間部でも、浅部でもな」

「ふーん。銀架はお姉さんの能力について、何か知らない?」

 覚束ない足取りでソファまで歩き、寝るように腰かけていた銀架に訊ねる。

「あまり覚えてません。ものすごく強かったという記憶しか」

 その口振りに逡巡は無く、またもや言い切る形であった。

「むーん、参考になるようなならないような。他に何か無い? 能力名とか」

「姉さんの、能力名?」

 ダメージが残ってる銀架の目が泳ぎ、何も存在しない点で止まる。

「姉さんの、能力」

 ぽつりと、一滴の涙のように、耳元で囁かれたように言葉が零れる。


「『アカシックレコード』」


 聞き取れるか微妙な声量だったのに、そのワードは、鋭く、脳の奥底にまで突き刺さった。動く者はいない。耳に残った謎の言葉に縛られてしまっている。

「……なんだ、それは?」

 鋭利の質問は意識せずに出て来たものであった。だが、それは答えを求めているのではなく、ただ呪縛を解くために口にした一言だった。

 分からなくても良い。分かってはいけないものだ。心のどこかの部分が叫ぶ。

 だから銀架が無念そうに横に首を振っても、誰も異論を唱えなかった。

 そこに、玄関の外からあっさりと答えが帰ってくる。

 悪夢のことですよ、と。

 扉が開かれる。外から内側へと、回答の主が開きながら入ってくる。

「『原罪の記録書・アカシックレコード』。過去現在未来さえも記されている、究極の歴史録です。そして、それを元に名づけられた、あらゆる異能を吸収する、完成されかけた禁断の鬼形児。それが、その少女の『姉』でもあった、『万能録・アカシック・レコード』です」

「……『水銀』。どうしてここに?」

 皆の視線が集まる先で、元『水銀』伽藍・がらんは会釈と共に柔らかく笑った。


Fe

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