鉄鋼鍛金②
虚呂は寝台に横たわっていた。隔てた扉の向こうから終始聞こえてくる仲間たちの楽しそうな騒ぎに、苦笑していると、暗闇に話しかけられた。
『君は。あの中に混ざらないのかしら? 楽しそうよ?』
「……いや、貴女こそ何で隠れてるんだい、サヤコさん」
『アタイはほら、お呼ばれしてないからさ』
「僕を助けたんだから、そんな遠慮は変ですよ」
いやあ、と闇がざわめく。闇という不確定な肉体のままで。
『最初はそうしようと思ってたんだけどぉ、雲水が負けて帰ってきたじゃない? するとアタイも彼の恋人として彼に会っちゃいけないのよ』
「あー、それね。でも、女性に弱みを見せたくないってあんま実現出来てないよね」
『フフフ、見逃してあげて。彼はピュアだから』
「ピュアって」
噴いてしまう。あの常に居丈高に構えていて、女性にとことん弱い彼のことを堂々とピュアと呼べるのは、この人ぐらいだろう。それもまた愛ゆえか。
「それ。サヤコさんそんなモノにもなれたんですね。闇って言うか、影?」
『ふふふ、見えないでしょ? ついさっき覚えたのよぉー?』
へぇ、と胡散臭そうに生返事して、身を起こす。緩んで首元に垂れていた目隠しを結び直し、サヤコの気配がする方に後頭部を見せて、
「ちゃんと結べています?」
『うん、きっちり固結びね。ほどく時が大変そう』
「別に。ほどく機会なんて無いし」
言い、床に降り立つ。部屋の中は閉め切っているせいで暗闇と化しているが、光の無い世界で生きてきた虚呂の足取りには、迷いもふら付きも無い。
風船が萎むような音がしてポンと弾けると、すぐ横に形を持ったサヤコが現れる。
「人モドキのとこ行くなら、ボクが案内をしてあげちゃうよ?」
「何ですか、その変身。小さい? 男の子、ですよね、その外見だと」
「おっとボクのことは『サジ』と呼んじゃってくれよ? 『サヤコ』とは別人なんだ」
きょとんしていると、サヤコ、少年の『サジ』の顔に悪戯っ子の笑みを感じ取り、一つの苦笑が出る。
「色々言いたいことはあるけど、ようやく確信しました。僕が敬語使ってたのは間違いではなかったみたいですね」
貴方にタメ口なんて出来ません、と恭しく頭を垂れる虚呂。奇しくもそれは彼女の前に屈した狂った鬼たちと同じ行為だった。下を向いた虚呂の笑みが深まったのは、サジが笑顔を引っ込め、苦々しい渋面を作ったからだ。
「あぁあぁ、あぁあぁ。これだから次門系は。気付かなくて良いことに気付いちゃうし。目の前の光景に無邪気に飛び付いちゃってくれればそれで良いのに。どうしてあんたらって、裏側から見たがるのか。やだやだ、やだし、ったくよー」
「分かる人にはすぐに分かりますよ」
「あっちの雲水らは気付かないだろうさ。あんたが言ってやらなくちゃね」
「ははは、言えてる。それじゃあま、行きましょう。奴らと決着を付けに」
壁に近づいてから、すり抜けるために肉体をこの世界から『ずらす』。
「あら? 表から出ないの? 元気な顔見せてやりなし」
「ふふ、知らなかったんですか? 僕も負けず嫌いの意地っ張りだってこと」
雲水と同じですよ、と壁を抜けて虚呂は外に出ていく。しかし〈幽体化〉の効果で、その声はサジの耳に直接届く。
負けたまんまじゃ、顔を合わせるなんて、恥ずかしくて出来ないんですよ、と。
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